(10)化け物だらけなんですが

俺は辺りをざっと見回して状況確認をした。

様々なことが目まぐるしく起こっているので、少し整理しないとわからなくなりそうだったから。

曇っていた空がうっすら晴れて日光がさしてきている。

鬼兵隊と桂一派とが戦っている中で、日光の当たる船の屋根の上に人がいるのがちらりと見える。
四人。

屋根の右の方に二人いるのは、鍛冶屋の村田さんに、紅桜が右手の似蔵さんだ。

左側にもう二人立っているが、どちらも知らない人。
橙色のつなぎを着た、青い短い髪の(恐らく)女に、

黒い半袖の服の上に白地の着物を片袖脱いで着ている、銀髪の男。
着物は、白地に水色っぽい裾模様がはいっている。

銀髪の男に、少し見覚えのあるような気がしたのだが……きっと気のせいだろう。

そのまま視線を下ろしてみると、火の上がっていない船室の入り口へ高杉さんが入っていった。

高杉さんの背後を護るようにまた子さんと武市さんが辺りに気を配りながら、船室へ入っていく。

しばし間をおいて、その後を追うように、桂と眼鏡の少年、夜兎の少女が走り込んでいった。

幹部達は、ここを俺達に任せてどこへ行くんだろうか…。

ふと後ろから、気配を感じた。

ふりむくと、桂の手下の男が俺にむけて刀をふりおろすところだった。

「!!」

俺はとっさに刀で攻撃を受け止める。

刃のこすれるキィン、と音が耳をさす。

俺は相手の刀を跳ね返す。

相手はガキだとなめていたんだろう、一瞬驚いたようにスキができた。

そのスキをついて、男の腹を俺は横に斬りさいた。


大量の真っ赤な液をふいて、男は倒れた。

俺の右手の刀も、赤く染まっている。

呆気なく、自分より体格のいい男を倒してしまった。

相手が弱くてよかった、というよりも。

人を、殺して、しまった。
……いや、仕方ないんだ。

そうでなければ、生き残れない。

そう思って視線を男から離すと、
またもう一人、桂の手下の男がこちらにむかって走ってきた。

「んのガキがぁぁっ!!」

叫びながら刀をふりおろしてきた。

ばっとかわして、俺は男の胸の前に刀を差し出した。

男はそのままバランスを崩し、倒れて刃が胸を赤く染め上げた。

悲鳴やら血やらをあまり見たくなくて、すぐに俺はその場を離れた。

二人係でこちらに攻撃をしてくる奴も、一人でなめてかかってくる奴もいたが、
俺は大した怪我することなく、数人、桂の手下を斬っていった。

返り血とかすり傷の血で、刀だけでなく羽織や着物も赤く染まっていく。

俺みたいなのがこんなにあっさり斬れるとは、桂の手下って、実は弱いんだろうか。

俺が強いのか?
…いや、それはないだろう。

あちらで苦戦している隊員がいるな、と思い敵を後ろからついたり、真っ正直から来た奴を返り討ちにしている最中。

「あいつちっこいくせにうすら強ぇぞ、気ィつけろ!」

という声が聞こえて、誰か桂の方に要注意の奴がいるのかと思ってふりむいた。

…………あれ。

……やたらこちらに視線がむいている気がするんだが。

他に視線がむいているところはないかと辺りを見回すと。

屋根の上で、似蔵さんと銀髪の男が戦っているのが見えた。

似蔵さんの動きは、もう人ではないかのように機敏に、だけども苦しそうだ。

仕留めきれはしなかったものの、桂や白夜叉と戦った似蔵さん…いや紅桜と、
銀髪の男は互角にやりあっている。

あの男は………?

男の動きを少しの間見ていて、俺は思い出した。

あの男。

高杉さんに助けられたあの日、炎の中で暴れていた人達の中で一人、桁違いの男がいた。

銀色の髪が、白い羽織が、返り血と炎の光を浴びて赤っぽく染まっていた。

恐怖に飲み込まれていたその時に視界に入った彼が怖くて怖くて、覚えている。

その男の動きに、よく似ているのだ。

雑なのに確実な剣の振り方、攻撃のかわし方、何もかも。

銀髪の男を見ていたら、大きい男が三人同時に俺に襲いかかってきた。

これは弱い物いじめではないんだろうか!

仮にも子供に!

とりあえずかがんで膝をついて、その辺に転がっていた刀を左手で拾い上げ、二本の刀で攻撃を受けた。

キリキリ、と刀と腕が音をあげている。

……痛ぇ…。

足を回して、一人の男の足元を崩してから俺は立ち上がった。

いきなり後ろに転んだ同胞に何があったのかと驚く残りの二人を、両手の刀で力を振り絞ってなぎはらった。
その時。

左目のすみに赤がうつる。

「……っえ……?」

俺の左足の膝より少し上から、赤い刃物がでている。

状況を理解する前に熱と痛みが走った。

後ろから、左足を貫かれたのだ。

さっき転ばせた男に。

「……っう…!!」

痛みを堪え、右手に握った刀で、俺は俺の足に刀をさした男の左胸をついた。

大男を三人倒したはいいが、左足が痛くて痛くて声も出ない。

刀をぬいたが、血が溢れるだけで止まらない。

血が苦手な普通の女々しい女子ならコレ気絶するんじゃないだろうか…。

仕方なく俺は足を引きずり船の端へ行き、羽織を引き裂いて、左足の傷口に何重にもして巻いた。

その間にも襲いかかってくる男がいる。

座った状態のまま、俺は刀を男の腹にさし、ちらりと屋根の上に目をやった。

すると、信じられない光景が目に飛び込んできて目を見張った。

「……何だよ、あれ…」

似蔵さんがほとんど紅桜に侵食されている。

上半身が、大量のごちゃごちゃした機械の触手におおわれている。

破けたがかろうじて残っている緑色の着物でしか、遠巻きからでは似蔵さんと確認できない。

……いや、もう人間とは思えない…。

あれは化け物だ。

銀髪の男は、その触手に首や腹を絡めとられて、宙ぶらりんになっている。

侵食された似蔵さんが、触手で屋根を壊し穴を開けた。

そこに、似蔵さんと絡めとられた男が落ちていった。

…中で、高杉さんやまた子さん、武市さんに追突してないといいんだが……。

というか、あの化け物はちゃんと似蔵さんに戻るんだろうな!?


壊れた屋根の後ろに、鬼兵隊や桂の軍の船よりも大きな船…というより、宇宙船が見えた。

晴れわたった空に浮いた宇宙船は、だんだんこちらに近づいてきている。

宇宙船に描かれたマークを見て、桂の手下共が騒ぎだした。

「なんだあの巨艦は!?味方の援軍か!?」
「いや、あの旗は…!」
「バ、バカな、何故奴等がこんな所に!?」

「春雨!!宇宙海賊、春雨だ!!!!」

俺は、春雨のマークを初めて見た。

だが春雨の船ということは、あの船には……。

春雨の宇宙船の上に、俺の期待した人影が見えた。

そう、万斉さんの群青色の服が小さく見える。

宇宙船はこの船との間に機械の橋を架けて、
この船に乗り込んできた。

攘夷志士なんだから、天人の集団である春雨は敵のはず。

なのに、天人達は乗り込んできて早々に桂の仲間を攻撃していた。

天人を見ると、背筋が凍って鳥肌が立ってきてしまう。

宇宙最強の天人の夜兎は人間に近い姿なのに、なぜこんなにもここにいる天人達はグロテスクというかなんというか……。

「鬼兵隊、怪我人から春雨の船に移れ!!戦える奴は残れ!!」

鬼兵隊の隊員が、声をはっている。

座っている俺に、腕を怪我した鬼兵隊員が、

「新入り!移るぞ!」

と声をかけてきた。

「はい!」

俺は何が何だかよくわからないで返事をするが、立つのもままならない。

「……っ……」

刀も使ってやっと立ち上がると、声をかけてきてくれた隊員の男の人が俺に肩を貸してくれた。

「いやっ、貴方も怪我してるんですし大丈夫ですよ!」

あわてて俺は言ったが、

「おめェの方がちっちゃいのに重傷だろ!」

とそのまま俺を助けてくれた。

「にしても新入り、お前ちっさいし新入りのくせして強ェなぁ、感動したぞ俺は!」

「!?」

強い?俺が?

「い、いえいえそんなことあり得ませんよ、何をそんな……」

苦笑いをうかべながら本音を言ったところで、

「おーう邪魔だ邪魔だァァ!万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!!」

聞き覚えのある声がした。
振り向くと、夜兎の少女と眼鏡の少年が鬼兵隊や天人をなぎはらっている。

暴れる二人の後ろには、さっき似蔵さんと戦っていた銀髪の男が、橙色のつなぎを着た女に肩を借りて歩いていた。

男は、生きていたのが不思議なくらいにぼろぼろにやられている。

俺は痛みで上手く回らない頭を回転させて考えた。

“万事屋銀ちゃん。”

思い出した、あれはかぶき町にあった店の名前だ。
郵便局に行く際に前を通った。

この男が、その“銀ちゃん”なのか。

もし、“銀ちゃん”というのが“銀時”のアダ名だとするなら。

高杉さんが言っていた“銀時”は、
似蔵さんが倒したと言った“白夜叉”と同一人物の可能性がある。

俺が炎の中で見たのは、この銀ちゃんと呼ばれる男が暴れていた姿かもしれない。

高杉さんなら白夜叉と共に戦った過去があるので、本名を知っていてもおかしくはない。


それら全てを混ぜ合わせて考えると。

この銀髪の男は、
今はかぶき町の万事屋銀ちゃんだが、過去は高杉さんや桂、坂本と共に戦った白夜叉であり、本名は銀時。

まぁほとんど想像だから、間違っている可能性の方がよっぽど高いのだが。

桂もいつの間にやら戻ってきて、鬼兵隊や天人を斬っていく。

この取り残された鬼兵隊員はどうなってしまうんだろうか。

そういえば、鬼兵隊がなぜ春雨の船に乗るようにと命令が下ったんだ?

なぜ、春雨が味方しているんだろうか?

肩を貸してくれている男の人に聞いてみた。

すると、

「お前なんも聞いてないのか?」

驚いたように逆に問い返された。

なんせ新入りですから。

俺が頷くと、

「あの方は、幕府を潰すために春雨の後ろ楯を得たかったんだよ。似蔵さんが桂を殺ったって聞いてね、その話を春雨に持ちかけたら上手いこと春雨さんがのってくれたのさ。どうやら以前、桂は春雨と一悶着やらかしたらしくてね。その交渉に行ったのが河上さんだ。」

さらりと説明してくれた。

そうこうしている間に、俺とその人は春雨の船に乗った。

高杉さんとまた子さん、武市さんもいつの間にかに春雨の船に乗り込んでいて、
万斉さんと共に、春雨の船の甲板から天人と鬼兵隊、桂達の動きを眺めていた。

桂は、桂の手下、夜兎の少女と眼鏡の少年に退くように指示を出したようで、

さっきまでいた船の上には背中合わせになった万事屋銀ちゃんと桂本人、そして二人を取り囲む天人と鬼兵隊だけだ。

この状況を見ると桂と万事屋は知り合い、いや背中を預けるほどの仲だ。

やはり万事屋は…。

それにしても、こんな大勢に囲まれて勝てるわけない。

その圧倒的不利な状況で、
二人は暴れだした。



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