(5)狂気じみた人達です

結局、また子さんは似蔵さんの部屋に説教をするため押し掛けに行った。

俺は自室でやることもなく空を眺めること2時間。

どれだけ人に時間を消費させるのが得意なんだあの人は……。

眠くなってきて万斉さんを待つのを諦めかけた時、襖の向こうから声をかけられた。

「雨霧殿、起きてるでござるかー?」

俺は眠くなった目をこすって襖をひいた。

「…起きてます。」

すると万斉さんは口元を緩めて小さく笑い、

「行くでござる、拙者についてくるでござるよ」

と身に纏った群青色の長い裾をひるがえす。

説明、とは見せたいものでもあるのだろうか。

似蔵さんの刀だとしたら一度見てしまったから、断るべきなんだろう。

「……ぬしは…」

少し歩いたところで背を向けたまま俺に話しかける。

「先ほどあやつに刀を見せてもらっていたでござるな」

見られていないようでみられていたのか、高杉さん同様…。

「はい、月で紅色になったのも見せてもらいました。」

気がつくと、周りがさっきまでの和風な造りでなく
機械を組み合わせて壁を作ったような銀色の通路を歩いていた。

「この色でござるな?」

万斉さんは、1つの銀色の扉を開いた。

中からもれた妖しげな紅色の光。

「……ここは…?」

中を恐る恐る覗いてみた。

太いものから細いもの、床や壁に沢山の管が足の踏み場もないほどぐちゃぐちゃに張り巡らされている。

それらの繋がる先は、数えきれないほどある、人一人入れるくらい大きな筒型のガラスケース。

ガラスケースには時々気泡のような物がポコポコと吹きでている、紅色の液体で満たされていて、その中には似蔵さんが見せてくれたような刀。

それが禍々しい色を放ちながら沢山並んでいた。

「これ…似蔵さんの持ってた紅桜と一緒ですか…?」

こくり、と万斉さんは俺の問いかけに頷いた。

「いかにも…そして、この刀こそが対戦艦用機械機動兵器紅桜でござる」

対戦艦用って名前はごつい兵器のようだが、ただの刀だったのか。

……いや…

「あのー…これ、普通の刀じゃないんですよね?」

俺が不安になって訊いてみると、

「もちろん、ただの刀ではないでござる」

紅色の光を身に浴びて小さく笑みをうかべた。

最近流行りの音楽が聞けるとかコロコロがつくだとか、そんなのではないと信じよう。

「江戸一番の刀匠とうたわれた村田仁鉄が打った刀、妖刀紅桜を雛型に仁鉄が息子鉄矢によって打たれた…いや、造られたのがここにある紅桜でござる」


村田仁鉄…聞いたことがある。

「ここにある紅桜や似蔵殿が持ち出した紅桜には、電魄と呼ばれる人工知能が組み込まれていてな…」

彼は少し楽しそうに話しを続ける。

「ある人間が持つことによりその者に寄生し、戦いの経緯をデータ化して強さを増す……つまりは強い相手と戦いを繰り返せば繰り返すほど向上する、それが電魄の能力でござる」

だから似蔵さんは辻斬りと呼ばれる身になって、強い人と戦いを繰り返してるのか。

「まぁ刀を持った者が寄生され、いつまで我を保っていられるのかは拙者の知ったことではござらんがな…」

万斉さんは、ぽつり、と恐ろしいことを呟いた。

「…似蔵さんは…!?」

慌てて訊ねた俺にちらり、と目線を寄越してから万斉さんは

「晋助の思想を一言で言えば……ぬしは、なんだと考える?」

突然わけのわからない質問を問い返され、
俺が口ごもっていると


「破壊」


一言、彼は答えた。

そう言われても意味がよくつかめない。

なんで、このタイミングにこんな事を言い出したんだろう、と思って俺は小首を傾げた。

「幕府を、ですか?」

「全て、でござる」

それを聞いた瞬間、ゾクリと背筋を冷たい何かが通った。

万斉さんは、サングラスの奥の瞳で遠くを見据え続けた。

「晋助は…この世そのものに、はかり知れぬ憎しみをいだいているでござる。
故に、奴は幕府も江戸も何もかも最後にはきっと我々さえも壊してしまいたいと望んでいるのでござるよ……鬼兵隊は、それに異論もなく協力するだけでござる。
あやつの破壊の為ならば……」

「もしも鬼兵隊が、自分達が壊されたとしても異存はないと…?」

俺が言葉を続けると、
にぃ、と妖しく笑った。

正義感の強い人間、いや、普通の人間やならば、
『悪逆非道だ!』とか、
『仲間殺しは許されないだろう!』とか、
『中二病患者だ…。』
と怒るか、ひくか、どちらかなのかもしれない。

だけど俺は、無意識に口から言葉がもれていた。

「……綺麗だ……」

破壊というただ一つの目的のためなら何を壊そうと構わない。
仲間だろうと何だろうと。

そんな生き様、普通壊れた後が恐ろしくて出来ないんではないだろうか。

そんなことをやってのけようとし、最後はそう壊されるとわかってなおついてくる人がいる。


それを俺はすごいと、綺麗だと思った。
この部屋に満ちた紅色の光のように。

きっと俺はもう魅せられていたんだろう。


俺のもらした一言を聞いて、万斉さんは驚いたように口を開けて俺をしばらく見ていたが訊ねてきた。

「ぬしも、そう思うか?」

「はい」

俺の答えに満足げに口を歪ませてふっと笑い、

「やはりぬしもわかっているでござる」

ポンポンと俺の頭を撫でた。

「特に似蔵は晋助への崇拝も強くて、奴は自ら望んで晋助の剣になることを決めたのでござる………ちなみに言っておくと拙者はこの音楽にノれなくなったら退くことも考えているでござるよ」

つけくわえて教えてくれた。
が、後半はよくわからない。

俺はふと思い出した。

紅桜をつくった目的を聞いていない。

「万斉さん、この紅桜を使って何をー…」

言いかけて、俺は口を閉じた。

破壊、か。

「お察しの通りでござる」

そういいながら、俺の頭を撫でていた手を服のポケットにつっこんだ。

「はてさて、これで満足でござるか?」

「はい、ありがとうございました!」

俺は出口へ向かう万斉さんに一礼した。

一つ、なぜ高杉さんがそこまでこの世を憎んでいるのか少し気になったけれど、これを万斉さんに聞くのは何かが間違っている気がする。

「うむ、では行くでござる」

行き同様、俺は万斉さんの後をついて歩いた。

「そういえば雨霧殿…」

何かを言いかけた万斉さんに、俺は先ほどからつっかかっていた事について言ってみた。

「あ、万斉さん、俺まだまだ一人前じゃないんですし、殿なんてつけないでいいですよ??」

雨霧殿という呼び方が、さっきから歯がゆかった。

昔から柚希や柚、柚ちゃんなんて呼ばれ方をしていたのだから不慣れでしょうがない。

「む…では、雨霧と呼ぶでござる…。」

少し照れ臭そうに、頭をかきながら万斉さんは答えてくれた。

その方が気が楽だ。

「ありがとうございます。」

俺が礼を言った後、言葉を続けた。

「ぬしは、寺門通殿のファンでござるか?」

さっきまでとは無関係なことを言い出す万斉さん。

「……え?…あ、まぁ好きですけど…。」

そう俺が不可解な顔で答えると、

万斉さんは

「む…。では、拙者の部屋まで来てほしいのでござるが」

相変わらず、この人は意味がわからない。

「はぁ、わかりました…。」

俺が万斉さんに連れられてそのまま部屋に行くと、

数枚CDを渡された。

もちろん、寺門通ちゃんの。

「いやぁ、よく仕事がらみで何枚も同じものをもらってしまうでござる、お裾分けでござるよ」

さっきまでの妖しい笑いをうかべていたこの人はもういないかのように朗らかに言葉を紡いでいる。

俺は苦笑いで、

「色々とありがとうございます…。」

と言うけれど、CDデッキもないあの部屋でどうやって聴けというのだろうか。

そして万斉さんは、本当に満足げに

「では良い夢を見るでござるよ」

と言いながら襖をしめた。

CDを持って階段を降りると、また子さんが歩いてきた。

「ん、おかえりッス」

少し不機嫌そうに俺に声をかけてきた。

似蔵さんに色々言ってきたんだろうな。

「お疲れ様です」

と笑って言うと、

「全くッスよ!」

勢いのある返事が返ってきた。

そして、思い出したように
「柚希」

俺を呼んだ。

「何ですか?」

また子さんはそのまま自分の部屋に入っていって、
布団一組を抱えて持ち出してきた。

「使うと思ってさっき持ってきたんス!」

失礼だけど、万斉さんのCDよりもまた子さんの布団の方がよっぽど助けになる。

俺の手に握られたCDを見ずに、また子さんは荒っぽく俺の腕に布団を乗せる。

「ありがとうございます!助かりますっ!」

前が見えにくいまま俺は礼を言った。
するとまた子さんは、

「じゃ、お子ちゃまはもう寝るんスよ!」

と笑って手をふりながら部屋に戻っていった。


鬼兵隊に入隊して、真選組のお偉い方に会うなんてイベントだらけの1日、もうこの先ないんじゃないんだろうか。

そんなことを考えながら布団を敷き、温い布団に入り込むと一瞬で眠りに落ちていた。



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