【43】

(195) ×ノーマルホワイトデー

3月14日、晋助はバレンタインに貰ったチョコと同じ数の包みを持って学校に来た。

「解せぬ」

「何がだ」

「どうして拙者は貰えなかったのに晋助はあんなに貰ってるでござるか…やはり顔か?顔なのか?」

「お前はとりあえずサングラス外すとこから始めろ…っつーかほしいのか?」

「いやそんなには」

「……」

下駄箱に一つ一つ包みを入れていく晋助。

「手渡ししないんでござるか?」

「あっちが手渡ししてこねぇんならこっちもする気が失せると思わねぇか?」

「……そうでござるな」

その会話で万斉は一人の少女を思い出す。

「そういえばあの女子はどうした……ええ…また子殿?でござったか」

「来島はちゃんと会って返すぜ?メールした」

「晋助が女子とアドレス交換…!!成長したでござるな…!」

万斉は以前晋助にアドレス交換を申し込んだときの晋助の浮わついた様子を思い出し涙を拭うフリをした。直後晋助に回し蹴りを食らったが。

「そういえばアイツ俺達の仲間になったらしいぜ」

「!?晋助何言ってるでござるか!?」

「いや俺もよくわかんねぇけど」

仲間になると言っていただけ、と軽くいきさつを説明したら万斉は納得したようなしてないような微妙な顔でふむ、と頷いていた。

「して晋助、その中身はなんなんでござるか?クッキーか何か…」

「知りてぇか?」

「……いや別にそんなに「教えてやるよ。聞いて驚けよ?」

質問を聞いた晋助は万斉との距離をつめ、誇らしげな面持ちで囁く。


「……ヤクルト、だよ」


「…それは驚いたでござる」

「クククッ、だろォ?」

二人の驚くの意味は遠くかけ離れているのだか、晋助は万斉の返事に満足げに微笑んだ。



〜〜〜〜〜


(196)ヤクルトショック

放課後、彼女はまた校門の前で待っていた。

「よォ」

そわそわと落ち着かないまた子の後ろから声をかけると、また子は肩を震わせ晋助の方に振り返った。

「あ、あっ、あのっ晋助様……!!」

「この間はどうもな、悪かなかったぜ」

余裕のある晋助の笑みに、いっぱいいっぱいのまた子は顔を赤くした。

そんなまた子に晋助は他の女子に渡したものより一回り大きい包みを差し出し言う。

「お返し、だ」

恐る恐ると言ったようにそれを受け取り、また子は頭を下げた。

「あ、ありがとうございます晋助!!」

「ああ……じゃあ」

「あのっ晋助様!」

場を去ろうとするとまた子にひき止められ、晋助は続きを促す視線をそちらに送る。

「し、晋助様はっ…どこの高校に行かれるんスか…?」

「高校…?ああ…まだ決めてねぇけど、銀魂高校かもなァ」

銀八の顔を思い出しながらそう答えると、次こそ静かにその場を離れていった。


「……?あれ?決めてな……??」

晋助が受験していないと言うことは、同級生もしくは年下かという事実に戦慄しながらまた子は手のひらの包みを見つめた。

中身が気になり、開けると中に入った2本のヤクルト。

「……ミ、ミステリアスで素敵っス…」

想像を絶したヤクルトというお返しは更にまた子の混乱を招くことになった。

「ミステリアスすぎるッスゥゥゥゥ!!!!」


〜〜〜〜〜


(197) 桜祭り


銀八も晋助も春休みが訪れ、桜が咲きはじめたある日二人は電話越しで小さな言い争いをしていた。

「銀八ィ」

『今度でいいだろ…』

「お前もう教員試験はじまっちまうんだろ?今度っていつだよ」

『お前だって今年はもう受験生だろーが、勉強しろ勉強』

「今度の逃したら来年じゃねーかよ」

『来年でいいだろ!二人ともカタがついてんだ…お前友達と行けばいいだろ、万斉クン?とか』

「でけぇ財布がなきゃつまらねぇよ」

『金持ちのくせに人のこと財布とか言うんじゃありませんこのボンボン!!』

根をつめて勉強している銀八に、桜祭りに行こうと晋助なりの気遣いで誘いの電話をかけたのだ。
だが銀八も数ヶ月後には試験が始まるため行く気になれず、といった状況。

「…あっそ。じゃあもういい」

『あれ?ちょっ拗ねないでよ晋ちゃん』

「銀八は俺とどっか行くのはもういやなんだな」

『ねぇ聞いてる?俺そんなこと言ってないね??』

「万斉か武市か……あっ来島でもいいな」

『待て来島って女だろ!女と二人きりっておま』

そこで晋助はにやりとして通話を切った。

放っておけない銀八の性分を理解している晋助。ずる賢くなったものだ。


そして数日後。

「ちょっとだからな、ちょっと。午後になったら帰るかんな」

「銀八ィ桜の扇子売ってる」

「話聞いてねーだろ!」

結局銀八は晋助の手を引いて二人桜のしたにいた。

「センス?」

「ほらこれ」

店先に置かれていたものをぱっと一つ手に取り、開いて銀八に見せる晋助。

「…なんだよ」

その姿に銀八はデジャヴのような懐かしい感覚に陥った。
いつの間にか成長して未完成な色気を感じとり、その場で一瞬フリーズする銀八。

「……あ、あ悪ィ。似合ってんじゃねぇの?」

「今ぼんやりしてたろ、寝不足かァ?」

検討違いなその返事に笑い、他の扇子を眺める。
きっと気のせいだろ、晋助の言う通り寝不足……と考えながら一本煙草に火をつけ、そんな晋助の後ろ姿を眺めた。

すると一つに目をとめたらしく、銀八を振り返り言う。

「受験の応援に買ってくれてもいいんだぜ」

「素直に買ってくれって言えよ!つか金持ちだろお前!腹立つなオイ」

つか受験冬なんだからいらねーだろ、とぶつくさいいながら晋助の手にある扇子を覗き混む。

紫と薄紅の艶やかな扇子。

「……お前ホント紫好きね」

「悪ィか?これがダメならこっちの青の…」

「げ、青の方が高ェじゃん!これでいいだろこれで」

季節にはまだ早い新品の扇子を機嫌良く眺める晋助。

「よかったな」

「おう」

「あれ?俺が買ったんだけど?晋ちゃん何か言うことない?」

「気に入ったぜ」

「いつからそんな子になっちゃったの!」


〜〜〜〜〜


(198) 中学三年生


「ついに別れのときが来てしまったでござるか…」

「まぁ、いつかこんな日が来ると思ってたさ…」

「クラス分け程度で何言ってるんですか、そのノリは卒業式にとっておいてください」

「……」

武市の冷静なツッコミに黙り混むその二人は、去年一昨年と一緒だったクラスがバラバラになってしまったのだ。

「今年も高杉さんと私は一緒ですね」

「ああ…よろしく頼まァ」

教室に入り、たいして代わり映えしない面子を横目に指定された席につく。武市の一つ前の席。

「今年も同じクラスですね」

ふと右から大人しい声が聞こえてきた。

声の主は、黒子野太助。

実は晋助と同じ小学校に通っていたのだが、お互いほとんど接点ないままに、晋助より前にこの地域に引っ越してきていた。

そして中学に入り、しばらくは黒子野の影の薄さに晋助も気づくことができたかったのでつい最近発覚したことなのだが。

そんな黒子野とはあまり会話はないものの、他のクラスメイトよりは会話も多く、三年間クラスが一緒なのだ。

「…あァ、よろしく」

黒子野は小さく笑顔を見せた。


〜〜〜〜〜


(199) 第一次ジャンプ争奪戦

「やべ今週のジャンプまだ買ってねぇじゃん!!」

月曜日金欠でコンビニに寄らなかったことを思い出し、アパートを飛び出した銀八。

(コンビニ…はもう立ち読みされ尽くした表紙が折れ曲がったようなのしかねぇかもしれねぇな、となると…)

頭に浮かんだのは、たまにしかいかない神社の隣の本屋。

客数はさして多くない中に入り、さて雑誌のコーナに向かう。

(ジャンプは…と、あったあった一冊しか残ってねぇじゃん危ねぇ)

他の雑誌に紛れているそれに手を伸ばす。

脇からもう一本腕が伸びてきて、銀八の腕とその腕ほぼ同時に一冊きりのジャンプをつかんだ。

「「あ」」

相手は、目元まである茶髪で目がほとんど見えていない男。

「……あ、すいません」

「いやこちらこそ」

二人とも獲物をとらえた手は固く、言葉こそ謙虚な姿勢を見せるものの一向にその手が離れる気配はない。

「やっベーなー俺これ逃すと受験生なのにモチベーション下がっちゃうな〜」

「いやいや受験生は勉強した方がいいと思うね、駆け出しの新社会人の方が読むべきだと思うな〜」

「いやいやいやもしね、これを俺が読めなかったことで試験に落ちたら誰が責任とんだって話ですよ」

「いやいやいやいや落ちちまったならそりゃお前さんの努力不足以外のなにもんでもないから」

そんなやり取りを続けているうちに、ジャンプはじわじわとダメージを受けていく。

「ちょすいません俺のジャンプから手離してもらえませんか」

「そっちこそ離しどうなんだもしくは他所で買えば」

「コンビニでさんざんまわされた後のビッチなんてとても読む気になんねーんだよ!」

「愛が足りねぇな愛が!疲れて型崩れしたくらいが最高だと言ってみろ!」

「じゃあお前がコンビニ行けェェ!!」

「うちの近くコンビニ全くねぇんだ、全然コンビニエンスじゃないのよここが一番近いからいやだね」

「本屋ではお静かに、じゃぞ」

大人気なく本屋でやいやいと騒いでいると人形のような少女が男の後ろからひょこりと現れた。

「阿国、」

「何が新社会人だよ、アンタ娘いるじゃねーか」

「こいつは娘じゃねーよ。ピザ屋の宅配バイトしてた時に顔馴染みになった」

「なんかおかしくね?」

阿国と呼ばれた少女はス、とジャンプを指差した。

「それ、あと一分も口論を続ければ引き裂かれるとこじゃったぞ。全蔵、わしのジャンプ貸してやるから我慢せい」

「……だーもうわぁったよ、」

どうにも阿国には弱いらしく、渋々とジャンプから手を引いた。

二人が揃って店を出て、神社に向かっていく姿をぼんやり眺め

「……なんだったの、今の」

小声で呟いた。
ま、ジャンプ買えたからいっか。


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