【42】

(190) サボりながら勉強

「高杉先輩見ててください!」

「ああ」

すっかり技術室の物置部屋を根城にした晋助は、三郎の実験やいじった機械などを眺めて暇を潰していた。

今日はまた晋助にはよくわからないが太陽光を利用するものの試運転らしい。
そんなものをどこで手にいれるのやら。

以前より一回り小さくなったその車を走らせ、晋助へゴーグル越しに輝く視線をむけてくるその様はまるでどこか犬のようにすら思えた。

「……少し、この間のよりスピードあがったか?」

「わかってくれますかぃ!今回はまず軽量化する方法を見直して、…」

素人のアバウトな意見ですら、三郎は嬉しそうにしてくれる。

「お前そろそろ期末だろ、こんなにサボって機械ばっかいじってていいのかよ」

三郎は晋助の言葉にギクリと体を強張らせる。

「……先輩だってそうじゃないですか」

「俺なら心配ご無用だぜ、こう見えて頭は悪ィ方じゃねぇ」

「そうなんすか?」

「ああ。なんなら教えてやってもいいけど」

「!!本当ですか!」

「お前何が苦手なんだ」

「技術物理以外」

「……広すぎだろ」

今問題集とか持ってるのか、と聞くと三郎はバッグから英語の問題集を取り出した。

「英語か…」

一年前に使っていたものと同じで懐かしい、と中身をパラパラめくった。

「…てめぇなんだこの落書き…?」

そこにかかれた単語の数より圧倒的に多い何かの設計図達。

「いやぁ……ははは…xとか見たらドライバーさしたくなるじゃないですか…「何をどうしたらアルファベットがネジに見えるんだよ!?」

辛うじて書き込んであるところを眺めても晋助は苦々しい顔をする。

「be動詞の使い方無茶苦茶じゃねぇか…単語の綴りも疑問詞も…」

「先輩…be動詞ってなんですか?」

「……そこからかよ…」

晋助は頭を抱えて1から教えてやることにした。


〜〜〜〜〜


(191)異色な少年達

試験まで一週間を切って、それでも授業中あまり教室に現れない晋助。そんな彼の席に彼と仲のいい二人は集まっていた。

「最近よくサボりますね、感心しませんよ全く」

「後輩に勉強教えてんだ、感心だろ?」

その言葉に二人は驚いて晋助を二度見した。

「……なんだよ?」

「不良とは思えない善意的な行為なので」

「晋助拙者も教わりたいでござる!!」

「万斉は武市に教わればいいだろーが」

「幼女のプロマイドとか条件にしてくるでござるよ」

「ぬかりねぇな」

「おほめに預かり光栄ですね」

「ほめてねぇよ」

男子学生らしい馬鹿げた話を続けていると、武市が表情を変えず声のトーンを少し落として二人に小さく告げた。

「ネットでとある方に知り合ったんですが」

武市はおもむろに携帯をとりだし操作する。

「まだ知り合って間もないので正確な情報かはわかりませんがね、この辺に住んでいらっしゃる方らしいんですが…父親が警察のなかなか地位の高い方だとか。しかも薬物所持者の捜査なんかにも関わる……とか」

万斉と晋助は反応の色を見せた。

「それが事実か確証を得られたら、またお話します」
「……頼まぁ」

晋助の仇討ちに協力するといった二人は本気だった。



〜〜〜〜〜


(192)侵入

テストを目前に、あの日がやってきた。

他校から晋助の学校の門に侵入したまた子は、手作りの可愛らしいラッピングが施されたチョコレートを抱き込んでうろうろしていた。

正直男子にチョコレート等渡したことのない彼女は動揺のあまり挙動不審な不審者に成り果てている。

((乗り込んでみたはいいっスけどこのあとどうすりゃいいんスか…よく考えれば晋助様の教室どころがこの学校の入り口も仕組みもいやまず学年すら知らないッスよ!?))

「……ややっあれは」

そんな金髪少女を二階の教室から見つけたのは、万斉に勉強を教えていた武市だった。

「やっぱりわからんでござる」

「そうですねぇ…なぜでしょう」

「何故因数分解なんてものがこの世にあるでござるか!こんなもの世に出ても使わんでござる!!」

「何故彼女がこんなところに」

「……ん?」

万斉もその言葉を聞き、武市の視線の先に自らも目をやる。

「…あれは、」

また子から聞こえてくる歌は、困惑と動揺で音が安定しないラブソング。

「……ああ、晋助にチョコを渡しに来たのに迷ったようでござるな」

万斉は席を立ち、一階まで降りていった。
武市もそのあとに着いていく。

「やや、そこの」

不意に話しかけられたまた子は驚いて、声の聞こえた方から半歩引き戦闘体勢で振り向いた。

「……って、あんた…晋助様と一緒にいた…?」

万斉の姿に緊張を少し解くが、後ろの武市を目でとらえると再び体をこわばらせる。

「安心なされ、拙者等はぬしに危害を加えるつもりはない…晋助に用事でござろう?」

晋助の名に顔を赤くしたまた子は小さく頷いた。

「拙者河上万斉と申す」

「私は武市です」

「……来島、また子っス」

「晋助なら後輩に勉強を教えているでござろう」

「!!そ、そうなんっスか!」

不良でありながら後輩を大事にするなんてさすが晋助様…とうっとりするまた子。

「じ、じゃあ晋助様は今どこにいるんスか?」

「それは拙者達も知らぬ存ぜぬでござる」

「えぇぇぇ…目星とか、なんかいそうな所ないんスか?」

「彼は黒猫のように気ままな人です。私達が預かっておきましょうか?」

武市の言葉にまた子は一瞬悩んだ。が。

「手渡ししてこそ意味があるッス!!」

きっぱりそう言う。

「まだ校内にはいるんスよね?」

「荷物があったからいるでござろう」

「じゃあアタシ校門で待ってるッス!!」

「「えっ」」

また子の言葉に動揺する二人。

「もうそろそろ学校も終わる時間ッス、下手に探すよりその方が確実ッスから。じゃ、ありがとうございましたッス」

校門に向かいすたすたと歩いていった彼女に取り残された二人は、暫しその場でポカンとした顔で突っ立っていたものの、とりあえずと晋助を探しに校舎へ戻った。



〜〜〜〜〜


(194) ノーマルバレンタイン

それを知らず、晋助はちょうど学校から出ようとしているところだった。

((たまには銀八のとこに顔だすか…そこで勉強させてもらうかね))

自分が勉強を教えるうちに銀八のことを思い出し、ちょっと会いたくなってしまった。
晋助はあくびをひとつしながら校門を抜けた。
また子はちょっと晋助の眼帯によって遮られた視界の外にいた。

((晋助様!!))

晋助が数人の生徒たちに混じって校門から出てきたのを見て、また子はすぐに声をかけようとした。

銀八にアポを取ろうとスマホを取りだし銀八に電話をかけたところで、また子は晋助に思いきって声をかけた。

『おう、晋―「晋助様っ!!!」

銀八の声を遮ってきた、死角からの声に晋助は振り返る。

「お前確か……」

「きっ、来島また子ッス…!」

『えっ?何?晋助?』

「悪ぃ、かけ直すから」

晋助は電話を切りまた子を見た。

晋助と目を合わせては恥ずかしくなり、目をそらしを繰り返すまた子。

((何をためらうまた子!女は度胸ッス度胸!!!))

「あ、あの、こりぇ…う、けとってほしいッス!!!」

また子はチョコの包みを晋助に差し出しながら、呂律がまわっていないながらもそう言い切った。

「…俺にか?」

「は、はっはい!!」

「そうか。礼を言うぜ」

晋助はまた子の呂律も気にせずそう言い包みをうけとった。

「…メアド、」

「えっ??」

「なんかしらお前に連絡つかねぇとホワイトデー返せないだろ。」

当然のように言い放った晋助と思わぬ展開に目を白黒させるまた子。

「そ、それはつまり…あの、あ、アドレス交換…ッスか…!?」

「…嫌なら無理にとは言わねぇけど」

「い、嫌なわけないッス!!是非!!」

「赤外線でいいか」

アドレスを交換して「じゃあ、」とその場を立ち去った晋助の背中と、高杉晋助の名が追加された電話帳を交互に眺め、また子は嬉しそうに恥ずかしそうに携帯を握りしめた。



〜〜〜〜〜


(195) 膝枕

試験最終日、開放感に浸った心をぶら下げ、晋助は今度こそ銀八の家に行くことにした。

ピンポン、とチャイムを鳴らす。

「……新聞と家賃なら結構…」

そう細い声でいいながら、のろのろと銀八が出てきた。
眼鏡をかけた目の下にはクマができていて、疲れた顔をした彼は晋助を見るとその重たい瞼を少し開く。

「……えっ嘘もう夕方?えっ」

「安心しろ俺がテスト期間だっただけだ、まだ12時」

「あーよかった…」

頭をかきながら部屋に戻っていく銀八。
小さく「お邪魔します」と言いその背中を追いかける晋助。

いつもよりも汚く煙たい部屋の真ん中には電源の入ったパソコンがあり、脇には灰皿に大量に詰め込まれた煙草の吸い殻達。一本は吸っていた最中だったのか火が消えず煙が燻っている。

「悪ィ晋助、レポートで忙しいんだわ…昼飯食ったか?」

その煙草の火を消しながら銀八は晋助に訊ねた。

「あ……いや、まだ…俺帰った方がいいよな?」

「いやいやいやせっかく来たんだし居ればいいじゃねぇか。ただ今日はあんま構ってやれねぇけど」

銀八に腕を掴まれそう言われては帰る気もなくなってしまう。

「お…う…。銀八飯食ったのか?食ってねぇなら俺どっかで買ってくる」

「あっまじ?悪ィな…じゃあ頼むわ」

銀八は晋助に二千円握らせ、その背中を見送った。

その間にヤニ臭い部屋を換気しないとと換気扇をつけ窓を開け、銀八はまたパソコンに向かい直した。




「銀八ィハンバーガー買ってきたけど……」

数十分後、晋助は鍵が開けっぱなしにされていたアパートのドアを開けた。

窓から吹き入れる風でカーテンがはためいているその部屋の中から返事がない。

「銀八?」

パソコンに向き合った形跡のある銀八は、ソファーに倒れ気絶していた。いや、気絶したように眠っていた。

晋助が荷をおろし近づいても銀八は寝息をつくだけで反応がない。
その目の下のくまが昨日はあまり寝ていないであろうことを物語っている。

「……15分だけな」

銀八の頭の横に腰をおろし、銀の頭を少し撫でながら晋助は時計に目をやった。

銀八の前で眠ってしまうことはあっても、銀八の眠っている顔を見るのは久々な気がした。

いつもなにかと頼ってしまうこの男も、寝顔はどこかあどけなく頼りない。髪を撫で続けていると、銀八はわずかに眉を潜め呻き声を漏らす。

「……晋ちゃん…?」

そうしているうちに銀八はうっすらと目を開いて晋助はの名を呼んだ。

起こしてしまった、と内心慌てた晋助は「もっもう少し寝てろよ起こしてやらぁ!」と銀八のまぶたを手のひらでおおう。

「ん…」

起きているのか眠っているのかわからない生返事をして、甘えるように晋助の膝に銀八は頭を乗せてきた。

「…ぇ、おい」

その突然の行動に困惑した晋助は声をかけるが返事はもうない。

仕方なく銀八の枕になりながら
((違う頭が低くて寝づらかっただけだ深い意味はあるめぇ違う違う!!!))
とわずかにときめいた自分に言い訳を繰り返していた。

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