【38】

(170) 一組目

「いらっしゃいませー!」
「ご注文の方はこちらの列にお並びください!」

今年も銀魂高校の文化祭が始まった。

「坂田せんせーパフェ2つお願いします!」

「何で俺が主戦力ゥゥゥ!?」

銀八がパフェに異様な熱意を注いでいることがバレてしまい、彼はB組の抹茶パフェ作りに徹していた。

可愛らしい和風のエプロンを着けたミツバや女子生徒は接客をして、男子生徒は宣伝と金銭関係の担当、残りの生徒は裏方で物を作るか休憩。

何かと黒駒は3zに視察にいくと言い残し消え、客足は増えてんてこ舞だった。


「晋助は初めてではござらんのか」

晋助と万斉はもう銀魂高校に辿り着き、二人でパンフレットをパラパラと眺めていた。

「ああ。小学生の頃に一回来た事あるな」

あの頃は視線は低かったが視界はもっと広かった。


「いらっしゃいませ」

銀八が2年B組の副担当とは聞いていたので、晋助は一番にそこに行きたいと言った。

「呼びだすんでござるか?」

「いや。最近忙しくて会いに来ないから、ちょっと顔拝むだけだ」

((…健気でござるなあ…))

無論、万斉はもう晋助が銀八に抱く恋愛感情に気づいていた。
あえて素知らぬフリをするのが万斉という人間なのだ。

「ご注文は?」

「抹茶タピオカとパフェ」
「拙者わらび餅で」

晋助は甘いものは好きでなかったはずなのに珍しい、と思った万斉。

だが、食券と商品を交換する所まで行って理解した。

「晋助!」

奥で、学生に混じりパフェを作る男がいたのだ。

「やっぱりお前作らされてたのか。」

晋助は男─銀八を見て嬉しそうに笑った。

「うっせぇな。お前来るなら来るって言っとけビビらせんじゃない全くよ」

銀八も久々に見る幼馴染みの顔に少し安心し癒されたように笑う。

「お前パフェとタピオカ?珍しいね。お友だちは?わらび餅?ちょっと待ってろ」

銀八はまた奥に戻り、それらを持って出てきた。

「はいわらび餅ね。こっちが、銀さん手作りパフェと………タピオカ。」

いやらしく銀八は笑みを浮かべた。

何年前だったか、銀八が学生で文化祭の仕事をしていた時、晋助に初めてタピオカを飲ませた事があった。
お互いにそれを思い出していて、晋助は顔を少し赤くしてそれを受け取る。

甘酸っぱい空気と甘い音楽に万斉は頭を抱えながら、小さく言った。

「…晋助、席を取ろうでござる…」

「あ、ああ。悪ィな万斉!じゃ頑張れよ銀八。」

「お前も片目なんだし無理すんなよ。万斉クン?晋助頼むね」

その後も二人は目があってはクスリと笑いあったりしていて、全くどこのカップルだと万斉は呆れた顔をしていた。


〜〜〜〜〜


(171) 二組目

「姉さん!!」

B組の中で晋助達が一息ついている頃、ミツバの弟──沖田総悟がやってきた。

「そーちゃん!来てくれたのね」

その弟というのも栗色の髪に赤茶けた瞳の可愛らしい少年だ。

彼は姉にやけになついていて、ミツバに頭を撫でられると嬉しそうに目を細めた。

彼の近所でずっと仲の良い少年も二人一緒で、
一人はゴリラのような……彫りの深い顔立ちの近藤勲。
もう一人は、以前晋助とも面識のある土方十四郎。


「近藤さんも十四郎さんもいらっしゃい」

「どうも忙しい最中にすいません。そのエプロンお似合いですぞ、なっトシ!」

「俺にふるな!」

「うっせーよ土方さん」

ミツバの姿を見て微かに頬を赤くしていた土方は近藤に怒鳴った。

三人を見てミツバはクスクスと笑い、
「さ、注文どうぞ」
メニューを差し出した。


「……あれ、土方…?」

中から出てきた晋助は、入り口で見た知った人間に驚いた。

「!?高杉!」

土方の方も驚いて晋助を見た。

「驚いた。銀魂高校志望なのかお前」

「今のところ。高杉もか?」

「まぁな。お互い頑張ろうぜ、じゃ」

「お、おう……」

晋助があっさりその場を離れたので土方は少し驚きつつも後ろ姿を見送った。

「いつのまに知り合ったんですかィ?うちの学校じゃないですよね今の」

「あー……ちょっと病院で…?」

この後中に入って土方と銀八が顔を会わせた際に互いの悲鳴が響いたのは言うまでもない。


〜〜〜〜〜

(172) 三組目

代わる代わる客は入っていき、次に来たのは銀八の教え子二人とその連れだった。

「パフェ5にわらび餅5に……お前一人でこんなに食う気かよ!」

「女の子は甘いもの別腹アルよ!」

「男だって甘いもんは別腹だ!」

「銀さん私と九ちゃんの分もお願いしますね」

「ところでこの男高校生だったのか……?」

神楽、妙、九兵衛の分を作ってから新八にも声をかける。

「お前も手伝ってけ新八」

「嫌ですよ僕無関係じゃないですか!」

「いーやお前の連れのせいでこっちの生徒くたくたなんだよ男なら腹くくれ」

新八があたふたしていると、新八の後ろにいたもう一人が仲裁に入った。

「よせ銀八」

聞き覚えのある声に銀八は驚きを隠せなかった。

「ヅラ!?何でこんなとこにいんだよ?」

「ヅラじゃない桂だ!」

桂は今新八や神楽と同じ中学に通っていたのは知っていたが、まさか銀魂高校の文化祭に来るとは思わなかった。

「銀八は変わらんな。相変わらず目が死んでる」

「うっせーな。ご注文は?」

「ほうじ茶を一杯、ところで高杉を出せ」

「いや流れがおかしいだろーがァァァ!!」

新八のパフェと桂のほうじ茶を作ってから、銀八は休憩を取ると言い抜け出した。

「晋助ならさっきここに来たぜ。まだ校内にはいると思うけどよ」

「そうか。貴様聞くところによると数ヵ月高杉を自宅で拉致監禁したそうではないか、どういうことだ」

「ええええ!?聞くところって何!?どういう事!?」

拉致監禁、と聞き残りの四人も騒ぎ出す。

「妙ちゃんだから僕は言ったんだ!あの男には注意しろと!」

「銀ちゃんいつの間に犯罪者になってたアルか!?」

「してない!してないから!ちょっと預かってただけだから!」

その騒ぎに、遠くの席にいた土方達が気付きだす。

「なんだあの銀髪。高杉の兄貴とは思えねぇ騒がしさだな」

「あれ?あのチャイナ娘…」

沖田は一人席から離れて、その騒がしい席に向かう。

「総悟?」


「おい、そこのオレンジ髪のチャイナ服」

彼が声をかけると、銀八の胸ぐらを掴んだまま神楽はふりかえった。

「あ゛ん?こちとらお取り込み中アル一昨日出直して───」

神楽はその少年の顔を認識すると、言葉を失った。

二人の頭には、暑かった日の駄菓子屋前での決闘が鮮明に思い浮かんでいた。

「あああああ!お前!」

「ここであったが百年目でさァ!」

「酢昆布の敵アルゥゥゥ!」

二人はなんの躊躇いもなく、ものすごい早さで戦闘体勢に入った。

「総悟やめろ!」

「おい神楽よせ!」

そこに黒駒が入ってきて、店の状況に唖然とした。

「おいおいあんたら何さらしとんのじゃ!?」

それを聞き付けたミツバも中を覗き、

「そーちゃん!!」

一声叫んだ。


その瞬間沖田はスイッチが切れたロボットのように止まり、目にも止まらぬ早さで席に戻っていた。

神楽の方も銀八がさっさと首根っこをつまみ上げ退場させた。

沖田と神楽は最後にまた視線をあわせて互いに舌打ち。

「「次こそは……」」

このまさに宿敵、とでもいったように睨み合う二人がまだ面識が浅いことも、この後二人がどんな関係になるかも神のみぞしる。

「何この空気…もう銀さん疲れたんだけど…」

〜〜〜〜〜


(173) 巡回がてら

上手いこと仕事から逃げた銀八は、新八達と一緒に校内を回っていた。

「で、晋助をうちに泊めてたって誰に聞いたんだ」

「坂本という貴様によく似た頭の男だ」

「辰馬!?おま、なんで面識あんの!?」

「あやつはミステリーサークルなのだ」

「はい?」

「いや、ミステリー同好会と言った方が近いか」

「今の前後の全く別の代物だけど!?そういや辰馬のサークル知らなかったな。天体観測とかじゃねぇの?」

「天体観測と掛け持ちだそうだ。ミステリー同好会とは、今だ知られていない植物や生物の探究に力を注ぐサークルでな。俺のペットのエリザベスがそれに値するというので協力しているのだ」

「はーん。好きそうだなあいつ…」

食い意地はってあっちこっちと他の連れ達が移動する中、昔からそうだが桂は落ち着きがあった。

「いいの?射的やれば?」

「俺がやる前に景品がなくなってしまうわ」

神楽も妙も九兵衛も何故か怖いくらいに射的が上手く、きゃっきゃと喜んでいる。

「……そうだな」

「そういえば坂本の担当はどこだ?」

「さぁ……3zじゃね?」

「行ってみるか」

「えー…まあいいけどよ。新八ー、神楽ー、てめーら……」

気がつけば彼等は迷路に入ってしまっていて見当たらなかった。

「うわ。入るか?」

「む……3zとはあそこか?」

その教室から二つ離れたところに、何やらジャニーズのアイドルのような派手な格好の男子と、セーラー服やゴスロリを着た女装男子が客引きをしていた。

女性客はきゃっきゃと楽しそうに出てくるが、男性客は何やら口紅のキスマークをつけられげっそりして出てくる。

銀八はなにやら嫌な予感がして「おっ……俺は遠慮しとくわ…ヅラ行けよ…」と自分は身を引いた。

「そうか?では」

桂は何の疑いもなく入っていったが、

「…新たな扉だった……」

案の定げっそりして帰ってきた。


〜〜〜〜〜


(174) 教師見習い

「B組の大繁盛を祝って、乾杯!!」

無事文化祭は終了し、後片付けも終わってから余った紙コップとジュースで乾杯。

この高校生の弾けた空気に青春と若さを感じ、銀八は思わず懐かしくなって笑ってしまった。

「若ェのはいいだろィ」

端の方の椅子に腰かけ、次郎長は銀八に声をかける。

「そうっすね…」

「お前らもこうだったさ。もう教師になっちまえば、お前もずっとこの気分さ」

不思議な気持ちもあった。

つい何年か前までここで馬鹿騒ぎしていたが、こうして部外者であって部外者でない立場から眺めるのは、悪くないが少し寂しかった。

「そういえば坂田先生にもお世話になったし、礼言わないと」

「パフェは坂田先生いないと出来なかったもんね」

突然話にあげられ、銀八はジュースを吹き出した。

「ありがとうございました先生!」

「あとすごい働かせてすいませんでしたぁ!」

「謝るくらいなら最初からやんなよ!」

校内をふらついていたお登勢は、その光景を教室の外から眺めて呆れたように笑っていた。

「入ってこねぇのか」

次郎長は声をかけるが、お登勢は首を横にふった。

「実習生と生徒が上手くやれてるか見に来てみただけだからいいさ」

「そうか。餓鬼共はなついてんぜ」

「西郷もそう言ってたわ。ありゃうちにきたら3zの担任やってもらうかね」

問題児が多い代に、問題児だけを集めてつくる特設クラスに。

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