【37】

(166) 喧嘩師反抗

『お前、本当にうつる気なのか』

数年ぶりに父親の声を聞いた。

「うん。やっぱりあそこまでエリート揃いじゃ喧嘩もろくにできやしないや」

『喧嘩目的とは親不孝者が』

「アンタはいいよね、人追いかけ回すのが仕事なんだから」

リビングで、父と電話する兄の後ろ姿を神楽は眺めていた。

春雨高校をやめて夜兎工業高校へ移るという意図を伝えるため。

「じゃあね、それだけだから」

笑顔のまま神威は電話を切る。
不完全燃焼といった顔をした神楽を見て、神威は不思議そうに首を傾げた。

「どしたの神楽。そんな顔して」

「喧嘩、したいアルか」

神威の腕を覆い隠す包帯、顔面に貼られた絆創膏。
痛々しくてなんとなく嫌だった。

「学校変えてまで喧嘩するアルか」

「うん。強い奴とぶつかり合うのは楽しいし。」

「…わかんないアル。私は友達とショッピングしたり、ゲームしたりする方がよっぽど楽しいと思うネ」

「お前はお前。俺は俺さ」

神威はそう言い、リビングから出ていってしまった。

「…お前は勿体ないよ神楽、強く育ててあげたのに」

リビングの外で、誰にも聞こえないようにそう残して。


〜〜〜〜〜


(167) 唐辛子レディ

「あのクラスの仕組みが未だに理解できないんだけど」

昼休み、食堂で一人でうどんを食べているミツバを見かけ、銀八は彼女になんとなくぼやいていた。

「理解?」

「黒駒あたりの男子は何、何であんなに教師崇拝してるわけ?」

ミツバは辺りをちらりと見回してから小さな声で銀八の耳元に口を寄せた。

「泥水先生が泥水一家っていうののトップって言うのはご存じですよね?」

泥水一家、以前からかぶき町周辺を影で支配する、言わばヤクザ。

それは銀八が高校にいた頃から噂になっていた。

「まぁ、堅気じゃねぇのは知ってたけど」

「黒駒君の家は昔から泥水一家の下にいたらしくて…他の人達も同じで、泥水先生には熱狂的なくらい尊敬を寄せてるんです」

「ふーん。」

「だからと言って泥水先生は彼等を特別に贔屓する訳じゃないし、皆あの先生を尊敬してますよ」

ミツバはそう笑い、うどんを口に運ぶ。

銀八は先ほどからずっと気になっていたけれどなかなかつっこめなかったことを彼女に聞いてみた。

「…お前、…さ…それ、何?」

うどんを覆い隠すほどの、赤い粒状の物体。

「え、これ?七味唐辛子ですよ」

平然とそう言ってのけたミツバ。

「………へ、へぇ…」

常識的に考えて、彼女の味覚は異常だ。
それだけ大量の唐辛子をかけようなんて発送まず起こり得ないし、それを顔色一つ変えず食べられるなんて。

だが銀八は何も言わなかった。

自分も昔から晋助や他人に「飯に小豆なんて邪道だ」と言われ続け、味覚を他人に否定されることは辛いと知っているから。

「銀八さんも是非やってみてください!」

「いや、今日はもう腹一杯だからいい!」

一緒に昼食を食べる約束をしている坂本の元へ飛ぶように逃げた。


〜〜〜〜〜


(168) 兄妹

「神楽ちゃんも行かない?銀魂高校の文化祭」

休み時間、持ち込んだスナック菓子をつまみながら神楽、新八、妙は話をしていた。

「銀魂高校アルかぁ」

「うん、銀さんが教えてくれたんだ。今のところ僕と姉上と九兵衛さんが行く予定」

「神楽ちゃんはどこの高校とかもう決めてるの?」

「全然ネ。ただ、夜兎高だけはごめんアル」

「ちょ、神楽ちゃん夜兎高は男子校だよ」

夜兎工業高校は、この辺では不良揃いの問題三昧と有名な悪名高い高校。

理事長の鳳仙という男が、彼がもう一つ掛け持っている女子校の吉原工業高校の方ばかりに力を入れたせいで荒れてしまったという噂もある。

「知らなかったアル、兄貴がそこに編入するって聞いたネ」

神楽の兄、と聞いて新八は一瞬鳥肌を立てたが、妙は首を傾げた。

「神楽ちゃんのお兄さん、春雨高校だったわよね」

「そうアル」

「あそこに行ってればスポーツでも頭脳でも将来有望な大学に入れるって聞くのに、勿体ないわ」

「兄貴の頭には喧嘩の事しかないアル」

自分が弱いから、一緒に手合わせしてもつまらなくなってしまったのだろう。
最近構ってくれなくなった兄の姿が頭を過り、思わず首をぶんぶんと横に振った。

「行くアル、文化祭」

神威がどうであれ、自分は友達と遊びに行くのが楽しいのだから、それとこれは別だ。

「俺も行って構わないか」

そこに、一人のクラスメイトが話しかけてきた。

その人に、三人は驚いた顔をした。


〜〜〜〜〜


(169) 美男と怪物

銀八が今一番接点のあるクラス、2Bでは文化祭で和風の喫茶店をやることになっていた。

「3zには絶対勝ったるで!ほな仕事じゃ仕事!」

皆気合いが入っているが、黒駒を中心とする一部の生徒は更に気合いが入っていた。
特に3zを何故か敵視している様子。

「3zに恨みでもあんの、あいつら」

「さぁ…」

さすがにミツバも知らない様子なので、とりあえず3年全体を見て回っている坂本に聞くことにした。

「今年の3z、西郷先生が担当なの知っちゅうがか?」

3zの担任は今までお登勢だったのだが(銀八も坂本も彼女が担任だった)、数年間から西郷特盛というゴツいオカマの教師(担当教科:家庭科)に代わったらしい。

彼の授業を受ける際、ほとんどの男子生徒は一度女装させられ、(もはや風習)銀八も坂本もセーラー服を着せられた経験がある。

「あの化物かよ…今年の問題児も大変だな」

「その西郷先生なんじゃが、生徒のなかでも顔のいい男子生徒とオカマ気質のある男子生徒を集めてクラスを編成したらしくてのぅ。」

「………おう。」

「その美男の中に、黒駒と元同級生で今年進級できた本城狂四郎っちゅう生徒がおる。黒駒はこの狂四郎を敵視しちょって、」

「ああ。」
((こいつ何でこんなに詳しいんだよ…))

「3zがホストクラブ風のカジノをやるっちゅうから、それに対抗ばしようと黒駒は躍起になっとる。多分そういうことぜよ」

「学校でホストクラブ風アウトじゃね!?」

「坂本先生!」

話をすれば、一人金髪の男子生徒が坂本に声をかけてきた。

睫毛が長く端正な顔立ちで、髪を横に流した美青年。

「おう、文化祭の準備がか?」

「今日はz組を手伝ってくれるって言ってたじゃないですか!」

その生徒の名札を見ると『本城』と書いてある。

なるほどこれがその生徒。

銀八は気づけなかった。
後ろから近づいてくる、巨大な恐怖に。

「あぁら、パー子じゃない……!」

その声の主を視界にとらえた坂本と狂四郎は即座に血相を変えた。

銀八も顔をひきつらせながらゆっくりと後ろに視線をやった。

そこにいた大男は、にたりと広角をあげて銀八に襲いかかる。

「久しぶりじゃなーい!!いい男になったわねパー子!!」

銀八のことをそう呼ぶのは、たった一人。

3zの今の担任、西郷だった。

今日も相変わらずどぎつい化粧にはち切れそうな女物のスーツ。

「げっ、お前っ…!」

「げって何よ失礼しちゃう。ねぇ、パー子。あんたもちょっと手伝っていきなさいよ」

「いや俺は2年の担と」

「手伝っていきなさいよ」

ドスの聞いた声で上から圧迫されるようにそう言われ、銀八は従うしか術がなかった。

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