【36】

(161)実習、対面

「アンタ、教育実習は?」

「ああ、銀魂高校行く。手続き頼むわ」

「誰に向かって物言ってんのかわかってるのかい」

「お手を煩わせて申し訳ございませんがそちらの高校に教育実習でお世話になりたいので手続きの方よろしくお願いいたします」

教育実習とは、将来教師を志望する者が自分の母校等に実際に行き、短期間その場で演習すること。
銀魂高校は丁度文化祭の時期にあわせてあり、生徒と団結して文化祭を盛り上げることが多い。

ちなみに今回は坂本が一緒だ。

「お前も勤めるなら銀魂高校のつもりなのか?」

「おう!金時もかや?」

「一文字もあってねェよ誰だそれ。まぁそのつもりだ」

「同じ中学、高校、職場とは何かの運命かの!」

「お前みてーな野太い男に運命感じたくねェわ気持ち悪ィ。」

スーツを着た銀八と坂本はそんな会話をしながら母校へ。

銀八が配属されたのは、高校時代に国語の担当で、以前は教頭を勤めていた泥水次郎長という年輩の男性教員のクラスだった。
職員室で軽い挨拶を終わらせ、銀八は彼の元に向かう。

正直あまり話したことがなくて慣れない教員だったのだが、銀八が問題を起こしたときに怒るお登勢の側に控えて黙って煙草を吸っていたのが印象的で、どうにも忘れられなかった。

「よォ、久々だな。相変わらずふぬけたツラしおって」

「アンタこそ年取りましたね。そろそろ退職したらどうっすか」

褐色の肌に短い白髪のこの男は、お登勢と同じくいつも着物を着ている。
この学校は生徒から教師まで自由すぎると銀八は思った。

「まぁ、この期間仲良くやろうや」

くつくつと笑っていた次郎長は、銀八に手を差し出してきた。

「はぁ、どうも…」

皺が多く年期を感じるその手を取ると、今まで知らなかったがとても厚く頼りがいがあった。


〜〜〜〜〜


(162) 2年B組

次郎長に連れられ、彼が担当している2年B組の教室に入ると、さっきまでざわついていた教室がピタリと静かになった。

次郎長の無言の圧力というか、威厳というかそういうものを彼の生徒は感じているんだろう。

「号令」

「はいオジキ!」

「その呼び方やめろって言ってんだろぉが」

「はい!」

相手が高校生にもなれば、教師なんて通常煙たがられるはずなのに、このクラスの男子のほとんどが彼にキラキラと尊敬の眼差しを向けている。

銀八も高校時代に次郎長に憧れていた同級生や後輩を見かけたので、そのカリスマ性は今も衰えていないと言うことの確認にしかならないが。

「坂田、お前は後ろに立ってな」

銀八は無言で教室の後ろに回る。
ちらちらと彼の銀髪に振り返る生徒の中に、一人知った顔があった。
その生徒は銀八と目が合うと、小さくにこりと笑った。

ホームルームの最後に、次郎長は銀八のために少し時間を作り、
「そろそろ後ろの銀色の兄ちゃんについて知りてェ頃だろおめぇら。ほら、自己紹介」
自己紹介を促した。


突然話をふられ銀八はうろたえたが、咳払いして口を開く。

「えっと、教育実習生で銀魂高校出身の坂田銀八です。国語教師目指してます、よろしく」

まばらな拍手を受けてホームルームは終了。
その直後、前の方の席の生徒が数人銀八の元へ歩いてきた。

「なんやえらいだるそうな顔しとんなぁ兄ちゃん」

彼らは言わば不良で、すごい形相で銀八を睨み付けてきた。
いや、不良というより最早チンピラだ。

「まるで死んだ魚みてぇな目しおってナメ腐っとんのか、あぁ!?」

一番先頭にしゃしゃり出てきた生徒は、高校生とは思えないほど態度がでかく顔に傷があって本当にその道の人間のようだ。
何故か髪の毛だけはぴっちりと七三にわけられているが。

「おい先輩に向かってその口の聞き方はねぇんじゃねぇの七三野郎」

銀八が言い返すと

「ワシはこの学校に四年もおるんやから先輩はこっちじゃ」

生徒はふんぞり返ってそう笑った。
銀八は彼を二度見して思わず大声をあげる。

「お前留年!?」

「その言い方やめんかい!四年生じゃ四年生!」

「坂田、黒駒騒がしいぞ」

遠くから次郎長に軽く怒鳴られ「すいませんオジキ!」と何故か怒られていない生徒達が声を揃えて謝罪する。

「とにかくや!オジキに迷惑かけんなっちゅう話やねん、覚えときぃ」

黒駒と呼ばれた七三分けの留年生はそう言い残し、自分の席に戻っていった。


なぜ担任をオジキと呼んでいるのか、など細かいツッコミを入れられないうちに会話が終了してしまい不完全燃焼な銀八の元に、一人の生徒がまた歩いてきた。

「銀八さん」

先程の知った顔──それは、剣道部のマネージャーの沖田ミツバだった。

「坂田先生、の方がいいですか?」

「いや、(仮)がついちまうからまだその呼び方はやめてくれ」

ミツバは銀八の言葉にクスクスと笑い、ポニーテールを小さく揺らした。

「お元気そうですね」

「まぁな。お前は…」

心なしか、以前会ったときよりも細くなった気がする。

「痩せたか?ちゃんと食ってんの?」

「ちゃんと食べてますよ」

「坂田ァ行くぞ」

「あら。銀八さん、また後で」

次郎長に呼ばれ、銀八はやむを得ずミツバに見送られながらその場を離れた。


〜〜〜〜〜


(163) 夏デビュー(仮)

夏休みが終わり晋助の中学でも二学期が始まった。

いつの間にかに晋助は眼帯で片目を隠し、冷たげな視線を放つようになり他人からしてみれば大分雰囲気が変わってしまった。

まぁ課題をしっかり終わらせてあるのは変わらないが。

そんな彼の近くにいるのは武市と万斉の二人だけ。

「晋助晋助!これね拙者の親戚で幼い頃から拙者が歌を作りこの娘が歌って動画サイトとかで世界に配信してきたんでござるけど、なんと一躍有名になって今度雑誌に載れるでござる!」

「あーよかったな」

万斉の熱弁を涼しい顔で聞き流す晋助。

「貴方の左目を切った人達の情報ですが、どこ叩いても出てこないようです」

武市の言葉に晋助は軽く反応し、また視線を落とした。

「そうか」

視線の先には毎日持ち歩いている竹刀。

手がかりは無し。


〜〜〜〜〜


(164) 手料理

「銀ちゃんー大丈夫アルか?」

神楽の家に来るなり玄関でぶっ倒れた銀八。

「とっ…、糖分を……」

教育実習に行って、緊張と体力消費が大学と比べ物にならなかった。
まぁ小学校等に研修にいく方が大変だろうけど。

「銀ちゃんが糖分不足で死にそうアル!ちょっと待ってて」

神楽はバタバタと台所に入っていき、未開封の袋ごと持ってくる。

「ぶふぉ!?」

それをあろうことか倒れている銀八の顔面にぶちまけた。

どしゃどしゃと音がしながら目の前が白くなり、銀八は一瞬何も理解ができなかった。

「おいこら神楽てめっ何しやがる!?」

ばっと慌てて起き上がり、銀八は神楽を怒鳴り付ける。

「お残しはいけまへんで!」

「お残しじゃねーよ!こんな糖分摂取あるか!俺の血糖値どんだけ上げたいんだ殺す気か!」

とりあえず砂糖が勿体ないので銀八は神楽の持っている袋に掬い戻す。

「ほら、お前もやれ。蟻来るぞ」

「!それは嫌アル!」

神楽も一緒になって袋へ戻す作業を始めた。



一段落ついてから、銀八は神威がいないことに気づいた。

「あれ、お前兄貴は?」

それを聞かれ、神楽は一瞬どもった。

「……知らないアル。一週間くらい帰ってきてないネ。多分友達の家にでも泊まってるんでしょ」

台所に捨てられた大量のカップ麺の入れ物、お茶漬けやふりかけの小袋に卵の殻。

「神楽、昨日の晩飯何だ?」

「……卵かけご飯アル」

いつもご飯を作っていてくれた兄がいない。
親もいない。

この子にとって、家の中に一人ぼっちはどんな気持ちだっただろう。

「神楽、この教材の付箋貼ってあるとこやっとけ」

肩を落とし小さく項垂れている神楽に、銀八は一冊教材を渡した。

「?銀ちゃん?」

「今日は俺が飯作ってやるから」

それを聞いた神楽は青い目をパッと輝かせた。

「銀ちゃん!私カレーがいいアル!」

「あー?時間かかるだろーが。今度な今度」

「じゃあ酢昆布丼!」

「それは自分で作れ。」


〜〜〜〜〜


(165) サボりと進路

『再来週、銀魂高校文化祭。俺教育実習で銀魂高校にいるし、お前も来年受験だから今回行ってみれば?』

銀八から届いたいたメールを見て、隣にいた万斉に晋助は話しかけた。

「お前、高校どこ行くんだ?」

本来なら授業中であるこの時間。
万斉は以前からちょくちょく授業をサボっていたが、夏休みが明けてから授業に出なくても成績で補えると気づいた晋助もサボることが増えた。

プールのある体育の授業なんかは絶対サボり、校舎裏の日陰が二人の特等席になっていた。

「今のところ細かくは決めていないでござるな。が、一応音楽を学べるところを考えているでござる」

「銀魂高校の文化祭。行ってみねェ?」

その言葉に万斉はぴくりと反応した。

「銀魂高校…でござるか…」

ふむ、と万斉は小さく頷いて晋助に訊ねた。

「ぬしは銀魂高校志望でござるか?」

「今のところはな。他にこれといって行きたいところもねぇし」

キーンコーン、とチャイムが鳴って授業は終わったらしい。

「考えておくでござる。次の授業は何だったかわかるか」

「あー……歴史?」

二週間後、二人は銀魂高校に行くことになる。



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