【28】

(125)後悔先に立たず

「…金時、おまんいつの間にそがなモン買うたかや…?」

「ちょっ金時って誰だよ金時って!バイク、かっけぇだろー」

そう、銀八は銀色のなかなか格好良いバイクを三日前に購入した。

その前に眼鏡を買おうだとか何を買おうだとか言っていたはずなのだが、大学や晋助の家、教え子の家に行くのに便利と思い最初にこれを買ったのだ。

「銀魂高校に平賀源外っつー発明家…じゃなくて理科教師いたろ。源外のジジイがいい店紹介してくれるっていうからよ?」

「おまんこういうんはわしのトコで買うて欲しかったきに…」

「だってお前んトコの高ェんだもん!」

坂本も立派なお坊ちゃんであることはもう知れたことだ。
高杉家は金融関係で銀行などで有名だが、坂本の会社は自動車や船やバイクなどの製造を中心にしている。
(ちなみに柳生家はどちらも取り扱っている)

「わしの権力を持ってすればバイクの一台や二台激安価格で手に入るきに!」

「え、どんくらいよ」

坂本が値段を耳打ちすると、
銀八は「っちくしょぉぉお!」と叫んで後悔したと言わんばかりに地に手をついた。

「アッハッハ!メンテナンスだって安くしちゃるきに、うちに来るとええぜよ!」

「あー、そうするよ……」

先ほどとは正反対に肩を落とした銀八は力なくバイクにまたがった。

「銀八ィ、もう帰るがじゃ?」

「あ、そういや今日は珍しくお前が俺のこと呼び出したんだっけな。何だ?」

「電話でもよかったんじゃがな…まぁ、中に入りとうせ」

坂本に背中を押されるがまま、屋敷に入った。


〜〜〜〜〜


(126)毛玉だって悩む

坂本の事だからどうせ片付かない乱雑な部屋だろうとふんでいたが、意外にもそこは片付いていた

「らしくないんじゃが、今日はちくとわしの悩みを聞いてほしゅうて呼んだんじゃ」

「どうしたストパー失敗したか、それとも性病でも抱え込んだか、それとも六股でもかけて股六つに引き裂かれそうか?」

「アッハッハ、おまんの頭はわしにそんなイメージしかもっちょらんのか」

銀八は甘いケーキを食べながら相づちを打つ。

正直、銀八は一目坂本を見たときから気づいていた。
六年以上一緒にいる友達だ、いつもの笑顔でも目が笑っていないことくらいわかる。
深刻な悩みがあることくらい。

「……わしゃあ、おまんと同じく教師になりたいんじゃ」

「うん、前から薄々気づいてた」

「正直言うが、わしの成績ならその夢は達成できると自負しておる」

「おぉ、自慢かコノヤロー爆ぜろ」

いよいよ彼の口元からは形だけ保っていた笑顔も消え失せた。

「…わしは、この家の一人息子じゃ。ここまで育ててもらったんじゃから、親というもんに恩返しをしなきゃあならんこともわかっちゅう」

親に恩返し、というのはつまりこの家を次いで更に大きな企業に広げることだろう。

「…親に、そう言われたのか?」

「いんや、まだ言われちょらんがいずれそう言うことくらい目に見えとるろー」

諦めたような、笑い。

それを見た銀八は眉を潜めた。

「…てめぇ本当に坂本辰馬かよ…」

「…銀八?」

突然声が低くなった銀八に、坂本が首を傾げる。

「行動起こす前に諦めるなんて、おめぇがすることじゃねーだろうが!!
アホで馬鹿でへらへらしやがって迷惑かけっぱなしのくせに行動力は一人前なのがおめぇだろ!
自分のやりたいことは曲げねぇのがおめェだろ!
どうしたんだよ辰馬……」

カッとなった銀八は大声をあげた。

坂本は深海色の瞳を大きく見開く。

それを無視するように、脳裏に坂本の両親を思い浮かべながら銀八は続けた。

「それに、俺はお前の両親の人柄ならよく知ってる。お前はあの人達の分身じゃねぇのかってくらいよく似てるよな。あの人達ならお前がやりたいことを一番にやらせてくれるに決まってらァ」





「……ッアッハッハッハッハッハ!!!」

突然、坂本は額に手を当て笑い出した。

それはそれは嬉しそうに。

「…何かおかしいこと言ったかよ…」

「いやぁ、その通りじゃ!わしらしくもなかったのう、そうじゃそうじゃ!」

「はぁ?」

坂本は涙が出るほど笑い、銀八はそれを見て訝しげな顔をした。

「流石じゃのう銀八!おまんはわしよりもわしを理解しちょる!」

「……そうかぁ?お前がおかしかっただけだろ…」

「わしゃ何をくよくよしとったんじゃろうな、わしらしくもない」

晴れやかに笑う友人を見て、銀八はホッとした。

「そうじゃ銀八!今から酒でも呑みにいかんかや!?」

「ばーかこちとらバイクで来てんだよ、飲酒運転厳禁ですぅー」

「バイクくらいわしのとこで預かっちゃるき、なんじゃあ泊まっていってくれても構わんがよ!」

「マジかよ、明日大学休みだしそうしちゃおっかな」

最近は少しずつ酒に強くなってきた銀八と体質的に酒が大の得意の坂本は飲み倒して、坂本の家の中頭痛と吐き気で一日動けなかったとか。


〜〜〜〜〜


(127)第二の災厄

期末テストも終わり、特に変わったこともないある日の事だった。

いつも通り、といってはおかしいのかもしれないが、晋助にとってもはや日常に化してしまった喧嘩。

相手がいつも相手しているような奴等より強いことは、晋助の勘と彼らの下世話な笑い方で感じ取れた。

((…俺も喧嘩慣れしちまったもんだな…))

目の前にいる十人ばかりの敵。前に顔をあわせた記憶のある奴も何人かいた。

竹刀をケースから抜いて、正眼の構えを取る。

「坊っちゃん坊っちゃん、俺達大人これだけを相手に無理しようとすんなって」

「ギャハハハハッ、流石高杉家の坊っちゃんじゃねぇか」

今日と言う日に限り、万斉や武市はいない。

一人でこの人数の対処をしきれるか、一か八かだった。

「っうらぁぁ!」

足元を崩してかかり、面を打ち込み、ナイフを持つ奴の肘や手首を弾く。

順調に乗りきれるかと思いきや、

「っ!!」

ビリ、と衝撃が晋助の身体を走った。


「ちょっと寝てろよ」

意識が遠退いていく。


地面に倒れる間際見えたのは、後ろから突然現れた男が握る黒いもの。


((スタンガンか…子供相手に、…大、人数…で………タチ、が…悪………))

ドサリと音をたてて晋助は地に倒れ込んだ。


〜〜〜〜〜


(128)兄出動

「晋助坊っちゃんは、まだ帰っていらっしゃいませんよ」

「………は…?」

冷酷な目をした使用人が、銀八にそう投げかけた。

今日は神楽の勉強を見てやる日なのだが、神楽は用事があって別の日に変更になった。

なので晋助の屋敷に着たものの晋助は留守。

もう夜の6時になるというのにおかしい。
いつもなら晋助は5時頃に帰ってきて、勉強をしている時間だ。

「……ちょっ、どういうことですか」

「帰ってきていらっしゃらない、と申し上げたんです」

それだけ言うと使用人は踵を返して通路の奥へ戻った。

「……何で、だよ」

ただならぬ嫌な予感がゾクリと背中に走る。

「銀八さん!!」

後ろから、聞き覚えのある使用人の声がした。

「……お前は…」

銀八の隣の家に晋助が住んでいた頃から晋助の世話をしていた使用人。

「何で晋助はまだ帰ってないんだよ!?」

「説明しますから、お静かにっ…」

使用人は銀八の裾を握って少し暗い通路へ引っ張っていく。

「…この家の者にしか知らせてはならないことになっているのですが……
晋助坊っちゃんは、誘拐されてしまったのです」


紅い目が、目一杯見開いた。



「………………は…?」



どくん、と心臓が跳ねて、身体が震えた。


「……晋助坊っちゃんは預かった、返してほしければ金を出せ、とファックスが届いたんです」

銀八の袖を握る使用人の手も震えている。

「まだ助けに行ってねーのか…?」

「それが、旦那様が…全く動いて下さらないのですっ…!」

使用人は我慢できないと言うように泣き出した。

((実の父親が、何で息子の危険に…))

銀八は言葉を失った。

その表情は落胆という言葉を見事に表していた。

「……どこにいんだ、晋助は」

「銀八さん?」

ぎ、と銀八は強く拳を握りしめた。

「良いから、言え!!」

「っは、はい!場所は……」

使用人に場所を聞き出した銀八は、礼も言わずに屋敷から飛び出した。

((あの親なんかじゃ頼りにならねェ…俺が…!))


〜〜〜〜〜


(129)希望は一人

時は先登り、一時間前。

バシャンと音が響く。

冷水の音。

「………ん、」

身体に突然かけられたその水で、晋助は覚ました。

暗くてよく見えない景色。

「起きたかぁ?お坊ちゃんよぉ」

響く知らない声。

暗闇に目が慣れると、月明かりで見知らぬ男が何人も照らし出された。

「………!」

金属バッドやらナイフやら武器を持っていて、それらも月明かりで怪しく光る。

晋助は怖くなって、震える足で立ち上がろうとした。

が、身体が拘束されている。
縄がギチリと音をたてて、晋助は今までにない恐怖を感じた。

「……お前ら、一体…」

怖さをまぎらわすように、晋助は声を絞り出した。

「ちょっと金が足りなくてよォ。小遣い稼ぎさ。」

「多分怖いことしないから、大人しくしてろ」

夏になりかけだというのに冷えた金属バットで、頬をつつかれる。

「………」

自分を道具に、高杉家から金を巻き上げようというのだ。

晋助の目は絶望の色を写した。

彼は知っている、
自分の親が速急に助けに来てくれる訳がないことを。

運がよければ怪我は負わないかもしれないが、悪ければしびれを切らしたこのしょうもない男達にやりたい放題に殴られる。

逃げられるほど甘い相手ではない。

銀八が、とも思ったが今日は確か仕事の日だ。
第一銀八を巻き込むのが晋助は嫌だった。

大切な大切な人に怪我を負わせるのも心配をかけさせるのも。

だが。

「……っ銀八ぃ…」

すぐに飛んできてくれる人なんて。

「………助けて…」

祈るように、呟いた。


〜〜〜〜〜


(130)しきたりなど

「旦那様!」

「早くしないと、もしかすると晋助様は…っ」

書類に目を通す高杉グループの社長に、使用人は必死で訴える。

「余程の事がなければ手もあげまい。大丈夫だ、あと少しで仕事も終わる」

「貴方のあと少しは何時間ですか!」

そう、一時間前にファックスは届いたというのに彼は一向に動こうとしないのだ。

「…少し静かにしてくれ、はかどらないな……ああ、終わったよ」

書類にペンを走らせサインを入れてから、ようやく晋助の父は立ち上がった。

「で、相手はいくら要求してきたんだ?……なるほど、こんなもんか」

ファックスを見ながら一人でぽそぽそと彼は呟く。

そして秘書に声をかけた。

「偽札、手配できるか?」

「その額なら、数分のうちに」

無論、違法だ。

「旦那様…」

「こんな奴等に現金を渡す必要もなかろう?金に大して関与してない彼等には本物と偽物の区別なんて到底できまい」

静かに部屋から出ていく秘書を見送って彼は落ち着いた素振りでタバコを吸う。

((何でこんなに落ち着いてるの…仮にも息子なのに…!))

「私も何度も子供の頃は誘拐されたさ。その時、絶対に父は偽物を持って数時間もしてから来た。これでいいんだよ」

何世代も前からのしきたりなんじゃないかな、なんて笑う彼。

使用人達は皆、そんなことを理由で助けにいかないなんて、と言葉を失った。

((家族とは何でしょう…旦那様))

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