【27】

(121)私生活に

((ちょ、これ、あれ、嘘だろおい!!))

銀八の目の前には、18歳くらいの青年がたっていた。

『銀八』

聞き覚えの有るような無いような、甘くて低い声で名前を呼ぶ。

紫色に輝く髪が揺れて、深い緑の瞳が優しく微笑んだ。

銀八に手を伸ばすと甘えるように腕が首に絡み付いてきた。

『なぁ、銀八ィ。俺な……』





「ちょっと銀八、起きな!!」

重たい瞼を開くと、鬼のような形相の老婆の顔が。


「ア゛ァアァア!!!!!!!!」

驚いた銀八は、アパートが壊れんばかりの大声をあげた。


「……ったくなんだい?あたしゃオーナーなんだからここに入れて当たり前だろ?」

老婆とは無論、このアパートのオーナーであるお登勢こと寺田綾乃。

また、彼女は銀魂高校の理事長でもあるのだが。

「朝から人ん家押し掛けんじゃねーよババァ…」

「押し掛けもするよ。アンタ先月の家賃払ってないね?」

「…あ、そうだったかも…」

銀八はあくびを一つしてから寝起きでさらにボサボサな頭を乱暴に掻く。

「ったく…いい夢見てたってのに…」

引き出しまで行くと札を数枚引き抜いてお登勢に渡した。

「おら。これでいいか」

「確かに受け取ったよ」

「用がそれだけなら帰ってくんね?休日だし銀さんこれから二度寝するんだけど」

「相変わらず無礼な奴だね。まぁ用もないし帰るよ」

そんな会話をしてからベッドに戻ろうとした銀八は、床に放置されていた読みかけのジャンプにつまずく。

「うおぉ!?」

ドタン、とまた大きな立てて床に顔面ごと叩きつける銀八。

「相変わらずうるさい奴だねぇ…」

お登勢は煙草の煙を吐いて呆れたように銀八を見下ろした。

「足元見にくいんだよな最近…メガネ買うか」

「あれ、銀八アンタ今まで煙草なんて吸ってたかィ?」

部屋のテーブルに置かれた煙草ケースを見つけてお登勢は訊ねる。

「あ?いや、俺も成人になったことだし煙草デビューしてみよっかなと」

「成人ってそういうもんかねェ……」

学生の時に一度お登勢のタバコを盗んで吸ってみたが、その時は煙たくてダメだった。

「まぁうちのアパートは禁煙じゃないからいいけど。」

「…………」

「銀八?」

「…………」

人との会話の途中に寝るとは無礼なやつだと殴られて銀八は気を失った。


〜〜〜〜〜


(122)一目惚れした子

「晋助、無事期末も終わったことでござるし少し遊びに行かないか?」

夏休み前の期末が終わった日、万斉は晋助にそう声をかけた。

「ん、これから一旦帰って集合か?」

「いや…小学生でもあるまいし……制服のままより道したかったのだが…」

「!」

一度してみたかった友達と制服での寄り道に晋助は目を輝かせた。

「お父様とか使用人に何て言おう……」

「学校で勉強してきた、とでも言えばよいでござろう」

「そうだな!」

ゲーセンに行こうと決まり、駅前のゲーセンへ歩いた。



駅前は人で溢れかえっていて晋助はいつか行った銀魂高校の文化祭を思い出した。
(実際はそこまででもないのだが、人見知りかつ人が多いところが苦手な晋助にはそれほど。)

道を知っている万斉の背中に少し慌ててついていく晋助。

「っ!!」

前から走ってきた女子学生にぶつかった。

「いったっ!!何するんスか!」

晋助と同い年くらいで、短いスカートに派手な金髪は肩くらいの、つり目だが顔は整った少女。
少女は金髪を逆立てん勢いで晋助を睨んできた。

「っ、あ、悪い…」

「!」

晋助の、その少女よりも整った端正な顔立ちを見て少女は目を丸くした。
その美しさに見とれたのだ。

「い、いや…こちらこそ、悪かったっス……」

「晋助?早く行くでござるよ」

「ああ、行く」

晋助は万斉の方にかけていった。

「…晋助、って言うんスね…今のかっこいい人…ってヤバい、姐さんに怒られる!」

少女も数分頬を赤らめていたが、自分の目的を思い出して走っていった。


〜〜〜〜〜


(123)久々の母校

神威と神楽に銀魂高校の話をしてから、銀八はなんとなく銀魂高校に遊びに行きたくなっていた。

そしてちょうど平日、時間が空いたので遊びに行ってみた。

「…相変わらずパッとしねェ学校だな…」

校門から校舎を見上げ、嬉しそうに銀八は呟いた。

柄にもなく学生だった頃なんかを思い出して、自分は今学ランを着ているんじゃないかと思ってみたり。

「こんにちはー」

来校者には挨拶をするという習慣なのか、私服の銀八はたくさんの後輩に挨拶された。

剣道部の部室の前に立ってみると、中で声をあげながら素振りをする生徒が何人も見えた。

「あんなに廃れた部活だったのになぁ……」

銀八がいた頃には、滅多に部活に顔を出さない顧問・松平とその他3人ほどしか部員がいなかった。

「こんにちは。OBの方ですか?」

後ろから優しげな声をかけられ、銀八は振り向いた。

結わくには少し短めな栗色の髪を高いところでポニーテールにした、赤茶色の優しい瞳をした女子。

銀八にむかって物静かに微笑んでいた。

「あ、ハイ。元剣道部なんっすよ」

「!もしかして、坂田さんですか?」

ハッとしたその娘の言葉に、さらに銀八は驚かされる。

「何で俺の名前……」

「見たことのある方だと思ったんです。私は今の剣道部マネージャー、沖田ミツバと申します。中に入ってください」

ミツバはにっこりと微笑んで銀八を剣道場に招き入れた。

「失礼しまーっす」

銀八が汗臭い道場に入るとなるほど、いつかの試合で優勝した銀八と仲間達の写真が飾られていた。

「皆さん、坂田さんが来てくれましたよ!」

銀魂高校剣道部の英雄、坂田銀八。

剣道部員はミツバの声に目を輝かせて振り向いた。

「!!ほんとだ!」

「嘘だろ、あの坂田さんが!?」

「写真と全く一緒だ、うおぉ!」

見知らぬ後輩たちに崇められる銀八。

「写真!写真とってください!」

「坂田さん、銀魂高校の白い鬼とかって言われてるんですよ!銀髪かっけー」

「あの、一手手合わせしてくれませんか!?」

((俺、めちゃくちゃ人気者じゃねーか!!ちょ、白い鬼とか何!?かっこいいじゃねーかァァァ!))

「おう、いいけど俺は強いぜ?」

「やったー!おい、誰か竹刀!」

銀八はその日限り若返った。


〜〜〜〜〜


(124)世間話と発明家

「いやぁ…俺もいつの間にかに英雄になったなぁ…」

「来てくれてありがとうございました」

「いやぁなんのなんの。俺ここの教員になろっかなー」

剣道場を出て、ミツバと少し立ち話をした。

「先生になりたいんですか?」

「まぁな…」

「それはよかった。貴方みたいな素敵な先生がいらっしゃるなら剣道部も安泰です」

「え、俺が顧問?」

「勿論!皆さん喜びますよ」

「そうかぁ?そうかな?」

銀八は誉められまくって有頂天になっている。

「私、弟がいるんです。あの子もここの剣道部に入るんだって意気込んでいるので…貴方が指導してくれるならあの子も、あの子のお友達皆も強くなるわ」

「弟君いくつ?」

「今中2です。真選中の」
「あそこも結構剣道強ェ中学じゃん」

「うふふ、そうですか?」


*


「っくしゅん!」

「総悟どうした!昨日腹でも出して寝たか!」

「嫌ですねィ近藤さん。俺は風邪なんか引きやせんよ、引いたら土方さんにうつしやす」

「何でいつもいつも俺なんだよ」


*


ミツバと話もそこそこに終えた銀八は、ペタペタとサンダルを鳴らしながら校内を彷徨いた。

「ん、銀の字!」

銀八をそんな呼び方するのは一人しかいない。

「源外のジジイ…」

白衣にゴーグルにハゲた頭、白い髭。
“年老いた発明家”を見事具現化したような男、平賀源外がそこにいた。

彼は銀八の理科の教師だった。

「銀の字、久々だな」

「おう。相変わらずロボット造ってんのか?」

「ああ。今は醤油を小皿に入れられるロボットに関して研究している」

「何その無意味かつ地味な思考!醤油くらい自分でさせよ!」

源外は昔から謎な発明を繰り返してきた男だ。

かつて坂本と一緒に手を組んで商い用のロボットを作ろうとして物理室ごと爆発させたこともある。(なぜ二人とも生き延びたのか銀八は今でも不思議でならない)

「ロボット何か欲しいのあるか?」

「いらねーよ。ロボよりバイクとかの方が欲しいっつーの」

「よし、わかった」

「マジで!?」

「知り合いを紹介してやろう」

「造ってくれるんじゃないのな」


源外に紹介された住所に、早速翌日銀八はむかった。

久々にやった剣道のせいでおこった筋肉痛を引きずりながら。


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