【26】

(116)報告

「…ってなわけで、丸く収まったんだ」

「…何かすげー拍子抜けしたわ…」

晋助は銀八に、武市のことを詳しく話した。

心配だったのか、そう言いながら安心したようにベッドにたおれこむ銀八。

「おう。心配させて悪かったな」

その銀八の頭を撫でる。

「ん、どしたの晋ちゃん」

「晋ちゃん言うな。」

ふわふわした銀髪を指に絡め、その感触を楽しむ。

「なんか、晋ちゃんに頭撫でられてたら眠くなってきたわ」

「泊まってけよ」

「そうもいかないって。今何時?」

銀八は壁にかかった細かい装飾が施された時計を見るために目を細めたが、晋助に訊ねる。

「?お前って目悪かったっけ?」

そんな彼を見て晋助は小首をかしげる。

「さぁ……あ、そういや新八にも目悪いんじゃないですかって言われたわ」

「眼鏡買えよ」

「そうだな…明日辺り眼鏡屋行くか…」

銀八は自分の腕時計にちらりと目をやってから立ち上がった。

「もう行くのか?」

「うん。またな、晋助」

「じゃあな」

昔ほど銀八を引き留めなくなった晋助。

子供ってあっという間に育つよなぁ、なんて父親のような事を考えながら銀八は屋敷を後にした。


〜〜〜〜〜


(117)柳生家跡取り

「銀さん、ここって“エ”ですか?」

「ん?いや、エは“絶対”って入ってんだろ。こういうので絶対ってはいっちまう選択肢は大体外れなんだよ。正解はイな。」

「あ、なるほど…」

「もうこんな時間か。今日はここまでな」

新八の家で勉強を教えているとインターホンが鳴った。

「誰だろ。また取り立てかな」

一階まで降りて引き戸(家全体が和風なのだ)を開ける新八の背中を追いかける。

「九兵衛さん!」

「こんばんは新八君。妙ちゃんはいるか?」

低い子供の声がした。

引き戸の先にいたのもやはり中学生くらいの子供だった。
白っぽいパーカーと黒いジーンズで中性的な格好だが、黒髪は長くて高いところで結わいている。

何より気を引いたのは、その左目を隠す眼帯。

「姉上なら今部屋にいますよ。」

「そうか……ん、そこにいる男は誰だ?」

その子供は銀八を見上げて眉をひそめた。

「僕の家庭教師です。銀さん、帰るなら支度してていいですよ」

「ああ。どーも新八君の家庭教師です。友達?」

銀八は適当にうなずいてからその子の方を見る。
よく見ると桂にも似ているかもしれない。

女というには凛々しく、男というには線が細い。

「はい。この人は小学生の時から一緒の……
「柳生九兵衛だ。よろしく」

「あら?九ちゃん来てたの?」

妙が台所からひょこりと顔を出した。

妙は短いおかっぱだった髪を最近伸ばしている。

「妙ちゃん、こんばんは」

九兵衛と名乗った子供は、妙を見ると照れたように挨拶する。

「いらっしゃい、どうしたの?」

「その……これ、お裾分け…」

九兵衛は恥ずかしそうに視線をそらして妙に紙袋を差し出す。

中にはたくさんの洋菓子が入っていた。

「まぁ美味しそう!どうしたの?」

「この間、うちがスポンサーの菓子工場が賞を取ったんだ。それでいつもお世話になっているから、と送られてきたんだが…食べきれなくて…」

「ありがとうございます、九兵衛さん!」

その流れを見ていた銀八は、気づいたことがあった。

まず、その菓子の会社の名前と、それぞれの菓子の特徴、その他諸々。(大の甘い物好き)

九兵衛は妙の事を好いていること。

そして九兵衛の家は…

「お前の家って、あの柳生財閥?」

かつては剣道の名門として知られていて、今となっては多方面に勢力を伸ばし高杉家以上の、世界に名前を売るような大財閥。

「銀さん、何でそれを……」

「俺の知り合いにもでかい財閥の坊っちゃんがいるからよ、前に色々聞いたことあるんだわ」

言われた九兵衛も、目を丸くして頷いた。

「ああ……いかにも、僕が柳生家の跡取りになる、柳生九兵衛だ…」

「そんな坊っちゃんがこんな時間に出歩いていーのかよ?」

あいつなんか、昼間に不良に喧嘩ふっかけられてたってのに。

「大丈夫よ、九ちゃんの周りには実はボディーガードがいっぱいいるんだから!」

「え、マジ?」

「ね、九ちゃん」

全く人の気配を感じなかったので銀八は驚く。

「ああ。この庭の中に4人、塀の外には20人いる。」
九兵衛は妙の投げかけてきた言葉にも頷く。

「金あんだな…」

「じゃあ僕は失礼するよ。」

「あ、俺も行くわ」

「あら、二人とも夕飯でも食べていってくださいな」

九兵衛の指先をそっと優しく、銀八の腕を馬鹿力で掴んで笑う妙。

「妙ちゃん…」

「ちょ、妙っ、痛い痛い痛い!!!!!」

そして九兵衛は顔を赤くし、銀八は顔を青くして同時に妙の名を呼んだ。

「すまない、もう夕飯の用意ができているのでまた今度誘ってくれ」

「俺ももう飯炊いて肉だって解凍してきちまっ……いたたた…」

「姉上とりあえず銀さんを離してあげてくださいよ、骨が音たててます」

その言葉たちを聞くと妙は諦めて手を離した。

「そう。ならしょうがないわね、じゃあ二人とも気をつけて」

「じゃあ銀さん、九兵衛さんまた」

姉弟は玄関先に降り立った銀八と九兵衛に別れを告げる。

「じゃーな、宿題やっとけよ新八」

「では、また明日。」

九兵衛と銀八もそう言い外に出た。


〜〜〜〜〜


(118)男子風女子

外に出てみると確かに黒い車とスーツにサングラスの男が何人も立っていた。

「すげー……」

銀八が感心していると、

「東城、西野、南戸、北大路!行くぞ」

九兵衛の声と共に庭の茂みから四人の少年(?)が出てきた。

「え!?何、隠れてたの!?」

銀八は一人で目を白黒させている。

特に銀八が注意を配っていなかったせいか、気配を全く感じさせなかった。

「僕の一番近くにいるボディーガードだ。同級生なので学校も一緒の」

「ふぅん…すげぇよあいつら、俺も衰えたなぁ…クソォォオ!」

かつては剣道の腕は超一流で喧嘩だってやれば負けなしだった、噂ではその強さで夜叉などと言われていたらしい、そんな自分が年をとったことを嘆いてから、九兵衛を見やる。

筋肉もあるし声も低めだが、銀八の直感や九兵衛のぱっちりした目が女だと言っている気がする。

喧嘩したのかぎゃあぎゃあ騒ぐ四人の少年に近寄り、銀八は訊ねた。

「なぁ、坊主共。お前らんとこの坊っちゃん、実は嬢ちゃんってことはねぇか?」

言った途端、四人は目を見開いて銀八を見た。

が、すぐにハッと我を取り戻し、前髪を後ろに流して眼鏡をかけている少年が無表情に答えを返した。

「ないな。昔から若の近くにいるがそれはない。」

それに同調するように、赤茶色の髪でアクセサリーをじゃらじゃらつけてませている少年も答えた。

「あり得ねーよ兄ちゃん。俺若と風呂だって入ったことあるし」

「何ィィィイ!!!!貴様、若と風呂にィイィ!?」

長めの色素が薄い髪を真ん中で分けてある糸目の少年が、その少年に掴みかかる。

「東城!よせ!」

またまたそれを止めるのは、今まで無言を貫いていたスキンヘッドでごつい少年だ。

「西野ナイス!つか嘘に決まってんだろ、男女で風呂なんか入るか!!」

「ですが南戸のようなふざけたチャラ男ならやりかねないでしょう!」

赤茶色の髪の少年は、
今確かに『男女』と言った。

「やっぱ女なのか…」

「お前ら何をしているんだっ!早く行かないとパパ上に怒られる!」

九兵衛が振り返りそう言うとピタリと止んで少年達は走っていく。

「……パパ上って…」

「では坂田銀八。妙ちゃんに手を出すなよ」

九兵衛は銀八にそう言い残し黒いリムジンに乗り込んだ。

((女だけど男の名前で跡取りとか大変だな……しかも妙が好きなのか。ま、それに関しちゃ俺もおんなじようなモンだけど。))


〜〜〜〜〜


(119) 夜兎の平和な日常

「やっほーおにーさん、いらっしゃい」

高校生になった神威は、新しく学ランを購入した。

裾の長い、不良が着るような学ラン。

彼の学校は制服はないから私服でいいはずなのだが。

「お前何でそれにしたの?」

「かっこよくない?番長っぽくて」

クルリ、とその場で新しい服を買ってもらった女の子のように長い髪を揺らして一回転する神威。
が、広がるのは可愛らしいスカート等ではなくまだ生地が固い学ランという、何とも奇妙な絵。

空手部と柔道部の実績で、スカウトを受けた神威は無事春雨高校へ入学した。

「春雨って制服もなけりゃ規則も緩いし何気に楽な学校だよ。強い奴も多そう!」

「たどり着くのはいっつもそこだよな」

「ただいまヨー♪」

ちょうど酢昆布を大量に買い込んできた神楽が帰ってきた。

「お帰り神楽」

「何の話してたアル?」

「こいつの高校の話」

神楽は早速酢昆布をしゃぶりながら銀八に訊ねた。

「銀ちゃんはどんな高校に行ってたアルか?」

「銀魂高校っつー、怖ェババアが校長…いや、今は理事長か、とにかく騒がしくて造りが古典的な学校」

そこで神威がすかさず聞いてくる。

「強い奴はいた?」

「もう神威はうるせーな、剣道に関して俺は関東1、2を争う男だ」

「!ねーねー手合わせしようよー」

「駄目だ。神楽、勉強するぞ」

銀八の言葉に兄妹二人は揃ってしゅんと肩を落とした。

「「ちぇー…」」

「俺はそれが仕事だっつーの!」

神威と神楽の雰囲気にはすっかり溶け込んだ銀八は神楽の首根っこをつかんで彼女の部屋に連行した。


〜〜〜〜〜


(120)16点と声変わり

「あーあー…んんん、あー…ごほん」

「…晋ちゃん、いきなりどしたの」

ゴールデンウィークだというのに暇をもて余した晋助と銀八は、久々に二人でカラオケに来ていた。

といっても基本晋助が続けざまに歌い、銀八はカラオケのデザートを片っ端から食らい続けるだけなのだが。

「いや、なんか喉の調子が悪ィ」

「まじ?風邪じゃね?」

銀八は晋助の額や頬や首に触れる。

「んっ…銀八、くすぐってぇ」

「うん、熱はなさそうだな」

熱はないものの、確かに晋助の声がかすれていた。

「…お前、アレじゃね?声変わり」

銀八がふと自分の過去にも同じことがおきて、辰馬にそう指摘されたことがあったと思い出したのだ。

「声変わり…か…」

自分が成長しているからこそ起きる現象に、晋助は少しワクワクしたが。

「…歌いにくい…」

「だろうなぁ……」

残酷な天使の○ーゼが流れてきても歌えずに銀八にマイクを渡す。

「…は、ちょっ……え俺…?」

「歌って」

「無理無理、俺今宇治抹茶パフェに」

「歌え」

「はい。」

言わずもがな、結果は悲惨。

「ぶはっ、おめぇ16点だって!16点!!」

「うっせぇな、人間得手不得手があって当然だろーが!」

「だからって…くくくっ…じゅっ…ははは」

喉の調子が悪いとは思えないほど笑われ、この後2週間は晋助に“16点”と言われ続けた。

こうして二人の関係は少しずつ修復に向かっている。

両者ともぎくしゃくしているのは辛いからなのか、
でも銀八はこの間の一件を放っておいていいものかと心の底では悩んでいた。

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