【25】

(111)非リア充の地獄祭2

「…晋助、あの机の上の……」

「?チョコか?」

「うあああああ!!!」

晋助の家の、彼の部屋の机に乗った可愛らしい包みを見て銀八は地に膝をついた。

銀八もモテるはずなのだが(自称)、今は彼女がいないのでチョコをくれる相手はいない。

「いーなー俺は愛は要らねぇから糖分がほしーんだよー晋助ー」

「じゃあそこのやつ全部持っていけよ」

晋助は顎でそのチョコをさしながらそう言う。

「いや、なんかすごい微妙な気分にならない!?高杉くんへ、とか書かれたチョコ食うの!」

「甘いもんは誰かさんのせいで苦手になったんだ」

「すいませんいただきます」

女子にチョコをもらう晋助にも、“晋助に好意を持っている”からチョコをあげる女子にも妬きながら、一応一つ一つ晋助に見せて食べた。

それでもやっぱり甘いものが好きな銀八はどこか嬉しそうに食べて。

それらをすすめた晋助も、それに妬いた。

((んだよこんなにモテやがって…変な虫がつかねーといいけど……))

((なんだよ…あんなの嬉しそうに食いやがって…))

言えない事は募るばかり。


〜〜〜〜〜


(112)不良予備軍

そんなこんなで、晋助の中一としての日々は終わりを告げた。
終了式の日。

「来年も晋助と同じクラスになりたいでござる」

通知表を眺めいささかがっかりしている万斉に、そう言われる晋助。

「……そうだな」

そう返す晋助の通知表は、五段階評価で5の数字が大量に並んでいた。

「ぬしの成績はさすがでござるな…」

「そうか?まぁいい、帰ろうぜ」


万斉と一緒に帰るのがもう当然になってしまった晋助はそう言うが。

「すまぬ晋助、今日は拙者用があっていつもの方向でないところに行かないとならないのでござる。」

「わかった。じゃ、またな。」

「うむ。メールでもするでござるな」

そう言い別れた。

路地裏を通るとき、いつも晋助は背中の竹刀を手に握ってから通る。

「……に、ちょっとくらい……」

「……君、……」

そこにはやはりチンピラがいた。

だが、誰か他の者にたかっているみたいだ。

「いや、お金なんか……」

どうやらカツアゲにあっているらしい。
その絡まれてる奴を助ける義理などないが、道が塞がれて邪魔だ。

「てめーら邪魔だ。どけよ」

チンピラの背中に声をかけた。

「あ?んだよ。お前が金貸してくれんのか?」

「おい、こいつもしかして高杉財閥の坊っちゃんじゃねーか?」

こそこそと彼等は話す。

「……金はねーし、人違いだろ。そこを通りたいからどけ、って言っただけだ」

厄介なのがいるな、と内心晋助は舌打ちした。

「道開けろよ、いい歳こいて餓鬼に金なんかせびるんじゃねぇクズが」

チンピラや不良と会話することが多いせいか銀八の口調なのか、イラついたときの晋助は中一とは思えないほど口が悪い。

それに頭に来たチンピラはジーンズのポケットから黒いものを取り出した。

「餓鬼が調子こいてんじゃねーよ」

バチ、と音をたてるスタンガンを晋助に向けてくる男。
晋助はバッグをその足元にやり、つまづかせた。

「っ!!てめっ…」

そのバックで男の後頭部を殴った。
中の荷物はそれほど入っていなかったので、脳に被害を及ぼすほどではないだろう。

その要領で、その場にいた残り三人のチンピラも竹刀と蹴りとで倒した。
着々と喧嘩のレベルが上がっている。
強くなっているんだ、とどこか晋助は嬉しかった。

そのまま道を通り、家へと帰った。

絡まれていたその学生は、平たい絵にかいたような目で晋助の後ろ姿を眺めていた。


〜〜〜〜〜


(113)中二

春休みなんて特にやることもなく、日数も短い。

あっという間に終わってしまい、晋助は二年生になってしまった。

銀八に関してはまだ春休みだが、休みがあけると三年生。

「…お、今年も万斉と一緒だ…」

「晋助、今年もよろしくでござる♪」

何故だか知らないが、万斉は妙に晋助になついている。
彼の魂の歌とやらが気に入ったのだろうか。

半分うたた寝しながら始業式を終えて、その帰りの事だった。

「随分気持ち良さそうに寝ていたでござるな」

「うるせぇ。……?」

誰かにつけられているような、後ろから見られているような感覚。

「どうしたでござるか?」
「ん、あぁ…いや、何でもねぇ」

その追われるような感覚は、その後も続いた。


〜〜〜〜〜


(114)小さな相談

「ストーカーだぁ…?」


二年生になってからというもの、登下校中はどこからか視線を感じる晋助は、思いきって銀八に相談してみた。

「ああ…俺男だからそれはねぇかとも思ったんだけど…」

「いやぁ晋ちゃんの場合女の子みたいだから有り得るかもしんないけど」

「俺は女じゃねぇ。」

「わかってるよ。もしくはショタコンとか?」

銀八と二人、晋助の部屋で唸っていた。

「………」

「登下校、車で送ってもらえば?」

以前からそう思っていたのだが、

「嫌だ!!」

晋助は銀八の提案に全力で首を横にふった。

「!?な、何でよ。一番安全だろ」

「親の権利にあぐらかいてるみてぇだろ。学校で視線が痛い。ひがまれたらどーすんだ」

「なるほど……」

「まぁ、万斉と一緒に帰ってるし平気かな。明日そいつに声かけてみるぜ」

「え、ちょっそれなら銀さんも一緒に…」

「大丈夫だよ、気にすんな。」

晋助はにや、と笑った。

その笑顔は何故か妖しく綺麗だった。


〜〜〜〜〜


(115)正体発覚

「……晋助、」

「…ああ…来やがったな」

帰り道の途中、晋助と万斉は後ろに気配を感じた。

足を止めると、その気配も立ち止まる。

「おい、こそこそ隠れてんじゃねぇよ」

「拙者達に何のようでござるか」

睨みをきかせた二人は電柱の奥の誰かに声をかけた。

晋助の手には竹刀が、万斉もギターケースを構えている。

「………」

ゆっくりと、相手は姿を現した。

「!!…ぬし…!」

万斉が驚いたように声をあげる。

そこにいたのは、彼等と同じ制服を着た男子。
黒い髪は七三分けで、目と黒目だけが異様に大きく唇が厚い、しかも無表情で正直気持ち悪い顔をした男子。

「武市ではござらんか…!」

晋助も、その相手を学校でちらっと見たことがあったのでハッとした。

「たけち…、っていうのか…」

「いかにも私が武市変平太です」

奇妙な大きな目が、晋助を見つめて瞬いた。

正直ぞわりと鳥肌がたったがこらえる。

晋助はそこでふと思い出す。

確か“武市変平太”という同級生と自分がよく貼り出された試験結果でトップを争っていたことを。

「お前、俺と同級生の奴だよな。何でつけて回ってたんだ?」

そう晋助が聞くと、武市は無言のまま晋助に近寄ってきた。

「…これ、この間落としましたね」

その手にあったのは、晋助の紺のハンカチ。

「……!」

そういえばずっと前になくしたな、と思っていたのだ。

「どこでこれを…?」

「貴方に以前助けられたときです。お礼を言う暇もなくて申し訳ない」

顔も声もあまりに無表情で、本当にそう思っているのかは知らないが。

「助けられた…?」

晋助は記憶を巡らせるが、覚えがない。

「春休み前、カツアゲにあっていたときですよ」

そして晋助は思い出した。

そういえばあのとき誰かがカツアゲにあっていたがその顔を見なかった、と。

「ああ……あいつか。」

「あの時はどうもありがとうございました」

「いや、こちらこそハンカチ…」

「ちょっ、ちょっと待つでござる!そのハンカチを渡すタイミングをはかるためだけに長い間ストーキングをしていたでござるか?」

和やかな空気が流れかけたその場を万斉が制する。

「はい。あと噂を確かめようと」

「「噂…?」」

そういえば以前、晋助が高校生と喧嘩をしているのがいつの間にかに広がったことを思い出す。

「高杉さんが高校生や大人に喧嘩を仕掛ける不良だと…しかし、ここ数日見ていたところ喧嘩を仕掛けられていたみたいですね。正当防衛だと私は思います。だから出所に言っておきました、彼はそんな人間ではないと。お礼がわりです」

たんたんと言葉を続けた武市。

見かけによらずいい奴かも、と晋助は感じた。

「ああ…そいつは助かった…」

「いえ。あ、私も帰る方向一緒なんで良かったら一緒に帰ってもいいですか」

「……いいけど、俺達と帰ったら更に厄介事に巻きこまれるぞ」

「喧嘩が始まったら私は隠れますんで。もうあんな目に遭いたくありません」

そう言い晋助達をじっと見つめてきた。

その黒い目に飲み込まれそうになる。

「…では、帰るでござる」

また一人、近くにいる人間が増えた。

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