(1)新入りになりました

鬼兵隊。
攘夷戦争中に活躍した鬼の様に強い侍達が集う義勇軍。
攘夷戦争が終わり解体されたが、鬼兵隊の総督高杉晋助により再び新たな面子で再構成された。
そして今も過激な攘夷活動を行っている。

その鬼兵隊が乗り込んだ船こそが、今俺の目の前にある。

「………っよし」

俺の故郷は昔、天人共の放った炎で焼かれた。
家族も友達も皆皆死んだ。
俺だけが生かされた。
高杉晋助の助けによって。

髪を結わき直し、帯にさしてある刀を手で確かめ、船に近寄った。


するとすぐさま耳元でジャキリ、と物騒な音がした。

左目の端に銃口が見える。
まぁこうなるだろうとは思ったけども。

「アンタ、この船に何の用っスか?」

濃い桃色の肌寒そうなセパレートの着物に金髪の女が、俺に鋭い視線と拳銃を向けていた。

「……高杉晋助さんに、話があります。」

恐る恐る両手を頭の横まであげてそう言うと女は、

「はぁ!?アンタみたいなガキが晋助様に話ィ?何馬鹿な事言ってるんスか?つかそもそも、なんでアンタが晋助様の事知ってるんスか!?もしや幕府の犬の使いっぱしり!?にしてもこんなガキが真選組にいるもんなんっスかね…』

馬鹿にした口調の質問のマシンガン。多分この女鬼兵隊の1人だろうけど、何だこの人。

「俺は真選組じゃありません。確かにまだ14歳でガキですけど、俺はっ…」
「…俺は、なんスか?」

息がつまった。
俺がここに来た理由は、ひとつ。

「鬼兵隊に入りたいんです!」
女の青っぽい瞳を見据えて言った。

「……………………」


沈黙が続く。


女は呆けた顔で俺を見ている。
負けじと俺も睨みかえす。

突然女がふきだした。

「ぷっ……あははははははっ…!!…アンタが!?鬼兵隊に!?あっははははははっ…はっげほげほっ…」

挙げ句の果てに咳き込み出す女。
こめかみに向けられていた拳銃も下ろし、文字通り腹を抱えて笑っている。

…なんか本当初対面だってのにイラッとくるな。

「ほ、本気で言ってるんスか!?あははっ……」

俺はヤケになって叫ぶ。

「本気ですけど!」

「はは、鬼兵隊なめてんスかアンタは!鬼兵隊何だと思ってんスか!?それともやっぱり真選組の密偵っスか!」

ジャキンッと再び銃口が勢いよくこちらをむく。

「だからっ、違うって言ってるでしょうが!」

「いーや、なめてるっス、真選組もこんなガキ送るなんて!」

「真選組と関係ありません、とにかく高杉さんと話をさせてください!」

「こんな怪しいガキ晋助様に会わせてたまるもんっスかっ!!」

「お願いします!」

「うるさいっスね、このまま頭ぶち抜かれたいんっスか!」

大声でそんなやり取りをしていると、船の方から低めの男の声がした。

「何事でござるか、また子殿?」

群青の服が目の端にうつる。(頭は拳銃をむけられているので動かせない。)

この女はまた子って言うのか。

「先輩、この怪しいガキが絡んでくるんっスよ!」

いや絡んで来たのはお前の方だろう…。

「む、その少年は?名は何と言う?」

段々その声の主が船から降りて近づいてきて見えてきた。
全身夜空の様な群青の服に同じ色の髪、サングラス、ヘッドフォンをかけている上に三味線を抱えた表情のない男。

「あ、雨霧柚希です」

「ちょ、万斉先輩何名前聞いちゃってるんスか!?」

「して雨霧殿、ぬしはここで何をしていたのでござるか?」

「無視すんなっ!ヘッドフォンで聞こえないんスか!?」

この人達本当に鬼の様に強いのか?

「俺は高杉さんと話をさせてほしいんです」

彼女は半ばキレ気味に口を開く。

「小僧もいい加減にするッス!しつこい男は嫌われるんスよ!」

残念ながら嫌われる相手なんていない。

「よかろう」

「「えっ」」

俺とまた子さんは同時に三味線を抱えた男の顔を見る。
見ても表情は読み取れない。

「えっ…でも万斉先輩、怪しすぎるッスよこのガキ」

「拙者とまた子殿がいれば始末も容易かろう、雨霧殿、拙者について来い」

その万斉という男の後に続き、俺は船の中へ入れてもらった。

暗い船内。
思ったより人は少ない。

「言っておくッスけど、晋助様はお忙しい方、長話するんじゃないッスよ!」

また子さんがカリカリしながら俺に言う。

「あ、はい、わかってます」

腑に落ちない、という顔で俺を眺める。

階段を登り、日の光が射し込み少し明るくなった頃、万斉さんは口を開いた。

「ここでござる」

桜の描かれた襖にむかい、
「晋助ー、小さな客が来たでござるよー」

声をかける万斉さん。

「……入れ」

やや間をおいて聞こえた声は、低くて綺麗な聞き覚えのある声だった。

万斉さんが襖をひく。

奥の障子の窓の、木の枠に腰掛け煙管を燻らす人物。存在感がすごい。

蝶の舞う紫色の着物、着物よりも黒に近い紫の髪、深い深い緑色の目、左目には包帯。
昔会ったときは左目は包帯に覆われていなかった気がするが、間違いない。

あの時、俺を助けてくれた人だ。

手前には、灰色の髪をリーゼントに近い髪型でまとめ、緑の着物に身を包んだ、見るからに他の三人より歳上の男が刀の手入れをしていた。

「で、何だ小僧?」

高杉さんは、煙管の煙をはいて尋ねてきた。

どくりと心臓が怯えるようにはねた。

「お、俺は雨霧柚希っていいます、単刀直入に言いますっ、俺を鬼兵隊にい入れてください!」

緊張で舌がもつれる…!!

高杉さんの目が少し見開く。

即座に、

「斬られたいのかぃ、坊や?」

刀の手入れをしていた男が口を開く。

なんでだよ、斬られたくねぇよ!と思いつつ、

「あの、俺本気なんです!昔幕府と天人に痛い目にあわされたんです…、天人に村が襲われて大切な人達はそこで皆殺されて…」

彼は、俺の話を黙って聞いている。

「俺も危うく殺されかけたんですけど、村に天人がいるっと聞いて駆けつけた攘夷志士達に助けられたんです…」

駆けつけた攘夷志士達の先陣をきっていたのが、高杉晋助だった。

あの時の俺は、突然現れた化け物に村の人達が次々に殺されていくのを見て、何が何だかわからなかった。
そこに武装した男達が『鬼兵隊、突撃するぞ!!!!』って叫びながら一気に攻め込んで行って、爆発音や爆風を起こしていた。

俺はどうすればいいのかわからず、兄の死体を抱えて唖然と座り込みそれを見ていた。

すぐに、さっき勢いよく突撃していった男が戻ってきた。

『何してんだ!早く逃げろ!』

爆風の中、俺の腕を掴んで彼はそう叫んだ。

『あの林の前に大きな旗が立っているだろ、あっちの方向にむかってひたすら逃げろ!そうすりゃ道がある、それを真っ直ぐ行けば江戸だ!』

旗を指差しながらしゃがんで、俺の目を覗きこんだ。

『……わかるな?』

俺が頷くと、その人は俺の頭を撫でた。

『高杉!後ろ!』

遠くにいた白い羽織を着ている男がその人を呼ぶ声がすると、彼は後ろに近づいていた天人の首を刀ではねた。

再び叫んだ。

「行け!」

夜だったし、後の炎で顔がよく見えなかったけれど、
あの紫色の髪と深緑色の瞳は覚えている。
すごく憧れた。

その人は俺の事なんざ覚えちゃいないだろうけどな。

「その攘夷志士達は、鬼兵隊と叫んでいました……」

後ろで女の人の息を飲む声がした。

「凄く憧れたんです、高杉さんに!俺を、鬼兵隊に入れてはくれないでしょうか!?」

「し、晋助様、こんな作り話みたいなのに騙されないで下さいっ!今すぐ始末してもいいんッスよ!」

慌てて言うまた子さん。
彼女は俺の事が本当に嫌いみたいだな…

「そうだねぇ、胡散臭いよねぇ…」

刀の手入れを終え、満足げに刀を鞘に納めながら手前の男も言う。

「そもそも、アンタどこで晋助様の名を知ったんスか!?」

「高杉、って他の人に呼ばれてましたし、そこらじゅうに指名手配の顔写真が貼ってありますよ?」

答えるとまた子さんは小さく舌打ちしていた。

「お前、さっき来島と張り合ってたよな?いつ殺されてもいいような状況で…」

高杉さんが窓の外を眺めて言った。

見てたのかよこの人、さっきまた子さん『忙しい人』って言ってなかったか!?

「は、はい、まぁ……」

これ駄目だったら殺されるんだろなぁ、ここまで来たんだから…

そしてその人は俺の目を見て呟くように答えた。

「…隊の雑用にしてやるよ」

……え……。

その場にいた全員が(特にまた子さん)驚いた色を顔にみせた。

「!ありがとうございます!!」

えっ、やったっ、いいのか!?ほんとに!?

嘘だろ、夢みたいだけど夢じゃねぇぇっ!!!


「来島、そいつに空いてる個室渡しとけ」

「え、は、はい承知しました晋助様っ!」

そして俺の首根っこを掴むと、

「行くッスよ新入り雑用っ!!」

あたり気味に強引に引っ張っていく。
力が強く、首が絞まって苦しい。

「ちょちょまた子さんく首絞まります首くび!!」

俺の嘆きは多分届いていないだろう。

そのまま部屋から引きずり出される。

緑の着物の男も、中に声をかけ出ていった。





その場に残った2人は、話し出す。

「珍しいでござるな、こんなにあっさりとぬしが許可を出すなんて…」

「………」

無言で煙管を燻らす。

「もしかして、あの少年を逃がしたことを覚えていたのでござるか?」

問いかけられ、小さく言葉を紡ぐ。

「さぁな…?……ただ…」

目を細める。


そして、

「似た匂いがしたのさ、誰かに」

相手が聞き取れないほどの小さな声で呟いた。

シャカシャカ音のもれる陰陽マークのヘッドフォンを取り、小首をかしげ、ふぬけた声を出す。

「ん?今何て言ったでござるか?」

そんな相手を呆れたように眺め、少し間を置き口を開いた。

「いや…てめぇ人と話すときはヘッドフォンとれ。」


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