【23】

(103)発覚

晋助が電車を降り、改札をぬける。

((晋助にバレてはいないみてーだな…))

晋助は一度も後ろを振り向かず凛と姿勢よく自分より背の高い大人達を掻き分けて進んでいく。

どこかたくましくて、やっぱり晋助も男の子なんだよな、なんて思ったり。

((なんか黒の○織追跡するコ○ン君みたいな気分になってきた。いや、サイズ的にはあっちのほうがコナ○君なんだけど。))

歩いていると、晋助はひょいと暗めの路地裏に入り込んだ。

((いつもあんなとこ歩いてんのアイツ?強姦魔にでも会ったらどーすん…あ、男だった…。))


*


さっきから誰かに追いかけられているような気がする。

少し怖くて、早足になる。

だが確信はないので、自意識過剰だと思いたいのだが。

路地裏にひょいと入り、ガタガタと音をたてるキャリーケースを引きずりながら走る。

「そんな急いでどこ行んだよ、高杉財閥の不良くん」

最悪なタイミング。

目の前に現れたのは、この間倒したはずの高校生。

リベンジの奴だけではなさそうで、今日は6人もいる。
それに対して晋助は今日竹刀を持っていない。

「…っ悪いけど、旅行帰りで疲れてるからまた今度にしてくれや」

「そんな理由が認められるってか?」

「前回の借り、返してもらうぜ」

「獅子は兎狩るのにもなんとか、って言うだろ」

釘バットやらを持って下世話に笑う不良共。

((まずい………))

晋助が武器になるものがないかと辺りに目を配っていると、後ろから不意に風を感じた。

何かが彼の横を横切った。

「っっ!」

「うぉぁ!?」

「う゛っ…」

「てめぇ一体…!?」

不良達に拳と跳び蹴りを食らわせた、その正体。

それを見て晋助は一瞬、心の底から嬉しく思った。

が、背中から放っているのは、
殺気と、怒り。

「……ぎ、……」

((ずっと隠してたのに……))

「晋助?前回、ってどういう事?」

薄ら笑いを浮かべ、怒りを露にした男がそこにいた。

「……銀八っ…!!」


〜〜〜〜〜


(104)隠し事

高杉財閥の息子ということと通っている学校、その強さはいつの間にかに不良達にまで伝わってしまっていた晋助。

制服を着なければ基本的に襲われないのだが、今日は制服だった。

銀八には金目的で大人に絡まれていたことさえ言っていない。

だから、私服で夏休みに泊まったときには送ってもらったけど今回は断ったというのに。

「晋助?大丈夫?」

返事もなくかすかに肩を震わせる晋助を、銀八は撫でてやった。

だがその手から伝わる怒りは収まりきらず、晋助は焦るばかりだ。

銀八が何故怒っているかと言えば、晋助が自分にそんなに大変そうな事を隠していたこと。

一番自分を信頼してほしかった。
一番全てを知りたかった。
誰よりも何よりも一番、こいつを護ってやりたかった。

一方晋助は銀八を巻き込みたくない一心で。

「……晋助、」

晋助は目をそらしながらやっとの思いで言った。

「銀八、には関係ない…」

銀八は目を見開いた。

「なんっ……!!」

「ごめん、銀八っ…でもお前には…」

「晋助!!」

声をあらげた銀八に、恐る恐る視線を戻す。

すると、銀八はさっきまでとはうってかわって悲しげな今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「……俺じゃ、頼りにならねェか…?」

晋助はその赤い眼を見て、なんとも言えない気持ちになった。

罪悪感に襲われる。

「…違う……」

「じゃあ…」

晋助は銀八に抱きついた。

かがんで晋助の眼を見つめてくる銀八の首に。

これ以上聞かないでくれと言うように。

「………晋助…」

「銀八っ、銀八、銀八ごめん…!!」

晋助は銀八にそう言うと腕を緩ませ、
放置されていたキャリーケースを持って(キャリーケースにつっかかりながら)家に走っていった。

銀八はその後ろ姿を見ながら、

「………っ!」

スニーカーがいかれるまで壁を蹴り、どうにもならないもどかしさをぶつけた。


〜〜〜〜〜


(105)彼なら

晋助が銀八に隠し事をしていると知れた現在、晋助と銀八の距離は少し離れてしまった。

「…ちゃん、…銀ちゃん?」

銀八は何をするにもどこか上の空だった。

「あ、あぁ…悪ィ、どうした神楽?」

「銀ちゃん最近ずっとぼーっとしてるアル。何かあったアルか?」

「いや、糖分足りねーだけだ。心配かけてすまねぇな」

神楽にそう訊ねられ、苦笑いしてその頭をぽんぽんと撫でる銀八。

「そうアルか?じゃあこの飴あげるネ!」

神楽はにっこりと飴を渡してきた。
神楽が他人に自分の食べ物を渡すなんて銀八ははじめてで驚く。

それほどに自分は疲れた表情をしていたのか。

「お前いいとこあるんだな。さんきゅ」

「その代わり今度酢コンブ買ってヨ」

「…前言撤回…。」



また、家庭教師の仕事でも時々ミスをしてしまう。


銀八に今日やる分の教材だと渡されたプリントを見て、新八は小首をかしげた。

「…あれ、銀さん」

「んぁ?」

「これこの間のプリントですよね?今日も復習ですか?」

「…あ、やべこれ神楽に持ってくやつじゃん…」

「最近疲れてるみたいですけど、何かあったんですか?」

新八にも同じことを言われ銀八は動揺する。

「えっ……」

「何か、死んだ魚?みたいな目してるんですよね……ああ、元々なんですけど更に」

「新八くん最近Sになってない?」

生徒二人にも心配される始末だ。

いつもよりも思い足取りで電車に乗り込み、ぐったりと電車の扉に体重をかけると、ふとそこから病院が見えた。

そしてある人を思い出す。

その病院でなかなか目を覚まさない彼。

「…松陽先生なら、」

松陽先生なら、晋助の悩みを全て受け入れられるだろうに。

自分が無力なんだと、心配されてしまうほどなんだと思い、むしゃくしゃしたように白髪頭を掻いた。


〜〜〜〜〜


(106)料理しがてら

ゴロゴロ、と独特の音が遠くからした。

「あ、雷まで鳴ってるアル」

「おにーさん傘持ってる?」

銀八が神楽の家を出る頃、外はどしゃ降りの雨が降っていた。

「あー多分持ってる」

「もう少ししたら雨足も弱まるんじゃない?うちで夕飯食べていきなよ」

神威に腕を掴まれ、食卓に連行される。
抵抗すると逆に何かされそうなのでありがたくいただくことにした。

「じゃあ俺も手伝う。独り暮らしだし料理はそこそこ得意なんだぜ」

「ホント?助かるよ」

キッチンに男二人というなんとも不思議な図。
神楽はソファに横になってテレビを見ている。

「じゃあ卵と牛乳と苺と……」

「ちょっと待っておにーさん。何作るつもり?」

「いやちょっとデザートを」

「おふざけが過ぎると殺しちゃうぞ☆」

「すいません。」

いつも喧嘩のせいで絆創膏だらけの神威が手際よく野菜を切る姿は新鮮だ。

「そういえばずっと神威に聞きたかったんだけどよ」

「何?俺の強さの秘密?」

「知らねーよ。興味ねーよ」

相変わらずけたけたと笑う神威。

「じゃあ何??」

「お前何年生なの?」

「中3。神楽より2つ上だよ」

まだ中学生なのに喧嘩なんかしてるのか、とは言葉にしなかった。

「おまっ…今年受験?」

「うん。」

「どこに行きてぇんだ?」

「春雨高校」

「はるっ………!?」

春雨高校といえば、この辺りで最も自由な高校。
規則も緩く制服は無し、金もそこまでかからない。
だが偏差値はそこそこ高めだ。

「お前…行けんの…?」

「俺色んな部活掛け持ちしていっぱい実績だしてるから、どれかしら推薦が来るよ。春雨って運動部に力いれてるでしょ?」

神威のいう通り、春雨高校は特別な仕組みの学校だ。

運動が特別に優れた者、もしくは勉強面が特別に優れている者のどちらかが集められる。

そのなかでも優れる者は何と学費免除。

才能を持つ者は待遇されるが才能のないものはいじめられる。
ある意味弱肉強食だ。

「でもいちおー運動系で入学するにも簡単な試験あるらしいからね、ちょっとは勉強しないと。」

「そうだぞ、んの時は俺も手伝ってやるから」

そんな話をしながら大量の餃子を焼き終わり、ラーメンも盛り付け終わった。

「お前らやっぱ相当食うんだな…」

「そう?あ、冷蔵庫に昨日のチャーハン入ってるから出して」

「え、この上まだ食うの?」

「俺ら成長期だから!」

晋助なら絶対こんなに食わないな、と思いながら冷えたチャーハンをレンジに入れる。

((……晋助、か))

会ってもやっぱり上手く話せない。
銀八はもう大人なのでそこそこに表情を隠して話せるが、晋助は後ろめたそうにしている。

((…俺はどうすりゃいいんだ…?))

「ちょっとっ、おにーさんチャーハン温めすぎ!もう出して!」

考え事に没頭したら、五歳年下に怒られた。



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