【22】

(98)枕投げ

いっぱい観光して、宿に入って大浴場に行って食事もして。

布団を敷いたら眠くなり、それでも晋助は銀八宛にメールをしていた。

「なー、枕投げしよーぜ」

「構わぬがこの下は先生の部屋でござるよ?」

「マジか!じゃバタバタするからできねーじゃん」

「じゃ怪談しよ?」

「俺怖いのやだ」

「ってか高杉は?何してんの?」

部屋の隅っこで体育座りしながら携帯(一年ほど愛用してるスマホ)をいじっていた晋助はようやく話しかけられる。

「ん、メール」

「誰に?」

「…兄貴?みたいな…」

「何だそりゃ」

銀八をどう言えばいいのかわからず、晋助はやや口ごもった。

「なぁなぁ、今期のアニメ何見てる?」

「この中でオタクはぬしのみでござるよ」

「お前らも見ろよー、美少女戦士トモエ5000とか次の時期にアニメ化するから!」

話題が変わり、晋助はそのままメールを続ける。

送信ボタンを押した瞬間。

「ぶふぉっ!!」

晋助の顔面に白いものが当たる。

膝に落ちたそれを見ると枕。

「枕投げは止めたんじゃなかったのかァ……?」

怒りを込める晋助は、ニヤニヤしてるいたずら好きの友達の顔面に全力で枕を叩きつけた。

夜の学生は無駄にテンションが高いものだ。

「ぼはっ!!!やったなコラ!」

「むっ!拙者までなぜ巻き込むでござるか!」

「ちょ!河上!何で俺なんだよ!」

「あっ高杉避けんなっ、どぅは!!」

二次災害を食らう万斉達を見て、晋助は器用に避けながら笑った。

「ははははっ、やべぇお前ら面白すぎ」

銀八の家に行ったときも桂の家に行ったときも、枕投げをしたことのなかった晋助。

空気に酔うように上がったテンションで枕をぶつけ合った。

珍しく年相応の子供らしい表情で晋助は笑っていた。

そのあとすぐに体育会系の教師が入ってきて注意されたのは言うまでもない。


〜〜〜〜〜


(99)噂話

修学旅行2日目、朝。

『誕生日おめでとう』

そう書いたメールを一通送り、晋助は心地よい布団から抜けた。

顔を洗い、皆を起こし、布団を畳ませる。

「おい万斉いつまで寝ぼけてんだ。はやく着替えろ」

「待つでござるぅ〜…拙者はこれからネオアームストロングサイクロン…」

「いいから起きろ!」

普段メイドにやってもらっていること。
誰かを起こす。布団をたたむ。服をたたむ。

めったにやらない新鮮なそれを、晋助は楽しみながらこなした。

食堂に向かう途中。

「あ、俺部屋に忘れ物した」

「取ってくるか?」

「おう。お前ら三人で先に行っててくれ」

晋助はいつもこっそり持ち歩いているスマホを取りに個室へ戻った。

「……俺、聞いたんだよね…」

ふと、曲がり角で違うクラスの男子の声がした。

「隣のクラスに高杉って奴いるじゃん。あのちっちゃい奴」

ちっちゃいと言われカチンと来たが、姿がその男子に見えないように立ち止まった。

「アイツ、この間路地裏で北高の高校生と喧嘩してたんだって」

ドクン、と大きく鼓動がなり、胃の辺りが冷えるのを感じる。

大人を返り討ちにする力の中学生、しかも金持ちで絶好のカモになるということだろうか。
最近は高校生の不良達や大人のチンピラまで絡んでくることがある。

大抵は万斉が一緒にいてくれて返り討ちにするのだが、その高校生に絡まれたときはちょうど万斉がいなかった日だ。

巻き込まないですむとホッとする反面、続きに耳を傾ける。

「マジかよ!?」

「マジマジ。どっちが勝ったと思う?」

「そりゃ高校生だよ。高杉痩せてて弱そうだもん」

「そう思うっしょ!?でもあいつ、竹刀で高校生叩いて、一人で勝っちまったの!」

「すげぇ!つかそれ学校の問題じゃないの?」

「俺もそう思うんだけどさ、先生に言った方がいいかな?」

晋助は血の気を失った顔で唇を噛みしめた。

晋助は普通の子供より賢い。

もし今ここで出ていって“言うな”なんて言ったら。

“噂の出所を教えろ”なんて言えば。

竹刀一本で大人を倒せる晋助が言えば、それは脅し。

無論、出所を突き止めるのも怖い。

晋助がそんなことをしている(先に攻撃しないが)なんて知っているのは、一人だけだ。

晋助が襲撃される度、助けてくれた友人。

((まさか、万斉が…?))


そんなことはありえない、と思おうとするものの頭はそう回って。

結局取りに戻らないまま食堂に行った。

「ん、高杉来たか」

「…どうしたのでござるか?」

万斉には何も言わなくても何かあったとバレる。

「…別に」

晋助は、何も言わなかった。


〜〜〜〜〜


(100)20歳の誕生日

「あ゛ー眠ィ……ってメール来てんじゃん…誰よ…」

いつもにましてぐだぐだな寝起きの銀八。
昨日は久々に坂本と会っていたのだ。

12時を越えたら元カノや友達から大量なメールが来て、もう二十歳だと酒を大量に飲んでしまった。

お陰で吐き気と頭痛、目眩にやられて布団から抜けられない。(介抱はまだ酒を飲めない坂本がしてくれた)

「あったまいてー…気持ち悪っ…うぷっ…俺の体質に酒あわねーのかな…?」

そう言いながら携帯を開くと、晋助から祝いのメールが来ていた。

すると銀八は嬉しそうにかこかことメールを開く。

『誕生日おめでとう 帰ったら今度はケーキバイキング俺がおごってやる(笑) 免許とったら乗せろよ』

「……何様だよガキのくせに…」

吐き気が、少し止んだ気がした。


〜〜〜〜〜


(101)サングラス

「万斉…」

その日の夜、晋助は意を決して万斉に聞くことにした。

「何でござるか?」

愛用のギターを持ってきたものの、うるさいと言われ先生に没収されてしまった万斉はやや手持ちぶさたなようだ。

晋助は他の2人が飲み物を買いに行ったのを見計らい、万斉に飛びついた。

「!?」

サングラスを外すために。

サングラスを外して直接目が見えれば、幼い頃から大人の顔色を伺って生きてきた晋助にとって嘘を見抜くのは容易い。

作戦は成功し、光になれないのか万斉は慌てて目を閉じる。

「コイツ返してほしけりゃ正直に答えてくれ。」

「いきなり何でござるかぁ…?」

「少し前、俺は北高の不良に絡まれた」

万斉はそれを聞くと、薄く開いていた目をカッと開いた。

「いつのことでござるか!?」

「……!?」

「場所は、またいつもの路地裏でござるか!?それとも公園の裏の──」

「ちょっ、待て!お前は知らねぇのか!?」

「拙者がいなかったときの事でござろう、拙者の知り合いに北高生がいるので制服を見ればわかる。つまり晋助が言ってくれなければ知るわけないでござるよ」

余りの驚きようと怒りように、万斉は確実に違うと判明した。

「…いつも通り無傷で追い返したしいいんだけどよ…なんか、まぁ…いいや」

「それがどうしたのでござるか?」

「ん?なんかもう安心しちまったからいい」

仲のいい友人を無くすのが怖かった晋助は、万斉が犯人でないとわかっただけでホッとした。

「…拙者のサングラス…」

「ああ、悪かったな」

ふと、晋助は万斉に返す前にかけてみた。

「!!」

度入りのサングラスのようで、視界が暗くなった上にグニャリと歪む。

「なっ、んだこれ!!」

思わずすぐに外して万斉に放り投げた。

「なんだ、とは失礼な。」

その時、部屋に同室の2人が戻ってきた。

「「あっ、河上がグラサンはずしてる!!!!!!」」

よっぽど想定外だったのか、目を丸くして同時に声をあげる。

「高杉すげーなお前、小学生の時から一度も外したことのない河上のグラサンを!!」

「え、そうなのか!?」

「まぁ、そうでござるな」

「確かに寝てるときもつけてたな……なんか悪ィ…」

「いやいや、高杉よくやった!これで俺の友達たちに自慢できる!」

「グラサン外した河上を見た、ってな!」

相変わらず高いテンションで、そのままウノになだれこんだ。


〜〜〜〜〜


(102)一日遅れの誕生日

「銀八か?今からお前ん家行くから」

『は、えっ、えぇぇえぇぇ!?』

修学旅行の帰り、予定より早く帰ってこられたので晋助はその足で銀八の家に向かった。

連絡を入れたときの銀八の驚きようなんて気にしない。

キャリーケースを引きずりながら銀八のアパートまで歩く。

「あれ、確かアンタ、夏に銀八のトコにいた子じゃないかい?」

アパートの階段を登っていると下から声をかけられた。

「?」

そこにいたのは黒い着物を着たおばあさん。
髪も和風に結っているが、化粧が濃い。

タバコをくわえていて、晋助を見上げて少し笑った。

「ああ、紹介が遅れたね。あたしゃ寺田ってこのアパートのオーナーさ。まぁここに住んでるわけじゃないけどね。銀八をよろしく頼むよ」

「……はぁ…」

「ちなみにアンタ、名前は?」

「…高杉晋助。」

「そうかい。覚えておくよ」

人見知りを発動させた晋助は無愛想なまま階段を上がっていった。

そしてインターフォンを押す。

『はぁい、新聞ならいらねーぞ』

「銀八、俺」

『おまっ…オレオレ詐欺ですかコノヤロー…』

銀八の声が聞こえてから、すぐにドアが開いた。

「いらっしゃい、お帰り。」

「…ただいま。」

銀八は晋助を見てふわりと微笑む。

「誕生日おめでとうだったな」

「ありがと。つか晋助の制服久々に見たわ」

「10月に冬服暑い」

晋助の荷物を部屋に運ぶ銀八に、晋助はそう言いながら手にかけていたビニール袋を渡す。

「ん?」

「八ツ橋。食いたかったんだろ」

「っっ、晋ちゃぁぁん!」

銀八は晋助にぎゅっと抱きついた。

「ちょ、銀八!重い!」

晋助は顔を真っ赤にしながら銀八を剥ごうとする。

「晋助さんきゅ♪」

銀八は晋助の頭をポン、と撫でて離してやる。

名残惜しそうな晋助と会話を続けた。

「今日は暑かったな。アイス食べる?」

「食う」

平和な会話を続けて、夕方の五時頃に晋助は銀八に駅まで送ってもらった。

「ホントに駅まででいーの?また晋助の家まで…」

「大丈夫だから。銀八明日大学も仕事もある日だろ。休んどけよ」

「いやぁ…」

「いいから!じゃあな!」

前回、泊まりに来たときは銀八に恥ずかしがりながら『家まで来て』といって一緒に着いていったのだ。

あからさまに、焦ったような拒絶の仕方。

((…何か、隠してんな…))

銀八は、晋助に気づかれないようにこっそり後を追った。

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