【21】

(93)メール

その日家に帰ってテレビを見ていると、晋助のスマホが着信音を鳴らした。

『河上万斉でござる(▼-▼)試しにメールしてみたでござるよ』

万斉の絵文字に思わず晋助は、笑う。

『ちゃんと登録したぞ。つか顔文字そっくりだな』

『うむ。拙者とすぐにわかるでござろう(▼-▼)』

『ただのサングラスなのにな』

『拙者のサングラスは逆三角というレアな形でござるからな』

『そろそろ飯だから行く。じゃあな』

『ではまた明日でござる』

友達とメールは久々だった晋助にとって、短文でも楽しかった。


〜〜〜〜〜


(94)酢コンブの仇

「おばちゃーん、酢コンブ五個頂戴ネ!」

神楽は酢コンブが好物だ。

神楽の行き付けの駄菓子屋では、彼女のために酢コンブが大量に置いてある。

いつものように彼女がそこで酢コンブを買っていると、二人少年が入ってきた。

「で、そこで俺は土方さんにバズーカを打ってやるんでさァ!」

「もうその夢の話五回目だよ」

「なんでィ、もう聞きたくねーのかィ…?つか何だこの酢コンブの数…」

二人共中学生くらい。

一人は栗色の髪に赤茶色の瞳の可愛らしい顔の少年。

もう一人は、黒髪黒眼の地味で大人しそうな少年だ。

「俺酢コンブって食べたことないや」

「食ったことねーのかィ?酸っぱくてくそまじぃ干物でさァ」

それを聞いた神楽は、栗色の髪の少年に怒鳴った。

「お前っ!酢コンブを馬鹿にしたアルな!!」

突然怒鳴った可愛らしい少女に二人はビクリとした。
が、言われた少年は言い返す。

「あんた、こんなのが好きなんですかィ?味覚どうかしてまさァ、いっぺん病院で診てもらうのをおすすめするぜ」

「許さないアルっ!!食らえっ!バルムンク=フェザリオンの必殺技ヘルズファキナウェイ!!」

「なんでバルムンクの必殺技アンタが使うんでィ」

「つか厨二……!!」

神楽の蹴りを、少年はひょいと交わした。
神楽は壁に激突する前に宙返りして着地する。

そして少年は、持っていた竹刀を抜いた。

「やるな、小娘!」

「お前こそ!」

「いざ、尋常に」

「勝負アルゥゥ!!」

「喧嘩すんなら外でやんな!!!!」

そこで、ようやく駄菓子屋のおばさんが二人に介入した。
無論、キレ気味だ。

「あわわわっ、すすいません!」

喧嘩してない地味な少年が真っ先に謝る。

「「はぁい……」」

二人も渋々謝り、外に出た。


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(95)交差点

九月と言えどまだまだ暑い、入道雲が広がる夏空の下。
二人の子供が対峙していた。

「沖田くん、女の子相手にやめようよ!」

「うるせーぞ山崎。今日ラケットの素振り中に土方さんのチャリにぶつけて倒しちまったこと本人に言いつけやすぜ」

「…………。」

沖田、と呼ばれた少年は自分が持っていた竹刀を構える。
普通に比べ太陽に弱い神楽は、薄手の半袖パーカーのフードを被ってから構えをとった。

「行くアル!」

「かかってこい!」

そんな景色を、周りの人は見て見ぬふり。

そろばん塾へ行く途中に、そこを通った紫髪の少年は少し足を止めた。

((何やってんだアレ…喧嘩か?女に男が武器持つなんて、なっさけねぇの))

近い未来、彼らと同級生になるその少年はそのまま駄菓子屋に入っていった。

「おばさん、何でもいいからこの店で一番甘い菓子くれ」

「ほわちゃああぁぁあ!」

「うるぁぁぁあぁぁあ!」

((ただでさえ暑いのにうるせーな…))

「何がいいかねぇ…麩菓子とかどうだい?」

「ああ、それでいいぞ」

「甘いものが好きなの?」

「んー…俺の知り合いが。そいつにやるんだ」

「そうかい。仲がいいんだねぇ」

「……まぁな」

恥ずかしそうに少年が笑ったとき、銀髪の大学生がどこか遠くで大きなくしゃみをした。

「ぶぇっくしゅん!!!」

『どうしたかー銀八ー、風邪かや?』

「あー、いや。電話中にでけぇくしゃみして悪かった辰馬」

そして、少年と少女の戦いはというと。

「すごい…武州道場で一番成績のいい沖田くんと互角にやってる!」

山崎と呼ばれた少年は呟いた。

防具を付けていない相手を手加減なしに叩けないというハンデがあるものの沖田は、自然が生んだ馬鹿力を持つ神楽と互角だった。

「お前、うちの兄貴ほどじゃないけどなかなかやるアルな…!!」

「おめーこそ、地区大会でやり合った佐々木ほどじゃねーがやるじゃねーかィ…」

「もうそろそろ夕飯の時間アル…続きはまた今度ネ!」

「俺もそろそろ帰んないと姉さんが心配しまさァ、そうしやしょう」

その場はお開きになった。


((今日の夕飯は確かカレーだったアルな♪))

((あの女、素手で俺とやりあうなんて何者でさァ…?))


「「あ、名前聞き忘れた……」」


距離を置いた少年と少女の声が、重なった。


〜〜〜〜〜


(96)あくまで保護者目線

「修学旅行?来週から?」

晋助の家で高いクッキーを食べていた銀八。

「そ。これしおり」

季節は10月。

「ふーん……9日から11日ねぇ…京都か、いいじゃねーか」

「だから、銀八の誕生日祝えない。…ごめんな」

「あ、そっか。10日俺の誕生日じゃねーか」

今年の10日は、銀八の20歳の誕生日だ。

「別にいいって。あ、土産買ってこいよ」

「わかってらぁ。甘いモン買ってきてやるよ」

「八ツ橋とか買ってきて。それか団子とかでうまそーなの」

「わかってるっての」

ふいに、晋助の机の上の携帯が鳴った。

『〜♪』

「ん、鳴ってるよ晋助」

「ああ」

「その曲いいね」

晋助に携帯を渡しながら銀八が言う。

「曇○?どっかのアニメのオープニングらしいけど、いい曲だろ」

「○天か…俺もそれ好きかも。」

「あ、万斉だ」

「…誰?」

「河上。いつも話してるだろ」

銀八は、いつの間にかにしたの名前で呼んでいることに眉をひそめた。

((いつの間にそんな名前呼びなんて親しい間柄に…いや違う違う!別に妬いてる訳じゃねーぞ、俺は父親というか兄というか保護者代わりだからこいつが友達と上手くやっ【以下略】))

「そういえば理科の課題明日までだっけな……」

どこか楽しそうにメールを返す晋助を眺め、銀八は頭を軽く掻く。

((でもま、よかったな。ちゃんと馴染めてる…))

そして優しい兄のように、弟の頭を撫でてやった。


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(97)嘘つきセンサー

京都の和風な町並みの中を、数人の少年が話しながら歩く。

「関西なんて来たの初めてなんだよな、俺」

「奇遇でござるな。拙者もでござる」

そこまで親密に話したりすることはないものの、
まわりの同級生は晋助が優しいことに気付きだして晋助に良い態度をとってくれるようになった。

外見も頭も良く金持ちなのに、それを決して鼻にかけないのが皆に好かれる点の一つでもあり。

万斉と一緒に晋助が「修学旅行で同じグループになってほしい」と言った際には、同級生達は喜んで二人を迎えてくれた。


「万斉もか。」

「俺来たことあるぜー、奈良にばあちゃん家があるんだ!」

「高杉金持ちだから来たことあると思ってたのに意外だな。」

「ばっか、旅行も海外なんだろ!ハワイとかヨーロッパとか」

「ちょっ、待てよお前ら」

勝手なことを言い出す友人達を晋助は抑える。

「うち両親とも仕事忙しくて…こっちの方には旅行したことねーんだ。海外もないぜ。近場だけ」

その場はそう言うが、家庭が家庭だったので家族旅行は近場でさえ一度もしたことがないのだ。
否、三人で仲良く買い物したことさえない。

「そっかー、仕事忙しいよなぁ…」

「それはそれなりに大変だよな」

「あ、あれ旨そう!」

彼らの話題が変わった頃、晋助の肩に手を置き万斉はそっと呟いた。

「あまり無理するでない」

嘘をついたことについて言っているのだろう。

「……お前には見透かされちまうな…」

「見透かす、というか聞くのでござるよ」

晋助は苦笑いした。



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