【20】

(88)喧嘩好き

「ちーす、坂田です」

「あ、お兄さんやっほー」
神楽の家に来た銀八。
神威には相変わらずお兄さんと呼ばれている。

「お兄さんさ、ケンドーって知ってる?」

「?剣道のことか?」

おかしな発音だったため一応再確認。

「そうそう、竹とか木とかの棒振り回して戦うやつ」

「その言い方すげぇしょぼいからやめてくんない!?竹刀とか木刀ね!?」

「やったことある?」

「俺をナメんなよ?剣道に関しては関東大会まで行ったんだかんな!」

「へぇーすごい!!強いの?」

「そりゃあ…なぁ?」

「じゃあ俺と闘り合ってくんない?」

神威は座っていたダイニングテーブルからひょいと飛び降りて何かの格闘技の構えをとった。

「は?ちょ、え?」

「兄貴!!先生に手出しちゃだめアルよ!」

そのとき神楽がリビングに入ってきた。

「え、え?」

銀八は状況を掴めずに一人混乱している。

「あ、神楽。シナイかボクトー持ってる?」

「それ何アルか?」

「待て待て!!神威お前は何をするつもりだったんだ!?」

神威の構えを止めさせながら銀八は訊いた。

「え?俺喧嘩マニアだから手合わせしてもらおうと」
「先生だめヨ、兄貴は喧嘩オタクだから強いとか聞くとすぐに闘いたくなっちゃうネ」

二人の言葉ではたと気づく。
よく神威の身体は包帯や絆創膏で隠れていたことに。

「…お前学校でも……」

「うん!お陰で最近停学ばっかり。今は夏休みだけどね」

神威はけたけたと笑う。
銀八だって停学なんてめったに受けなかったので、銀八は苦笑。

「お前…親父さんに顔向けできねーじゃねーか…」

「うちの家系は皆喧嘩好きなんだ。ね?」

「私を一緒にしないでヨ。私は立派な和平主義者ネ」

「平和主義者な」

それから神威は、よく銀八の元に竹刀やら木刀やらを持ち込んで戦いを挑むようになった。


〜〜〜〜〜


(89)夜兎語り

「お前らは一体どういう状況で育ったんだ…?」

神楽にプリントを渡してから銀八は一人呟いた。

「センセー…」

「ん?つか俺正式には教師じゃねぇからセンセーじゃなくていいぞ?」

「わかったアル。じゃ、銀ちゃん」

((順応早っ…!!!))

「…銀ちゃんになら、話してもいいアルよ」

神楽は4Bの鉛筆を置いて、銀八の方を見た。

「??」

「私達は夜兎山っていう山の奥に引き込もって狩やら漁やらで命を繋いできた一族アル。だから、山の麓の人達は皆私達を夜兎族とか夜兎って呼ぶネ。もともと夜兎山に住んでる人はたくさんいたアル…でも、……」

神楽は夜兎について話しだした。

夜兎は、古くから動物を捕って命を繋いできたせいか、普通の人間に比べ五感も運動神経も優れていた。
力も圧倒的に強く、
また、好戦的になった。


いつからか、夜兎は麓の人間から化け物のような扱いをされていた。

木に遮られて日光を浴びることのない夜兎の肌は透けるように白く、見分けは簡単。

ある時、一人麓に降りた夜兎がいた。

麓の人間は夜兎を恐れ、山に追い返そうとした。

太陽の光に目が眩んだ夜兎は物を投げつけられ、攻撃されボロボロになった。

害を加えていないにも関わらず攻撃された夜兎は、動物に反撃するように、当然に麓の人を何人も殺した。

夜兎山の麓の人間が大量虐殺された、と噂はあっという間に広がった。

ほとんどの者は、麓の人間がいないのをいいことに布や茶色い実で肌を隠したり色を変えたりして下山した。

皆、都での暮らしに憧れていたのだ。

人は殺してはならない、と最初に降りた夜兎に教えられたものの、彼等はうまく感情がコントロール出来ずに怪我を負わせてしまうことが多かった。

そしてその場に居づらくなり、転々と国境さえ越えて移り住む夜兎もいた。

「私達は一番最後まで夜兎山に住んでた一族アル。でも、私は友達とか都会に憧れて、兄貴はケンドーやらジュードーやら、この国の武術に憧れてたアル。で、下山したネ。降りて早々夜兎ってバレて、パピーは私達を日本に連れてきたアル。パピーは今悪い人を捕まえる、警察っぽいことしてるヨ。」

銀八は、まるでおとぎ話のような話を聞かされた。

そんなことがあるのかと驚いたように目を丸くしていたが。

「銀ちゃん、怖がらないでネ?」

じ、と不安な色をした神楽の瞳が銀八を見上げてくる。

「…怖がっちゃいねーけど、お前らの謎が解けてスッキリしたわ。」

「…ホント?近寄りたくないとか…思ってないアルか?」

神楽にとって、夜兎の血とは人から避けられてしまう最大のコンプレックス。

本当は誰にも言うつもりはなかったのだが。

「別に思っちゃいねーよ。安心しろ、俺はそんな事に偏見持つほど細けェ男じゃねーぜ」

神楽の頭をぽん、と優しく撫でた。

「!…銀ちゃぁぁあんっ!!!!」

神楽は銀八に飛びついてきた。

「よしよ…し…っ…く、苦しっ…つかいだだだだいたた痛い痛い、神楽ちゃん離して離してくれ…」

「銀ちゃん、私、銀ちゃんがセンセーで良かったアル…♪」

「話聞けっ…ちょ、ちょ肋骨折れる!骨逝く!ああああああああ!!!」

神楽と神威の生い立ちよりも、神楽の馬鹿力に悩まされる銀八であった。


〜〜〜〜〜


(90)弟

夏休みも終わりに近づき、蝉の声が五月蝿い暑い日の事。

晋助は病院に連れていかれた。
晋助の体調が悪いのではない。
彼の義母が産気づいたのだ。

赤ん坊は男の子だと聞かされている。

神妙な空気が流れる分娩室の前の細長い椅子に、晋助の父と晋助は向かい合って座っていた。

晋助の父は不安げに眉をひそめ、前屈み気味で指を組んだ両手に額を乗せていた。

一方、晋助は大して自分の弟に興味はないハズなのだが、周りの大人達の空気に流され何故か緊張していた。

分娩室に彼女が入ってからかれこれ12時間は経つ。

先ほどまでうたた寝していた晋助は、時計を見て驚いた。

((時間かかるんだな…俺が産まれた時もこうだったのかな…?))

そう考えたとき、あの母親の顔が浮かんで嫌な気分になる。

((名前はどうなるんだろーな…))

眠い頭でぼんやりと考えていると。

「産まれましたよ!!」

分娩室の扉が開いて、看護婦が出てきた。

「!!!」

その場にいた使用人達までもがぱっと明るい表情になる中。

((…これで、本格的に俺は相手にされなくなる…))

晋助はそんな事を思った。

「産まれたんですが…」

看護婦は、言いにくそうに口ごもった。

「?どうしたんだ?」

「……息を、…しないんです」

晋助の父は、それを聞くと顔色を変えて中へ入っていった。
彼の側近の使用人も数名着いて行く。

晋助は何もせず、椅子に座っていた。
分娩室の扉は、再び閉まった。




*




しばらくして、中から使用人と医師なのか助産婦なのか看護婦なのかはわからないが、数名の女が出てくる。

皆、先ほどとはうってかわって暗い顔をしていた。

「……?」

晋助は不思議に思い出てきた使用人の一人の袖を掴んだ。

「…何かあったのか?弟は、お義母様は…?」

「坊っちゃん…

貴方の弟は…亡くなりました」

「……は?」

産まれてから、息をしなかった弟は呆気なく死んでしまったという。

叩いたり逆さにしたり、手荒なこともしたがそれも効果がなかったらしい。

「…そ、…うか…」

いくら興味がなかったといえど、腹違いの弟…否、一人の赤ん坊が罪もなく命を落としたという事実に晋助はショックを受けた。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ…!!」

理由もなくすすり泣きながら謝る掠れた義母の声が聞こえる。

何故か、消失感にとらわれた。


〜〜〜〜〜


(91)ぱっつぁん

「先生、何で神楽ちゃんが先生の教え子だって教えてくれなかったんですか?この間びっくりしましたよ!」

新八の家に行くと、新八にそう言われ銀八は驚いた。

「?おめー神楽の事知ってんのか?」

「知ってるもなにもクラスメートだし僕の友達ですよ!」

「マジか!そういえばお前ら二人ともかぶき第二中学だもんな。」

部屋にあがる最中、妙に話しかけられた。

「あら先生いらっしゃい。暑かったでしょう、何か冷たい飲み物用意しますよ。何がいいですか?」

「あー、じゃあいちご牛乳で」

「新ちゃん買ってきて頂戴」

「えええ!?何で僕!?つかいいじゃないですか麦茶で!何で人ん家来ていちご牛乳なんて所望するんですか!」

「お前いちご牛乳馬鹿にすんなよ!じゃ麦茶で頼むわ」

「じゃあ後で持っていくわ。」

扇風機の音と蝉の声がまざる新八の部屋に入り、銀八は一言。

「新八ィ、こう暑くちゃ勉強するにも頭回らねーだろ。勉強ん時くらいクーラーつけた方がいいと思うぜ。」

「あ、確かにそうですね。じゃあ……ってもっともらしい事言ってるけどアンタがクーラーつけてほしいだけだろ!」

「チッ、バレたか」

「正解かよォォォ!!」

「もうツッコミうるせーしあちーからちったぁ落ち着け」

「……誰のせいだと思ってるんですか全く…。」

しぶしぶエアコンのリモコンに手を伸ばす新八。
新八のベッドの上のジャンプに手を伸ばす銀八。

「…ちょ、何してんですか先生」

「あー、呼び方なんだがよ、俺正式には教師じゃないから銀ちゃんとか銀さんって呼んでくれや」

「じゃあ銀さん、何してんですか」

「んー?いやちょっと最近の漫画家が仕事してるかどうか
「お前が仕事しろォォォ!」

新八はジャンプを取り上げる。

「よし、じゃ始めっか」

「やっとですか…」

「じゃこれな、ここまでやったら丸つけてやっから」

「はい」

「じゃそれまで俺はジャンプ読んでるわ」

新八の手から気づかれないようにジャンプを盗んだ銀八。

「!?いっ、いつの間にそれを!?」

「んな安い敵役見てーなこと言うんじゃねーぜぱっつぁん」

((…何で銀さんも神楽ちゃんも僕の事ぱっつぁんって言うんだろ…))

今日も志村家は平和だ。


〜〜〜〜〜


(92)アド交換

夏休みも終わり、9月1日。

久々に学校に来た晋助は、早速万斉に話しかけられる。

「おはようでござる」

「……よぉ…」

「今年の24時間テレビ、ぬしは見たでござるか?」

「何で早々にそんな話なんだよ……今回の病気のドラマはなかなかだったな…」

軽く喋っていると、途中で万斉が思い出したようにポケットからメモを取り出した。

「高杉、メアド交換してほしいでござる!」

「え」

万斉の右手のメモには、彼のアドレスが書いてあった。

そこまでされて拒否もできない。

「…わかった、いいぜ」

晋助もノートを少しちぎってアドレスを書いた。

「kuroi.kemono.st@…黒い獣、でござるか?」

「かっこいいだろ?」

「…………」

ドヤ顔の晋助を万斉の頭の中に『厨二病』という単語が浮かんだことは、晋助には内緒だ。


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