【14】

(60)二人目

銀八は二人目の生徒の家を訪れた。

その家の庭で、銀八は衝撃的な光景を見て唖然としていた。

「ほあちゃぁぁぁあ!!!!」

「まだまだ甘いよ…そらっ!」

朱色の髪をなびかせる二人の少年と少女が、取っ組み合いの喧嘩をしていた。

否、取っ組み合いなんてレベルではない。

空中で回し飛び蹴りを食らわそうとする少女の足首を少年は鷲掴み、
それをあろうことか芝生の地面に勢いよく叩きつけようとする。
少女は寸でのところで地に手をつき、もう片方の足を少年の足に引っかけた。
そのまま少年の足元を崩そうと足を引き、少年はバランスを崩しかけて少女の片足を離す。
少年は宙返りして少女と一旦距離をおくと、勢いよく跳んで少女に拳をぶつけようとした。
寸でのところで少女はそれをかわし、
「ちょっ、待て待て待てェェ!!!」

銀八は慌てて二人のもとへ走り、喧嘩と喧嘩の描写を止めようとした。

少年の方がちらりと銀八を見る。

綺麗な青い瞳は、少女のそれと同じ色。

「ん?お兄さん誰?こんなとこで何してるの?」

少年の声を聞き、少女も動きを止めて銀八を見た。

二人をよく見ると、少年の方が少し年上なのがわかる。

「いやいや、君らこそ何してんの。」

「格闘だよ」

「格闘だよ、ってお前…」

少年の返事に返す言葉を失う銀八を見て、少女はハッとした。

「もしかして、カテキョーの先生アルか!?」

「リボ●ン?」

色々とツッコミ所がありすぎて困る銀八。

「つかアルって何?」

「あーあはは…」

少年は苦笑いし、少女は少年を睨む。

「私達、中国から来たチャイニーズアル。このバカ兄貴から小さい頃日本語習ったときに、『日本人は皆語尾にアルとかネとかつけてる』って変なデタラメ教わってそれがぬけないネ。」
「あー……」

語尾がおかしい上に微妙に発音も普通じゃないので、納得する銀八。

「あっと、俺は神威でこっちは神楽。日本に来てそこそこたつけどやっぱまだ慣れないかな。お兄さん神楽の先生になるの?あの親父また勝手にものを進めて…」

少年、神威は自分と妹の紹介をする。

「ああ。神楽さん…の家庭教師をつとめさせてもらいます坂田銀八です。」

銀八も慌てて自己紹介した。

「神楽アル!よろしくネ、銀八センセー!」

神楽はにこりと笑い、銀八に手を差しのべてきた。

「よろしく。」

銀八もその手を取り握手する。

神楽の明るいあどけない笑顔からしてわざとではないのだろうが、力が強くて銀八はその後右手を痛めた。


〜〜〜〜〜


(61)睡魔

「…ねみぃ…」

翌日、銀八は目を擦り身体を引きずりながら学校に行った。

神楽と会った後塾の方に書類を取りに行き、
新八と神楽用のプリントを見繕い、
自分の課題のレポートを仕上げ、
とあまり寝ていなかったのだ。

講義中も何度も睡魔と戦い、(結局負ける)これから晋助の家に行かなければならない。

「…晋助……」

晋助の喜ぶ笑顔を頭に思い浮かべ睡魔をひとまず倒し、電車に乗り込んだ。

電車の心地よい揺れと丁度いい騒がしさ。

((やべぇ……ねむっ…))


銀八はいつの間にかに眠っていた。



*



『─ご乗車ありがとうございました─次は終点─』


次にアナウンスで流れた駅は、名前は聞いたことがあるが一度も行ったことのない駅。


終点。


((ねっ…寝過ごしたァァァァアァ!!!!))

銀八は真っ青になった。

腕時計を見ると、夜の9時頃。

電車に乗ったのはその1時間以上前。

つまり、折り返しても晋助の家に着くのは10時過ぎ。

携帯を見ると、晋助から何件も着信が入っていた。

銀八は急いで電話をかけ直す。

((はぁぁ…やっべぇ、やっちまった…やっちまったよ…まさか終点まで来ちまうとは……))

二回ほどコールすると、晋助の声が聞こえた。

「あっもしもし晋──
『銀八!?』

晋助の声に癒されたのもつかの間、晋助は声を荒げて捲し立てた。

『銀八の馬鹿馬鹿クソ天パァァ!今までどこで何してたんだよっこの糖尿予備軍野郎っ!!』

「え、あっ、えと…晋ちゃん、え?」

基本的に銀八に暴言を吐かない晋助の荒れ方に銀八は言葉を失う。

『心配した…どっかで事故にでもあったのかと思ったんだぞ…』

小さな声で晋助は続けた。

『怪我してないか…?』

「おう……」

『何かに巻き込まれたりしてないか?大丈夫か?』

「晋助、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

ただ寝過ごしただけなのに、こんなに心配してくれる可愛い幼なじみをさらに愛しく思ったのは言わずもがな。

いや、もうこれ以上大切な人間をなくすのがこわいのだろうか。

「寝不足で電車寝過ごしただけだって。ごめんね晋ちゃん」

『……心配して損した…そのまま家に帰って死んだように寝ろ!』

晋助はそう一言恥ずかしそうに残して電話を切った。

「あんっのバカ天パっ…人の気も知らないで…」

不安で何も手につかなかった晋助は、安堵したように一人呟きベッドに横たわった。


〜〜〜〜〜


(62)優等生

「うーす新八ィ」

「あ、先生!こんにちは」

庭で草に水をやっていた新八に声をかけると、新八は笑って返事を返してきた。

「よー、今日からは教材も持ってきたしちゃんとやんぞー」

「はい。」

新八はじょうろと軍手を片付けて銀八を家にあげた。

「ん、姉ちゃんは?」

「姉上は買い物中でいませんよ」

「ふーん…つか何で姉上って呼んでんの?」

「………」

新八は黙り込んだ。

「一時期姉上が時代劇にハマってる頃にお姉ちゃんって呼んだらジャーマン●ープレックスを食らったんです…」

「……そうか…。」

うつむく新八の肩をポンと銀八は叩く。

妙の蹴りを食らった銀八は、彼女の力が並みでないことに気づいていたので心から新八を哀れんだのだ。



新八は銀八の渡したプリントをいとも簡単に解いた。

銀八は待ってる間にジャンプを読もうとしたのだが、ワンピー●1回分も読み終わらなかった。

「はい、できました」

「…早すぎねェ?」

「先生人ん家来てジャンプ読んでくつろがないで下さい」

採点してみると満点。

「…すげ…」

「やった!」

「じゃ次これね」

「はい」

次々とプリントを解いていく新八。

「解けました。」

「だから早ェよ」

採点してみるとケアレスミスが数問。

「…やるじゃねーか剣八」

「いや新八です。ブリー●に謝ってください」

「じゃ次はこれだ。ちょっと難しいかもな」

銀八が渡したプリントは、彼のファイルに紛れていた大学の課題。

「…いや無理に決まってんでしょォォォ!?何ですかコレ!?中学生で習いませんよね!?」

「おめーこれは、あれ、あれだよ理系の俺の友達のプリントなんだけど、アルキメデスの法則と─」

「知るかァァァァ!」

((新八は普通の公立の子よりは優等生だな。))

教材を変えて方針を変えて、と色々考える銀八であった。


〜〜〜〜〜


(63)現状

「なぁ高杉ー、お前も一緒に帰んねー?」

「悪ィけど、俺は結構だ」

新しい中学校に入り、晋助には友達がいなかった。

行き帰りは絶対に一人で、休み時間は時々女子が集まってきて他の男子とはあまり接点がなかったのだ。

男子も喋りかけることは喋りかけるものの、晋助の上品な態度や女子のような綺麗な容姿に戸惑いがちな者が多かった。

しかも自分が小学生の時だった頃から好きだった女子をとられた、と理不尽な理由で晋助を嫌う男子もいる。

晋助が他の人に喋りかけられたらよいのだが、実は彼は人見知り。

一緒に帰ろうと誘われるのは嬉しいことだったのだが、晋助には一緒に帰れないわけがあった。


「ねぇ、俺らとちょっと遊びに行かない?」

「どこでもいいからさ〜」

晋助は心の中で舌打ちした。

そう、最近やたらと金目的で晋助に絡んでくる大人が多いからだ。

晋助が竹刀で一度叩きのめした相手が再び現れたりもするものだからうんざりだ。

だがそのお陰で晋助はだんだん喧嘩慣れしてきていた。

「だから、俺を捕まえたところで金なんか手に入らねーで刑務所行きだっつーの。」

「やだなぁ、金なんか目的じゃないよー」

「じゃあ何だ、俺の友達にでもなりたいのか?」

「そうそう」

「見ず知らずのこんなガキと友達になりてぇなんざよっぽどの物好きか友達いねーんだな」

逃がしてくれそうにない相手は挑発する。

挑発して手を出してきたときに竹刀を使い、正当防衛。

そうやって晋助はやってきたのだ。

「うん、大人は怖いからその辺にしといた方が身のためだよー」

晋助はそう言われそっと竹刀に手を伸ばす。

次の瞬間。

「一人の子供に多数の大人とはおかしな話でござるなぁ」

聞き覚えのある声がした。
ふざけた喋り口調。

「………!」

晋助は同級生の一人を思いだし、はっとそちらを振り返った。

が、すでにそこにはおらず彼は晋助のすぐ近くまで飛ぶように走ってきていた。

「う゛っ!」

「このガキっ……っがっ!!」

晋助を囲んでいた大人達に、何やら大きな黒いケースをぶつけていた。

「高杉!早くこっちへ!」

晋助の手を掴んで路地裏のようなところから引っ張っていったのは。

「……河上…」

不思議な同級生、河上万斉だった。


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