【12】

(53)甘えん坊

「落ち着いたか?」

「っ、ん……。」

泣きつかれてベッドに横たわる晋助の頭を優しく撫でる銀八。

「ごめん、なさい…」

「何で謝んだよ?」

「来てくれたのに、泣き喚いて…」

「謝ることじゃねーよ。…大変だったな」

頭を撫でる暖かい手。

確かに銀八のもので、その手を甘えるようにぎゅっと握る。

「…銀八……」

「ん?」

「ありがと…」

「おう、気にすんなよ」

「銀八好きだ」

「おぅ………ってえ!?」

不意の言葉に目を見開き、晋助を振りかえる。

「あ、いや、その、変な意味じゃなくて…」

「あ、ああ…ビビった…」

晋助は赤くなり慌てて訂正する。

「松陽先生に、感謝とか好きとかちゃんと伝えきれてなかったから」

「………そっか…」

「銀八にも、な」

「一応言っとくと俺事故る予定ないんだけど」

けらけらと晋助は笑った。
母親に頬を叩かれた日から、そんな笑顔は一度も見せなかったのに。

「…晋助、」

銀八は愛しそうに目を細めると、晋助の隣に寝転がった。

「!?な、何だ?」

突然、同じ高さから赤い瞳に見つめられドキリとする晋助。

恋に近いような近くないようなその思いはまだ健在だ。

「……ちゅーしていい?」

「………へぁ?」

何とも表現できない声が、晋助の口から漏れた。

晋助は呆然と銀八を見返す。

銀八も、言ってしまったと軽く固まった。

一ヶ月、会いたかった本命の人に会えず、連絡もとれず。
たくさん辛いことがあったみたいで、会ったらすぐに抱きついて泣いて甘えてきて。
そしたら意味は違かったとしても好き、なんて言われて。
今度はけらけら楽しそうに笑うし。

((正気でいられっかよコノヤロォォォ!))

だが、流石に突然こんなこと言われれば気持ち悪がられるだろう。

早く訂正せねば。

「っなーんて冗………」

と思ったのだが。

「…………」

晋助が。

晋助が、銀八の袖をつかんで、ぎゅっと目を閉じていた。

その頬は赤らんでいて、恥ずかしそうだ。

「…………っっ!!」

銀八もつられて真っ赤になる。
逆に頭は真っ白になった。

「…しないのか…?」

うっすら緑色の目を片方開き、訊ねた。

((ぇ、えっ、ちょっ、待て、え?いいの?俺男よ?は?))

((…やっぱ冗談のつもりだったのか…?だとしたら恥ずかしすぎんだろ俺…))

銀八は、恐る恐る晋助の腰に手を回した。

「いいのか…?俺男だよ?」

「前したとき怒んなかったろ?」

あくまで強気な晋助。

ああ、もう。

((何でこんなに可愛いんだよ…///))

抱き寄せて、晋助の唇に自分の唇で触れた。

「……んっ…」

頭を寄せて、離さないように。

唇が触れあうだけだから、せめて一秒でも長く。

長く感じたが、少しの時間を置いて銀八は唇を離した。

「……ぷはっ…」

「息止めてたの?晋ちゃん」

「長い……」

「よしよし」

ぎゅっとまた抱きしめる。

「……銀八ぃ…」

嬉しそうに恥ずかしそうに、晋助は銀八の胸に顔をうずめる。

「……っ!!!」

銀八はさっきから晋助の女々しい可愛らしい行動にどぎまぎしてばかりだ。

「……っやべ、」

「ん?」

「勃ちそになった…」

「?何で立つんだ?いきなり立ち上がりたくなった?のか…?」

「うん、えっと……」

晋助の無垢な瞳に見つめられ、答えに困った銀八。

((七歳の差って恐ろしっ…!!))


〜〜〜〜〜


(54)そして

晋助は中学生になるまで、暇な日々を過ごしていた。

前の屋敷のすぐ近くに晋助の通う小学校があったが、今はもう行ける距離じゃない。

かといってまた新たな小学校に通うとしても、一ヶ月ほどしかない。

体調もまだ不安定なことにもかわりなく、仕方ないので引きこもることになった。

跡継ぎがもう新たな義母の腹にいる今、親に勉強を強いられることもない。

たまに来る頭痛や吐き気とたたかいながら、
眠る松陽先生のところへ行ったり、
前の小学校にふらりと現れたり、
学んでいた剣術を本格的に学んだり、
銀八のお下がりの算盤いじりをしたりと小学生とは思えない生活をしていた。


一方銀八は、働いていた喫茶店がつぶれてしまった。

『あの喫茶店、つぶれたと聞いて電話してみたぜよ〜大丈夫かぁ銀八?』

「ああ……てめーに心配されるほど落ちぶれちゃいねーさ…」

『おまん、最近血糖値の方はどうじゃ?』

「うう、う、うるせェェェ!」

久々に坂本から電話がかかってくる。

何故か坂本の情報の早さは異常だ。

『どうするんじゃ?仕事』

「どーするかなー」

『相変わらず適当じゃの』

「晋助の家の使用人でもしよっかな……」

『わしの屋敷の使用人でもええがよ?』

「お前の部屋掃除したくねぇし、お前にこき使われると思うとすげーやだ」

『あっはっはっはぁ、冷たいのー』

今まで通りの軽い会話。

銀八も坂本を結構信頼して心配しているが、それは表面に出ない。

「んー…」

『確かおまんも教師になりたいんじゃな?』

「あ?そーだけど」

『なら家庭教師のバイトなんかどうじゃ?教えるを得意にしといた方が特じゃろ?』

「!」

坂本にしては妙案だ。

「おー、そうする!俺は銀八先生と呼ばれるようになるぜ!」

『どっかにそんな教師おったのう』

銀八は熱くなり拳を握る。
その銀八に冷たいツッコミは届いていない。

「さんきゅ!辰馬!」

『おう!じゃ、そろそろ』

「…ん、待て、お前さっき“おまんも教師に”って言わなかったか!?」

『あっはっは、じゃあの銀八ぃ〜』

「待て、それどーゆーことよ!?」

『ピ、ツー、ツー、ツー』

「…………」

相変わらず人の話を聞かない奴だ。

そう思い銀八はため息をついた。

坂本の謎の言葉の意味を知ることになるのは、もう少し後。

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