崩れる記憶(1)
暗闇。
「……ん……」
俺は目を覚ました。
何故眠っていたのか、わからない。
周りには何もない。
見たことのない場所だ。
地面は赤茶けた砂。
空はどんよりとした曇り空。
今が朝なのか夜なのかさえわからない。
「……どこだ、ここは…」
どこも痛くない。
怪我はしていないようだ。
「俺は、」
さっき何をしていたのかが思い出せない。
何かのショックによる記憶障害か何かか?
「…………」
こんな状況でも、なぜか頭は冷えていて混乱することはなかった。
とりあえず、自分が知らぬ間にこんな場所にいる可能性を考えてみた。
壱、自らの足でここまで来たが事故か何かで記憶が飛んでいる。
弐、それとも様々な記憶が飛んでいるだけで、ここは俺のよく知った場所。
参、何者かに気絶させられここに運ばれた。
一番確率的に高いのは参だろう。
俺みたいな立場の人間は、色んな奴等に恨まれてるからな。
「………?」
今、何かが引っ掛かった。
俺みたいな立場…?
俺みたいな立場、って何だ?
俺は、何をしていた?
俺のするべき事は?
ぞわぞわと背筋がむず痒くて、
胃や心臓がしめられるような嫌な感覚。
「思い、出せ」
そう、確か、今まで、
俺は苦しい事をしていた。
血を流して、大切なものを失う、
戦?
ああ、そう、戦だ。
俺はあいつらと一緒に刀を取って、
あいつを護ると誓い、
『心配すんなよ、これからはお前の事ァ俺が護ってやる』
『は、ちょっ何言ってんの、俺がお前にそれ言われたら格好つかねーじゃん』
『てめーは元々大して格好なんざついてねェだろ』
『ひどいなーもう……ね、お前は俺が死んでも護ってやるから』
『…今格好つけたのか知らねぇけど、そりゃ流石に無理だろ。』
『俺とお前の意気込みの差ってやつだよ、女形は大人しく護られろ』
『じゃあ俺も、死んでも護ってやらァ』
『君会話の流れとか立場とかわかってる?』
『地獄まで付き合うぜ』
『二人揃って地獄巡りってか、まぁ悪くないんじゃない?』
ああ、そうそう、こんな会話をした。
馬鹿みたいにころころ表情を変えやがって。
俺は決めたんだ。
どんな戦だろうと、
どんな血の海だろうと、
どんな苦行を積もうと、
竜神だろうと雷神だろうと鬼神だろうと構わねェ、
何にでもなってあいつの全てを護り通してやろうと。
あいつはその分俺を愛し護ってくれるから。
そして俺はそれを貫いてきた。
「………あいつは、…」
どこだ。
どこにいるんだよ、
あいつを護らなきゃならねぇのに、
そう簡単にのたれじぬ奴じゃねェことくらいわかっているけれど、
護る者が、側にいない。
それがとてつもなく不安なのは苦しいのは、俺があいつに依存しているせいなのか。
「…おぃ、どこに…いるんだ、よ……」
ここから出なければ。
しかし、本当にここはどこなんだ?
「……おかしいな……」
ここには、俺以外生き物がいない。
生き物の気配が全くしないのだ。
目を閉じて意識を集中させる。
耳に、鼻に、感覚に。
海辺なら磯の香りがするし波が打ち寄せる音が聞こえる。
そうでない場所なら有機物特有の石油のような匂い、エンジンをかける音、
湿地なら泥や砂、植物の匂いがするはず。
「……あ、れ……」
鼻がきかない。
匂いという匂いは何一つしないし、
音も全くない。
風さえも吹かないっていうのかよ。
「…誰か、いねぇのかよ…」
音を、匂いを、人を、求めて俺は歩いた。
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