笑顔(1)
『壊しに行くのさ』
『全てを』
『お前も一緒にどうだ?』
『銀時。』
何故あの時、
わからなかったんだろう。
何故あの時、
止めてやれなかったんだろう。
何故あの時、
その裾を掴むのを躊躇ったんだろう。
もうあの綺麗な笑い顔が見れなくなると知っていれば、俺はお前を───。
高杉が率いていた義勇軍、鬼兵隊。
攘夷戦争終盤、殆どの隊士は幕府に首をおとされた。
それらの処刑された首全てを、奴は見ていた。
『あいつは食欲ばっかりあったな、…あいつは歌が好きだった。そいつは機械いじりばっかりで、妙な事を言ってた奴で──』
河原に並ぶ首を眺め、死んだ部下を悼んでいた。
『あいつは使える奴だったが…そうだな、…銀時に似たところがあったかもしれねぇや』
隣にいる俺を見て、
笑う。
いつものこいつは、どこか気品が漂う愛くるしい笑い方するってのに
その口はゆるむのではなく歪んでいて。
その深緑の目は憎悪に満ちていて。
『何だよ?俺が代わりに死にゃ良かったのに、ってか?』
『んなこたァさらさら思っちゃいねーよ。』
こんな時、俺なんかじゃなくて
先生がいたなら
こいつを慰められたのかもしれないのに。
*
『銀時、先生を奪ったのは何だろうな?』
先生の教本を眺めながら高杉は俺に訊いてきた。
『………知らね…』
地球を攻めいった天人?
俺達を切り寝返った幕府?
天照院?
国?
時代?
『世界、ってとこか…。』
奴はいつからか吸い始めた煙管をくわえてそう言った。
『世界?』
『この世界が、俺達からあの人を奪った』
『大きすぎんじゃねーの?』
『そうか?』
いつものように薄ら笑いを浮かべたまま、奴は続ける。
『勝手に支配し出した天人も、それを受け入れたこの国も。その他にも要因はいくらでも転がってらァ。
そいつらひっくるめて世界。先生の仇は俺が取ってやる。』
そこでふと言葉を切った。
そして、高杉の口から溢れた独り言。
『─死んだ奴等の仇もとってやらねぇとな………』
この時の深緑色の瞳には、寂しそうな色がうつっていた。
『………』
見てるこっちが辛くなってきて、俺は細い肩を抱き寄せる。
煙管が落ちたのなんか気にしねぇ。
いつもはどついたり声をあらげたりして抵抗するが、この時ばかりは何もせず、むしろ甘えるように身を預けてきた。
『………とき…』
言葉にならない声をもらして。
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