熱のせい(1)

「…高杉お前さァ…」

「…ん、なんだよ……」

「…もう心配だから帰れ、な?」

銀八が心配そうに俺を覗き込んでくる。

「…るせぇ…大丈夫だっつってんだろ。」


帰るわけねェに決まってる。


国語準備室。

銀八がなぜ俺を帰らせたがっているかといえば、俺は今38度の熱があるから。

「いやいや晋ちゃん、この四限までもったのだってすごいと思うよ?でも流石によォ…」

「やだ、帰らねェ。」

「そもそも何でお前そんなに維持張ってんの?柄にもねーなぁ」

「今日は一日しっかり出るって決めたんだよ…ゴホッ…」

銀八は俺の額に手を当てて、やれやれといったようにため息をつく。

「変なとこで強情だよなぁ…じゃ俺の仕事が終わるまで保健室で寝てろ。送ってやっから」

「……出る…」

六限は国語。
銀八の授業。

「!?そんなへろへろの体で出られると思ってんのか!?」

銀八の声には更に怒りの色が混ざった。正直怖い。

でも、

「…出るったら出んだよ……」

俺も負けじと睨んだ。

だって。
これから一週間、銀八は銀魂高校から離れて他校で研修しないとならない。

明日から土日を挟んで一週間、さらに土日。

九日間は銀八に会えない。

なのに、一番銀八を見ていられる今日の六限に休んでたまるか。


でもそんなこと銀八に知られたら恥ずかしい。

だから、六限だけ出たいのを誤魔化すために今日は維持でも一日しっかり出てやると決めた。

例え朝から体が重くて飯が食えなくて咳が出て顔が暑くてでも寒くて関節と頭が痛かったとしても。

「いいから帰れ。」

銀八と目があう。

「………っ…!!!」

その目には冷たい怒りが宿っていて怖かった。

ただでさえ寒い体に更に悪寒が走る。

確かに維持張ってる俺が悪いけど。
素直に言えない俺が悪いけど。



そんな目で見なくたっていいじゃねーか。


俺は、お前が………



「…っ、帰りゃいいんだろ!わぁったよこの天パ教師!」

俺は鞄を机から当たり気味にひったくり、国凖から出た。

「あ、高杉お前──」


銀八が何か言いかけたのも聞こえないフリして。



外に出ると雨が降っていた。
叩きつけるような激しい雨。
おまけに雷まで鳴ってやがる。

「…傘……」

そして気づく。

置き傘は教室に置いてきた。

戻るのも正直かったるくて俺はそのまま雨の中を走った。

熱は上がりだるさも増して、こりゃ風邪が悪化するなと思いながら。




*




「……ったくよぉ…」

いつも不良でろくに授業でないくせに(俺がいつも探しに行かないと来ない)
、なんで今日に限ってあんなに……

ため息を一つつくと、無性に煙草が欲しくなった。

「あり?」

よれた白衣のポケットに手を突っ込むが、煙草の箱しか見当たらない。

ライターは国準のどこを探しても見当たらなくて、3zの教室に落っことしてきちまったか、と頭をかいた。



「俺のライターあったかー?」

「先生ー煙草用のライター落として生徒に探させるって教師としてダメだと思いまーす」

「煙草じゃねーよレロレロキャンディ。ライターは護身用」

「ライターでどうやって身を護るんですかー」

「相手に着火?…って、いいから探せよ。学校では生徒は教師の下部だバカヤロー。」

担任の教師という権限で生徒達の楽しい昼休みの邪魔をし、ライターを探させていると。

「ん?」

黒い物が目の端をよぎった。

高杉の折り畳み傘。
同時に思い出す。

ライター、高杉が煙草吸いたいって言ったときに貸してそのままだった。

…ライターはともかく、傘。
外はどしゃ降り。

「…っあんの馬鹿……」

俺は生徒達にライターはいいから授業の準備をしておけと言ってから高杉を追いかけた。

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