約束

【銀魂高校3年Z組同窓会のご案内】

そう書かれた紙は、2週間くらい前に新八から送られてきたものだ。

同窓会なんて言ったって、まだ9月で卒業から一年もたってねぇのに相変わらず気が早い奴等。

『明日は先生もちゃんと来てくださいね』って言われたし俺は行く予定だけど、あいつはどうだろう。


片目と記憶を無くした、俺の愛しい教え子は。






俺と高杉の関係は、なんとも言えず脆いものだった。


高杉は俺に好きだと告白してくれた。

俺も高杉を好きだったから無論OKを出したかったが、同性だし教師と生徒。

だから、恋人のような事はしていたものの、正式に付き合ってはいなかった。




つまり俺は、一番大切な思いをあいつに伝えなかった。





そいつは、一年前の今日事故にあった。

『明日どっか行きたいとこある?』

まだ高校生だったそいつ──高杉に、俺は訊ねた。


『今日も出かけたのに、明日もどっか行くのか?』

『晋ちゃん明日何日だか知ってる?』

月見にちなんで二人で団子を食いながら、駅前の青いベンチに腰かけていた。

『…9月10日…?』

『正解』

俺と高杉の誕生日のちょうど真ん中。

言わなくても気づいたらしく、団子の串をくわえたまま口ごもる。

『ね?記念にさ、』

少し赤くなりながらこくりと頷く高杉。

『じゃ、明日も今日と同じ時間ここに集合な。』

仕事が溜まっているな、と思い俺達はそこで解散した。

家まで送ってやろうかと思ったけど、高杉が『いい』と言ったから。




そして俺は後悔する。





俺が送っていってやれば、事故にあわずにすんだかもしれないのに。



帰り道、あいつは大型のダンプカーに轢かれた。

頭を強打した高杉は、命こそはとりとめたものの左目を傷つけて左目を失った。

そして断片的に記憶を失った。


『…誰だ、…てめェ…?』

一週間もしてやっと目を覚ました高杉に、
俺の記憶は残っていなかった。


いや、俺の記憶どころが、中学生までの記憶しか残っていなかった。

俺に嬉しそうに恥ずかしそうに笑いかけるあいつはそこにいなくて、
そこにいたのは俺に『喧嘩するな』と言われる前の好戦的で一匹狼で、周りへの怯えを隠すためにつっぱねて強がっていた、まるで高校に入りたての頃の高杉。
これまでの三年間は一体何だったんだと俺は泣きそうだった。

俺を見つけると嬉しさを隠すように唇を噛んでいた高杉は、
俺を見ると敵を見つけたように睨み付けてきて。

『俺は教師ってもんが大っ嫌いなんだ。なんでしょっちゅう病院に来やがる』

『おめー担任に向かってそんな口の聞き方しちゃいけません。』

『るせェ、さっさと帰れ』

俺をあんなに求めてくれた高杉の冷たさが、
無性に悲しかった。


またしばらくもしないうちに高杉は遠くへ行くことになった。

そこに、高杉の親戚の医者で記憶喪失やらに詳しい精神科医がいるそうだ。

それだけ言って、連絡先も何も知らせずに高杉は居なくなった。

10月10日、俺の誕生日に。

あいつの携帯は事故の時に壊れて、メールも電話も出来ない。



もう何も俺とあいつを結びつけるものはなくなった。


もうあいつに触れることも伝えることも出来なくなった。


そのまま一年、

俺はまるで宙ぶらりんになったまま過ごしてきて。



記憶が戻ってまた俺に会いに来てくれないかなぁ、なんて駅前のあのベンチの前を彷徨いて、黒に近い紫色の髪を探したりもした。





せめて、せめて。





俺とお前を繋ぐものを一つでも作ればよかった。




卒業するまでプロポーズは待とうだなんて思わずに、

【恋人】というちゃんとした繋がりを作ればよかった。


指輪か何か、プレゼントの一つでもあげればよかった。



せめて俺からもお前に

一言“好きだ”と

言えばよかった。



何で言わなかったんだろう。



そうしたら、
もっと何かが違ったかもしれないのに。



二人の繋がりをたよりに、あいつの記憶が戻ることだってあったかもしれないのに。


今更こんなことを言ったところで、

戻らないものは戻らない。


今頃どうしているだろうな?





なんて、な。


そんなこと考えないで、もう寝よう。

久々に教え子達に会えるんだからな。






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