愛しているを叫んで(5)

真選組の牢獄で一悶着あって以来、銀時はどこかぼんやりした顔をよく見せるようになった。

「銀ちゃん銀ちゃんーお腹減ったアルー」

「新八に作ってもらってこい」

「嫌ですよ。今日の当番銀さんでしょ」

「あーそうだっけ?」

「最近ぼんやりしすぎですよ。どうしちゃったんですか」

「新八、もしかしたら糖分不足で銀ちゃんの脳に異常事態が発生してるんじゃないアルか!?」

「尿にして流す前に頭に回してくださいよ」

銀時のその様子には万事屋の従業員二人も気づいていた。

表面には出さないが心配しているのは確かだ。

そんなとき、またピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

「はーい」

チャイムが鳴ると自然に身体が動くようになっている新八はバタバタと玄関へ。

「すいませーん、銀時クンいませんかー」

無駄に他人行儀だが、万事屋三人は新八が戸を開ける前に誰だかすぐにわかった。

「桂さん、どうしたんですか?」

そこにいた声の主は、小さな風呂敷を持った桂。
高杉と同じ攘夷志士だが笠もかぶらず変装もしていない、随分と軽装だ。

「いやはや、銀時に用があってな」

桂は勝手に草履を脱いで万事屋に上がり、銀時のもとへてくてくと歩いてゆく。
銀時は指定席といっても過言でないいつもの椅子に座り、苺牛乳を片手に気だるく桂を見上げた。

「用って何だヅラァ」

「ヅラじゃない桂だ。今日はだな、とあるエロビデオについて貴様と討論を交わしたくここに来た」

桂の言葉に銀時は思いっきり苺牛乳を吹き出し、新八は鼻血を吹き出した。

「ちょっ、ちょっといきなり何言い出すんですか桂さん!」

「新八もヅラもキモいアル」

「今日のはすごいぞ。黒髪短髪美人の監禁物だ!いいか、しかも人妻!貧乳!」

「もう桂さん自重してください!」

新八が怒鳴ると、桂は思い出したように二人を振り返った。

「二人にも見せてやりたいんだが生憎年齢制限があってな。だからせめてこれで買い物でもしてきてくれ」

彼は懐から茶封筒を二つとりだし神楽と新八に差し出す。
神楽はむっとした顔で

「また攘夷体験どうちゃらじゃないアルか」

と桂に問い返す。

「今日はちゃんと三千円ずつだ」

「私定春の散歩に行ってくるヨ!」

神楽は桂の答えを聞いた瞬間に新八の封筒も奪いだっと駆け出し、定春に乗って逃走した。

「あ、ちょっ!神楽ちゃん!」

新八はその後を慌てて追いかけ、

「はっはっは!気をつけて行ってくるのだぞ!」

桂は悠長に手を振り見送る。

銀時は、といえば。
桂の言ったエロビデオとやらの内容に気難しい顔をして動きを止めていた。

「……さて、」

要領よく子供二人をはらった桂はまた銀時に向き直り、静かに口を開いた。

「話をしようか、銀時」




「にしても不思議すぎるよなぁ……」

「何がアルか」

「桂さんが現金を持ってきてまで僕らを追い払おうとするなんて」

横を歩く定春の大きな頭を撫でながら新八はそう言う。

うーん、と神楽も考えるそぶりを見せ、それでも首を横に振った。

「知らないアル。よっぽど見られちゃ困る内容だったんじゃないアルか」

「それにしたってね…」

「見たかったアルか」

「見たくないし!何でそうなるんだよ」

慌てて否定する新八に神楽は冷酷な視線を浴びせる。

「まじキモいアル。いいヨ私こんな童貞と歩くくらいなら姉御のとこでオロナミンC飲んでくるアル」

定春の背中をぽんぽんと叩き進路変更させた神楽は

「定春、スピードアップネ!」

「わん!」

定春と共に消えてしまった。

「あ、ちょ!神楽ちゃん!?」

二人(と一匹)はそのまますまいるへ向かった。




すまいるの前に、何か赤いものが放置されている。

「…何アルかあれ…」

神楽が定春を止めると、やっと追い付いた新八がぜぇぜぇと息を切らしながらその赤いものを見た。

「…コート…?」

赤いコートの奥に、茶色くモジャモジャとしたものが。

「…ってこれ坂本さんじゃないですか!」

そう、それは昼間からすまいるのホステスに求婚を迫り店の外に放り出された坂本だった。

「オーイもっさん何してるアルか」

「坂本さんしっかりしてください!」

坂本をとりあえず揺らしてやると、「うぅ…」と弱った声をあげ目を覚ました。

「ありゃ…?こりゃあ金時んトコの眼鏡くんとチャイナさんじゃなかか!」

坂本は頭でも打ったのか頭を擦りながら二人を見て笑った。

「まっこと久しかの〜!蓮蓬んときは世話になったぜよ」

「いえいえ」

「ところで金時の姿が見えんがあやつはどこにおるんじゃ?」

坂本が小さく首をかしげると、神楽がじとりとした目で答えてやった。

「金ちゃんじゃなくて銀ちゃんアル。あのちゃらんぽらんならヅラと一緒にエロビデオ見てるアルよ」

「ほう!金時もヅラも変わらんのう!して、どんな内容を」

「貧乳短髪黒髪美人な人妻の監禁物ア「神楽ちゃん!!」

新八が制するがもう遅い。

坂本の目の色は、その隠された意味に確かに反応した。

「げにまっこと趣味の良いものを選ぶのう!よし、わしも参加してくるぜよ」

彼は下駄をカランコロンと鳴らせて新八と神楽の横を通りすぎて行く。

「え、ちょっ坂本さん?」

「アッハッハ!銀時のとこにお邪魔するきに〜」

二人に軽く手を振って足早にいなくなった坂本。



最後に坂本は『銀時』と言ったこと。
桂が現金を出して二人を退場させたこと。
ここのところぼんやりしていた銀時のこと。

「……本当にただのビデオ観賞会アルか…?」

神楽は一つ呟いた。





[ 70/82 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]


[]




[top]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -