寂しがり屋は静かに嘆く(1)

※微裏(事前、事後の表現有)
※『嘘つきはビターチョコを食べた』の続きの高杉視点



















「てめぇらもそろそろ卒業か、早ェな」

季節は3月。

優しい色を帯びて膨らんだ桜の蕾はちらほらと開花し始めていて、教室に暖かい木漏れ日が差し込むそんな陽気。

俺の担任で、……元恋人の坂田銀八はホームルーム中にぽつりとそう言った。

「何アルか先生、しおらしいヨ」

「あー?いやぁ、ここまでこの問題児を育ててきた俺ってやっぱすげーなーと」

「自画自賛ですか」

「事実だよー、事実」

そう言いながら銀八はドヤ顔を決め込む。

「さ、号令号令。」

「はい、起立」

一番前の席の奴の声と共にガタガタと椅子を引く音がして、一瞬静まったその時、銀八は眩しいくらいの笑顔で嬉しそうに言った。



「そうやって思えるほどお前達も成長したのさ」




切なかった。


切ないくらいに、いとおしかった。








奴と別れた理由は、俺達の意とは全く関係ない事だ。

俺に婚約者が現れた。

それだけだというのに、もう全てが遅かった。

俺が今まで喧嘩に煙草飲酒ばかりじゃなくてもう少し親の言うことを聞いていれば、親も俺にそれを強制することもなかっただろう。

もっと前に話を聞いていれば、銀八に告白だってしなかった。
銀八をあんなに悲しませなかった。

この学校に入る前から話を聞いていれば、恋心だって圧し殺したのに。

否、俺が女として生まれてくれば俺だって銀八と───

「高杉、何ボケーっとしてんでさァ」

沖田に軽くどつかれて俺はハッとした。

「あ、あぁ悪ィ」

「ねー、今日ファミレス行かない?一緒にご飯食べようよ」

「俺は構いやせんぜ。高杉は?」

「俺も行くかな」

「やった!今ね、桜のスイーツやってるとこがあるんだよ」

「何ですかィその女子高生みたいな情報」

「この間神楽と行ったんだー。」

そんな会話をよそに俺は銀八を見やった。

さっきの笑顔が綺麗で頭から離れない。
まぁ今はいつもの無気力な顔で生徒と会話してるが。


別れた、という実感が俺は全く沸かなくて、でも銀八はあまりにも平然と振る舞い俺と一定の距離を保っている。

この一ヶ月、俺ばっかり銀八を意識してるみたいで。

別れるってのは想像を遥かに越えて辛かった。

あいつは俺をずっと好きだと言ってくれたし、この卒業の先に待っているものはどこぞの知らない女との結婚等ではなく銀八との同居生活のはずだったのに。


銀八に他の女が絡んでいるのに嫉妬したところで、
それを癒してもらえる訳じゃない。
寂しくて不安で抱きしめてほしくても叶わない。
また銀八に痛いくらいに抱いてほしいと思っても勿論無理。
でも言ってしまえば、俺は相手が銀八とじゃないと抱く気も抱かれる気も起きない、それどころか勃たないのだが。
今まで執拗に俺に絡んできてくれて心配してくれてたけどそれだってパッタリで。
嫌われたのかもしれないと怖くなっても俺達には生徒と教師という繋がりしか残っていないのだ、嫌われたって何て事ないし他の生徒並みの扱いは受けている。

でもやっぱり寂しい。



「あと一週間もすりゃ卒業でさァ」

「何て短ェんだろうな」

俺とあいつに残された時間は。






ファミレスに向かう道中、

「そろそろホワイトデーかぁ」

神威の呟いた一言に俺は大袈裟な位に肩を震わせ反応してしまった。

「いきなりなんでィ」

「いや、ほらあそこ」

神威が指さした先には、ホワイトデーに向けてたくさんの菓子が売られていた。

「でもその前に卒業だろ」

今の自分の声が震えていたのが奴等にバレていないことを祈る。

ほら、だってホワイトデーってよ。

一ヶ月前のあの日を思い出しちまうから。





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