Forget me not(2)

路地裏に身を潜めて、真選組に距離をおいて走ってくるそいつの腕をグイとひいた。

「っっ……!?」


一瞬全力で抵抗しようとしたが、俺の髪の色でも見て安心したのかすぐに力を抜いた。


そのままその腕をひいてもう一つ奥の路地裏へ。

ぎゅうとその身を胸に抱き込んで、ちょうどそこに積まれていた段ボール箱の山の影にしゃがみこみ隠れる。
その身体は久々に抱き締めると驚くほど細く、冷えていた。

「……っう…」

小さな呻き声が聞こえ、どこか怪我でもしたのかと思いまじまじとそいつを見ると、
途中で草履が脱げたのか壊れたのか、片足は素足で擦り切れ血が出ていた。

「また何でお前はこんなとこにいるんだよ……」

小声でそう囁くと、笠がずれ落ちた紫混じりの黒い頭がもぞ、と動いた。

「てめぇこそ、…町であったらぶった斬るんじゃなかったのかよ…」

頭をあげ、相変わらずゾクリとするほど美しく笑って見せた。

息切れしていて、少し汗をかいていて、頬さえも微かに紅潮していて情事中のそれを思い出させる。




「……お前があんなのに追っかけられるようなタマじゃねーだろ………


……な、過激攘夷志士高杉晋助さんよ……」



俺のかつての幼馴染みで、戦友で、恋人。

「ッハ、交渉した奴に裏切られたんだよ。やっぱり天人の商人なんざ信用ならねぇな」

真選組の足音がして、
また高杉をぎゅっと抱え込んだ。

お互いに冷えきった身体のはずなのに、しばらく抱き合ってるうちにじわじわと暖かくなっていく。


いつかの、先生がいなくなった夜のようで、
戦に出て初めて人を殺した夜のようで。




「……っい、おい銀時…」

高杉の声が聞こえハッとして辺りを見た。

黒い隊服はもう見えない。

「…おぅ……」


渋々離すとその時気づいた。

高杉の細い腕が俺の背中にまわされていたことに。

「………!!」

ズクン、って胸を締めつけられる気がした。


あの日のこいつの姿が見えて。



『──ありがとな、銀時───』





駄目だ、やめろやめろ。




『──でも─すまねぇ───』




思い出すな。
今さら。



『──もう、俺は行く──決心を揺るがせないでくれ──』



俺が今大切に思うのはこいつじゃない。



新八に神楽にババアにキャサリンたま、他にもいる、かぶき町のあいつらが俺の護るもの。仲間で。

高杉は俺からそれを奪おうとする敵、敵。
あの時代の、天人共。


だから、もう、捨てなければ。

忘れなければ。


「…なぁ、高杉……」


「あ?何だよ」



もう攘夷活動(そんなこと)なんざやめて───……



「や、何でもねぇ」



もう紅桜の一件で踏ん切りはつけたはずだ。


本当は引き留めたかった、なんて捨てたはず。




す、と高杉の白い腕が俺の腕に触れた。

「?……!?」


と思ったら、腕に爪をたてられた。


「ちょ、痛ェよやめろ」



「生ぬるい世界に浸かって、忘れんなよ」



腕には赤い三日月形の痕が残った。



「俺を、俺の復讐は終わらねェことを」



にぃ、と敵意のこもった笑みを奴は俺に向ける。


「……高杉、」

「…じゃあな、今回に限ってだけは、礼を言うぜ」


ば、と俺を振り払ってあいつは立ち上がった。



その一瞬見せた笑顔は、


紛れもない俺の愛しい高杉のものだった。







だがそれもすぐで、周りを確認すると笠を被ってあいつは足早に行ってしまった。



俺の手に残るものは、


「………くそっ…!!」


あいつの温もりと、爪痕と、面影と、声と、虚無感と、それとそれと……



忘れられない、いとおしさ。

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