ハッピーエンド(5)
ダダダダダダンッ、と激しい音がした。
俺の前にいた男達がどさりどさりと倒れていく。
「………ライフル!?」
いずれの男も頭や胸から血を流していた。
「何だ!?」
「どうしてっ……」
入り口の方に一人が歩み寄っていくと、一瞬で刀に刺された。
ま、さか。
俺の頭に拳銃を向けていた敵の大将は、入り口に銃口を向けて言った。
「武器を捨ててこちらに出てきてください。この二人がどうなっても───」
その言葉は最後まで聞けなかった。
奴の喉の奥に銃弾が叩き込まれたから。
入り口の暗闇から煙をあげる銃口が見えた。
「…ボス!!」
大将をやられてどうしようもなくなっている烏合の衆。
そんな奴等にも情け容赦なく、銃弾が撃ち込まれていく。
びしゃ、と飛んだ血液が俺の頬に落ちてきて、鬱陶しかったのでそれを舐めた。
吐き気がするほど不味かった。
「……流石でござるな、」
辺りが血の海になってから、万斉はそう呟いた。
カツン、と外から革靴の音がして、
そこから顔を覗かせたのは。
「……金、時…!」
派手な金髪に、安堵の色をした赤い瞳。
紛れもなく、俺が恋した相手だった。
「…な、んで金時が……」
金時の腕にはライフルが二丁握られていて、それらを放り捨ててから俺の方へつかつかと歩いてきた。
黒いジャケットをめくったそこにはたくさんの拳銃とナイフが仕込まれていて。
金時はその中の折り畳み式ナイフを一本取り出す。
「な、」
「腕、出して」
俺の腕を掴むと縄をぶつんと切った。
「どうして、ここにいんだよ…」
「万斉クンに頼んで、連れてきてもらったの」
「晋助を救うためにはいい囮になると思った故」
「違うだろ。協力しようって話になったからさ」
にこ、と優しい笑顔を見せてくれた。
傷だらけの俺の身を案じて、大丈夫か、痛くないかと聞きながら俺をおぶってくれた。
万斉はこれから色々後始末があると言い、金時と俺を残していなくなってしまった。
それが俺への気遣いであることくらい、わかっているとも。
「晋ちゃん軽いね」
「……60キロくらいある……」
「そう?もっと軽いと思うけど……って、俺より5キロも軽けりゃ充分か」
「65?」
「うん。」
とくん、とくんって俺の背中でもう一つの心臓が波打っている。
俺は好きな相手のプロフィールはほとんど知らなかったんだ、と気づく。
名前しか知らない、
生まれも職業も歳も知らない、それも男を。
俺は命懸けで助けたんだ。
好きになったんだ。
「……金時、」
「ん、なぁに?」
高杉の傷だらけの腕が強く絡まった。
「……悪かった」
それは、何にたいしてなのかわからなくて俺は聞き返す。
「何で?」
「……こんな、助けに来てくれたのに……酷いこと言って」
ふと思い出してしまったのは、俺を罵倒してから逃げ出したこいつの姿。
「……あぁ…」
「あのな、あれ全部嘘だから…信用できねぇかと思うけど、」
「いや、知ってるよ。あんなこと言うような高杉じゃない、ってことくらい」
高杉をおぶっている腕で、腰の辺りをポンポンと優しく叩いてやる。
だって、俺はその美しさと優しくて強い性格に惚れたんだもんね。
「……ね、もう一回いい?」
「……?」
少し後ろに首を向けて、高杉と視線を交えた。
「好きだよ、高杉」
肩に乗っている頭が、髪を揺らしながら大きく頷いた。
「はは、両想いだったのかよ」
片想いした彼等二人は、
踊らされた男達は、
ハッピーエンドを迎えましたとさ。
END
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