ハッピーエンド(4)
「万事屋さん、困りますよいつになったら見せてくれるんですか?……坂田金時の、死体」
「………っう…」
仕事があまりにも遅い、と俺は説教を食らった。
殴られ蹴られ、サンドバッグ代わりかっつぅの。
「あとどれくらいで終わるんですか?今日始末するって言いましたよねぇ?」
金時と一緒に出掛けようと誘われた。
暗殺のいいチャンスだと思ったから、俺は受け入れた。
そして、こいつらに報告した。
今日の19時、こいつらとここで落ち合う約束をもした。
自分の中で、ハードルを上げて区切りをつけたかったんだ。
標的に恋をした、自分へ期限をつけて。
生まれて初めて、こんなに楽しい1日を過ごしてしまった。
ずっと着物の下のホルスターに忍ばせた拳銃を気にしていたけど、
………殺せなかった…
挙げ句に告白までされてしまった。
ああああ、両想いだよ金時
嬉しすぎて、悲しかった。
殺さないといけない相手で。
もう、俺はアイツを殺すことを諦めた。
その代わりに、もう二度と会わないことを心に誓った。
大好きなアイツを、自分を、罵って馬鹿にして、アイツの気持ちを踏みにじるようにフった。
そうすれば、アイツはもう俺に傷つけられれば、会いたくないだろ?
俺を探したりしないだろ?
俺も店に行かなければ、ほら万々歳。
俺が影からアイツを護ってやるから、アイツは死なない。
ほら、な?完璧。
「失礼、万事屋の河上でござる。うちの大将を迎えに来たのでござるが」
万斉の声が扉の向こうから聞こえた。
「あぁ、河上さん…どうぞ…」
ボスの声で、その部下共が銃のロックを外しながら鍵を開けた。
「撃っちゃ困るぜ、俺の大事な駒なんだからな」
切れた唇を動かしてそう言うと、ハッと笑われた。
「部下の前に自分の身を案じてはどうです?」
「……?」
今、俺を殺したって何のメリットもないはず。
「私達はあの坂田の尻尾が掴めなかったんですよ、情報という尻尾が。
でもまぁ、ねがわくば駒の数を減らしたくないのでね。だから貴方に頼んだんですよ。そっちこっちにツテがある貴方なら、情報だってすぐに掴んでこちらに流してくれると踏んでいたんです。」
踊らされた、か。
本来ならこいつらの目的は情報、暗殺は自分らでやるつもりだったと。
とんだ無駄働きしちまった。
「ということで万事屋のお二方、余計な見苦しい真似は今更しないでくださいね?」
ジャキ、と両腕を拘束された俺の頭には銃口が突きつけられた。
入り口近くにいる万斉だけなら、まだ間に合う。
((俺はおいて、行け万斉))
そう心で叫びながら万斉を見やると、
「…仕方ないでござるなぁ」
向けられた銃口にそう言いながら両手をあげた。
……っんのバカ…
お前には戻ってほしいんだよ。
生きててほしいんだよ。
で、あいつに伝えてほしいんだ。
本心を言えなかった俺の、お前ならきっと気づいているであろう本心を。
「…拙者らはもう不必要ということでござるな…?」
「まぁ。でも、よく働いてくれたと思いますよ」
万斉はふいにニヤリ、と口元を歪めた。
「…ということでござる、……頼んだ」
その瞬間。
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