ティラミスと猫(4)

腹の辺りが冷える感覚がして、目が覚めた。


ガシャンと猫の家代わりのかごに体をぶつけた。


「……え」

視線の高さが、高い。

明らかに。

下を見下ろすと。

「!!!」

人間の体。

黒い、俺の毛並みのようなスウェットに身を包んだ肌色の身体がそこにあった。

「なっ、…んで…」

しかも、話せる。

俺の記憶にあるときよりは低い声、
俺の記憶にあるときよりは大きな身体。

でも、そんなことに構っていられない。

今、前世でも味わったことの無いような危機感と焦燥感が襲ってきて。


「……銀時、…」


この家は、俺の知っていた銀時の家じゃないが、この近所に前の銀時の家もある。

知ってる。


とにかく病院に走った。




銀時、銀時


確証がないのに


俺はどうしてこんなに急ぐんだろう


銀時、嫌


銀時はもう死ぬの?

お前も残されたときこんな気持ちだったの?


死なないで



「……高杉!?」


病院に駆け込んでいくヅラが見えて、そいつが俺を見て目を丸くした。

ヅラは、銀時が前世で紹介してくれた俺の友達だったな。

今回もお世話になりっぱなしだった。

「銀時に、何かあったか!?」

「銀時が交通事故に…っというかお前本当に高杉なのか!?」

「そうだようっせーな!説明すると長くなる!」

ヅラへの返事もそこそこに俺は病院の奥に走る。

「銀時はどこにいんだ!?」

「この一階上だ!」

見覚えのある銀時の母さんと、辰馬がそこにいた。

「!?高杉!?」

随分大人になった辰馬は、俺を見てヅラと同じように目を見開いた。

「坂本、銀時の様態は!?」

「正直相当危険な状態らしいぜよ、だがわしらには…」


相当危険な状態、じゃない。

今思い出した。

銀時は今日死ぬ。

そう、天で聞かされて。

寿命までなんて生きないから今このタイミングで俺は生まれ変わったんだ。


この一ヶ月、“坂田銀時”の最後の思い出のために俺は降りてきたんだろ?


俺は、手術中と表示された部屋のその扉に体当たりした。

「「!?高杉っ!?」」

「ちょっと君!」

辰馬とヅラに止められて気づいた。

自分がそいつらと同じくらい身体が大きい事に。



この姿で、銀時はわかってくれるかな


「やめなさい!!」


うるさい、うるさい


邪魔すんな!



あいつは何度も何度も俺を狭くて小さな世界から連れ出してくれたんだ


俺は、あいつのすぐ隣で死ぬために今回は生まれてきたんだ



「銀時は、もう今日死ぬ運命だったんだよ!」



扉は

ネジが脆かったのか

はたまた神様が助けてくれたのか




開いた



もう諦め頭を抱えた医者や看護婦の視線が俺に集まった。

「何だね君は!」

「銀時っっ!!」


そんなのは全部振り払って、俺の目には気を失った銀時だけが映った。


「銀時、銀時っなぁ、銀時!!!」


呼んでも、目を覚まさない

もう逝っちまうのか?

嫌だ、嫌だ


一度だけでいいから人間に戻れた俺を


「銀時ぃ!なぁ、逝くなよ!!」


俺を連れ出してくれたときみたいに

「俺が、お前を連れていくんだよ!なぁ銀時!!」



その紅い眼に映してくれよ




「……し、…ん…」




紅い目が、ゆっくりと開かれた。




「…や、…っぱり……………おまえ、だっ…た……んだ…なァ…」



包帯ばかりの腕は弱々しく俺の右腕に伸びた。


今まで気がつかなかったが、
その腕に銀時がくれた首輪がはまっていた。


リン、と鳴る鈴の音が猫の俺と人間の俺を繋ぐ。





「…ほんと、に………来て、…くれ…た…んだ……な」


「……ああ、約束だろ…?」


銀時は最期に弱々しく、だが優しく笑った。









ティラミス色の首輪の猫は


籠の中に閉じ込められていた少年は



大切な大切な銀色の光を


そっと天国へ運んだ







残ったのは

小さな猫と

それを抱きしめた銀髪の主だけだった









“私を天国へ連れていって”




END

豆しばでご存じの方が多いとは思いますが

ティラミス→私を天国に連れていって


色々すいません……!

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