ティラミスと猫(3)
『…何でだよ、銀時』
『だって、俺が一緒にお菓子屋なんかに行こうなんていわなけりゃ晋助、事故になんか…』
『事故に遭ったのは銀時のせいじゃないだろ!!』
俺は、閉じ込められていた。
身体が弱いのをいいことに、
親はずっと俺を閉じ込めて、
周りの奴等は皆野蛮だから付き合うな、って言って。
『お前、名前は?』
『…高杉、晋助…』
小学校のクラスでも一人ぼっちだった俺に、話しかけてくれたのは銀時だけだった。
『この髪長いのがヅラで、もじゃもじゃが辰馬』
『ヅラじゃない桂だ!』
『もじゃもじゃはおまんじゃろ、あっはっは』
銀時のお陰で友達ができた。
銀時が、俺を外へ連れ出してくれた。
銀時が美味しいティラミスを食わせてやるって
はじめて一緒に遊びに行った
なのに、なのに
『っし、晋助────!!!!』
真っ赤な乗用車が走ってきて、ぶつかって視界が真っ赤になって。
それから俺の左目は何もうつさなくなった。
そのせいで、ああ銀時は泣いたんだ。
身体へのダメージが予想以上に重かったらしくて、そこから体調も急激に悪化した。
追いやられたのは死の瀬戸際。
肺が締め付けられるような痛みが走ってナースコールを鳴らす数分前、俺は死ぬのがわかっていたのかもしれない。
『…銀時、俺が死んだらお前は一人ぼっちになっちまうな』
銀時の表情が固まったのを、覚えている。
『……は、…』
『一人ぼっちは寂しいんだ。だから、銀時。』
『止めろよ!!何言ってんだてめぇ!!』
『いや、俺はもうそろそろ死ぬ。わかるんだ』
『………嘘だろ…』
『だから、聞け銀時。
俺は死んでも絶対にお前のところに生まれ変わって来てやる。
人かもしれないし、動物かもしれないし、下手すると植物にだって。それで、一緒に死んで、お前を天国まで連れてってやる』
銀時は怒りと怯えで唇をわなわなと震わせて叫んだんだ。
『嫌だ、そんなの!!ティラミス食わせてやる、一緒に遊んでやる、ゲーセンだってどこだって連れてってやるからっ……』
項垂れた銀時の頭に手を伸ばし、あともう少しで届くその瞬間。
『…銀時、……っう゛っ…!!』
ただでさえ涙で歪んでいた視界がさらに歪んで。
ああ、そうだった
俺は、
猫に生まれ変わって
銀時の、
死を
「…っ銀時っ!!!」
[ 25/82 ][*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[
←]