ハッピーエンド(2)

「いらっしゃーい、晋ちゃん」

彼が店に来るようになって2ヶ月、もはや常連客。

「金時さん、会いたかったわ」

周りの目があるときは女の声を使いそれらしい口調や動作をする。

「では、こちらへどうぞ」

「おい、客の荷物くらい持ちやがれ」

二人だけになると途端に豹変するのも、もう慣れた。

「はいはい」

「いつもの」

「んな飲み屋じゃないんだからさ…」

そして、俺はもうこいつにあってはならない感情さえ抱いていた。

「金時、ジャケットの裾汚れてんぞ」

「え、マジ?」

「貸せ」

俺の裾を引っ張って無地のハンカチで汚れを落とそうとする。

さら、と短い髪が落ちて。
それを左手の細い指で耳にかけるその動作さえももう愛しい。

そう、あろうことか一流ホストの俺は客で男で美人だけど横暴なこいつに恋をした。

「んー…多分大丈夫だろ」

「ありがとう」

言えたことじゃないので、秘密なのだが。

「ねぇ晋ちゃん、今度一緒に遊びに行こうよ」

「………は…?」

しまおうとしていたハンカチを落っことして、ポカンとした表情で俺を見た。

「仕事以外の時間で、さ?」

マフィアに関与する仕事もする俺は、危ない奴等に命を狙われることもある。

が、昼の間ならそいつらが殺しに来ることもないだろう。

高杉は考えるように少し目を泳がせてから、

「…いいぜ」

こくり、と頷いた。

よっしゃ…!

デートの約束、成立!

「じゃいつがいい?空いてる日は?」

「いつでもいい」

「高杉って何の仕事してんの?」

「さぁな」

彼にとっては、知り合いと息抜きをするだけなのかもしれない。

できたら、友達と遊びに行くであってほしい。





「悪い、遅れた」

「へーきへーき、俺も今来たとこ」

集合時間に二分遅れ、彼は現れた。

白地に青の渦巻き柄の裾模様が入った着流しの下に、黒い半袖のインナー、長めのブーツ。

「男物着てる…!!」

「あたりめぇだろ」

いつもは左目を隠すように前髪をながしてその上から髪飾りをつけ固定してあるが、そんなまどろっこしいことはせずに左目には包帯が。

「その左目どうしたの?」

「昔色々あったんだよ」

「まさかオシャr
「違う」

普通の友達のように、恋人のように、一緒に色んなところへ遊びに行った。

一緒に昼食を食って(お互いに甘党な事が発覚)、
晋ちゃんが気になってたホラー映画を見て(今夜は眠れそうにない)、
通りをぶらぶら歩いて、
ゲーセンなんかに寄ってみて。

まるで初恋した小学生みたいにドクンドクンと心臓が鳴って、緊張して、高杉の動作一つ一つにキュンときた。

ああ可笑しいな、男同士のはずなのに。

「今日は楽しかったぜ、金時」

日もくれてきた頃、そろそろ解散にしようという話になった。

やだな、もう少し一緒にいたい、なんて。

もうこのままホテルにでも連れ込んで犯してしまいたい、とか考えちゃうほど。
でもそれは君を傷つける行為にしかならないからやらないよ。
ねぇ、でも。

「高杉、」

背中を向けようとした高杉が見えて、半ば無意識にその腕を強くつかむ。

「何だよ、痛ェな」

少し笑って振り返ったその顔が、夕日を浴びたその顔がなんだか寂しそうだった。


「好き、だよ」


口からこぼれてしまった言葉。

あふれる思いの断片。

俺はどうしてこんなことを言ってしまったんだ。

「………え…」

驚いたと同時に、すごく困った顔をした。


あ、ああ。


どうしよう、どうしよう。

男の俺にこんなことを言われたって、答えは決まってるのに。

おかしいくらいに心臓がバクバクしてるよ。




「……っ、ハハハ…!」

「…?」

彼は俺から顔を背けて、顔に手を当てて笑った。



「馬鹿じゃねぇの!?男を男が好きなんざ、いかれてらぁ!」


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