副業は探偵です(2)
銀魂高校にも試験というものはあって、それもあと二週間というところまで迫っていた。
「坂田先生現国の試験あがりましたー?」
「あ、あともーちょいっす」
生徒がばたばたと勉強する少し前に、教師は忙しそうに問題作りに取りかかる。
そうすると銀八のストーカーも緩くなる。
代わりに、俺があいつが終わるのを待つ。
時としては9時10時位にもなるのだが、まぁ、そのときは溜まり場でぐだぐだと過ごすか銀八と俺の分の夕飯をコンビニで買うから平気だ。
「高杉今日も待っててくれたの?」
「待ってねぇ、気づいたらこんな時間だったんだ」
「もう寒くなるんだから、いいんだよ?」
「だから待ってねぇ。おら、おでん食え」
「俺お前のそういうとこ好きだわー」
鬱陶しく擦り寄ってきたので突き放す。
「今日の体育は珍しく出たんだね」
「人数合わせだよ」
「体育の単位が足りないって月詠に脅されたことも俺は知っている」
「え、何で知ってんだ。お前今日はテストで忙しかったんじゃねーのか」
「職員室から見えるんですよー晋ちゃん」
「……真面目に仕事しろ」
「あと今日お昼飲み物だけだったでしょ。だめだよー成長期なんだからちゃんと食わなきゃ」
「金が足りなかったんだよ」
「あ、俺の飯のために?あーもう高杉ったら可愛い子!」
「きめぇ」
「今夜は銀さん頑張っちゃうね!」
「俺お前の家に行くなんて一言も……」
「明日土曜だし?そのビニール袋の中のゴム誰と使うの?」
「……っ…!」
だめだ、もう完敗。
そんだけ観察力があるってなら探偵にでもなればよかったんじゃないか?
そう言うと、
“俺はお前が浮気しないように見張ってるだけだから”
とかいつも言ってやがる。
俺ってそんなに頼りないか?
すぐに浮気するように見えんのかな?
「銀八はよ、何がしたいんだ」
「高杉見てたいだけ」
「………ばか…」
コートのフードに顔を埋めると、
「恥ずかしがると斜め60度下を見て肩に顔を埋める」
ライターで煙草に火をつけながら何ともないような声でそう言った。
「うっせぇっ…!」
人が減ってきた路地裏で、ぎゅうときついくらいに抱きしめられる。
「寒いからちょーっとだけ、ね?」
「誰かに見られたらどーすんだよ……」
呆れながらも、やっぱり嫌ではないから広い背中に手を伸ばす。
「…今日神威のヤローと一緒に何かしたか、抱きつかれるかしたろ」
「コンビニ一緒に行ったりしたけど、なんでわかんだよ」
「赤い髪の毛お前のコートについてた」
そんな細かいこと、よく気づくな……
……なぁ…
「俺、さ……」
「んー?なぁに?」
「…そんなに、すぐに浮気しそうに見えるか?」
銀八は驚いたように腕を緩めて俺の顔を見た。
「……え…?」
「いつも言うじゃねぇか、俺が浮気しないように見張ってるって」
レンズの奥の紅い目が、一瞬游いだ。
「……うーんと……違うんだよねぇ…」
「あ?何が違うんだよ」
「ストップストップ!!逆ギレしないのー。」
俺が声をあらげると唇に指を当ててくる。
「違うんだよ。」
俺は
高杉の事を、見てるんじゃない。
高杉の事しか、見えないんだってば。
耳に届いて、鼓膜が震えて、
低い声にその意味が乗せられて脳まで届いた。
心臓が高く鳴った。
「ね、違うでしょ」
「……そうだな」
「これだけ見てればわかるよ。晋ちゃんが俺のこと大好きだから浮気なんてしないってことくらい」
銀八がはにかんだように笑って、俺の手をクイと引っ張った。
「さ、帰ろっか。おでん食べようよ。晋ちゃんは今日お疲れ気味だからコーヒーより少し甘いのの方がいいよね、うん、帰ったら先生特製カフェラテでも淹れてあげるね」
ああ、愛しい愛しい俺だけの名探偵さんよ。
俺に関しての観察力と推理力なら、きっとホームズだって顔負けだろうな?
END
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