熱のせい(3)

寝るに寝れず、枕元に置いてあった体温計をくわえて熱を測ると39度1分。

「たっか…」

呟き、ぼんやりと天井を眺める。

銀八が来てくれるって言ってた。

こんなに嬉しい事ってあるか?

銀八の授業がちょうど始まった頃の時間だ。

あと一時間。

脱がされた学ランのポケットから、ライターが転がっているのを見つけた。

「銀八のだ……」

あいつニコチン不足になってねーかな、大丈夫だろうな?


そういえばあいつ、さっき俺の額にキスしてくれたな。

どうせだったら口がよかっ…あ、そんなことしたら銀八にうつっちまう。


銀八の事ばかりが頭を巡る。

銀八、銀八。


嫌だな、がらにもない。




*




「……高杉…?」


戻ってみると高杉はぐっすり眠っていた。


紫の前髪をそっとどけて額に手をあてるとやはり熱い。

起こして薬を飲ませた方がいいんだろうか、と少し悩んでいると。

「ぎ、ん……ぱちぃ…」


目を覚ましたらしい高杉が甘えた声を出した。

かわい……

「ごめん、起こした?」

「だいじょうぶ」

ふにゃりと力の抜けた笑みをこぼす。

「薬飲め、ほら」

高杉の上体を起こしてあげて、ポカリと薬を差し出すと

「…んぅ……」

「!?」


熱い高杉の腕が、俺の腰に抱きついてきた。

ちらりと上目遣いで俺を見てから猫のように頭を擦り寄せてくる。


すげぇ可愛い、ナニコレ。
寝惚けてんのか、誘ってんのか?

「寒ぃ」

くぐもった高杉の声がそう呟く。
寒いと言うものの、熱は高そう。否、高い。

何回か撫でてからそっと高杉をはがし、薬を飲ませた。

「じゃもっかい寝ろ、少し楽になるから」

そう言うと大人しく布団に入る高杉。

「銀八………」

「ん?」


俺の腕を弱々しく掴んで、消え入りそうな声で俺を呼んだ。


「俺が寝るまで、居て」


「………!」

可愛すぎる。
逆にこっちが熱出しそうだ。

「いいよ、居る。」

嬉しそうに笑ってから、俺の裾をさらに強く握った。




*




今だったら、言えるだろうか。

熱と睡魔に半ばおかされて落ち着かない、今なら。

「銀八、」

「どしたの晋ちゃん?」

俺の頭を撫でる銀八の手の冷えた温度が気持ちいい。

「ほんとは、」

「うん?」


「銀八とこれから一週間以上会えないから授業出たかった」

「……うん」

銀八の頬に赤みがさしたのが見えて、ちょっと嬉しい。

「だから、」

この一週間のうち、一回でいいから俺のところに来て?




そう言うと、銀八は強く頷いてから唇にキスをした。


俺風邪引いてるのに。


「……んっ…ふ、ぁ……」


銀八に促されるがままに舌を絡めて、口を離されたら俺は銀八の首に腕を回した。

「銀八、大好き」


いつもは恥ずかしくて言えないことも言えるのは、





きっと熱があるせい。




END


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