熱のせい(2)
雨の中、頭は痛ェし目眩はするしで俺の視界はぼやけていた。
こっから九日間銀八に会えねェし。
「…最っ悪……」
やっと家の近くの十字路が見えてきた。
「──高杉──」
幻聴。
銀八の声、だなんてな。
俺はどんだけあいつが好きなんだよ……。
「おい、高杉!!!」
幻聴…じゃない?
俺は走りながら後ろを見た。
嘘だろ。
銀八がビニール傘をさして、空いた手に俺の折り畳み傘を持って走ってきた。
「……っな……」
思わず涙がこぼれそうになった。
俺のために、そんな必死な顔をして。
でもあんだけ苛立って出てきた手前、甘えられない。
「ちくしょ………」
ただ走る。
追いつかれないように。
それに、会ったら寂しくなるだろ。
*
「高杉!待てっての!」
白衣に泥が飛び散る。
でも知ったことじゃない。
もうすぐ、
もう少しで届くのに。
電柱を曲がり、姿が見えなくなる。
俺もそこを曲がってみると、親が出張中の高杉が一人で暮らしている家だった。
高杉は鍵を回して家に入っていく。
倒れこむように。
「!?」
俺は慌てて玄関へ走った。
*
「…っ、う……」
ヤバい。
玄関に倒れたまま体が動かない。
這って寝室に行くくらいならなんとか出来そうだが、制服がびしょ濡れでどうしよう。
親もいないし、自力で何とかするしかない。
「…はぁ…っいてて…」
関節と頭が痛い。
「…たか…すぎ…?」
息切れした声が、頭上から降ってきた。
この声は。
「…ぎ…んっ……」
銀八、なんでこんなとこまで。
温かいぬくもりが俺を包み込んで、そのまま俺を持ち上げた。
ぼんやりして顔が見にくいけど、ああ銀八だ。
「…冷てェ…」
銀八が呟き、俺をそのまま姫抱きで寝室へ連れていく。
ひとまずゆっくり椅子に座らせてから、タオルで髪を拭いてくれる。
その後に俺の学ランを脱がせた。
「…下も履き替える?」
銀八が俺に聞いてきた。
流石にこんなに泥まみれでは寝れない。
俺は痛い頭を縦にふった。
「パジャマどこ?」
「…そこの、左の…引き出し。」
そこから銀八は黒いスウェットを取り出し、俺の元に持ってきて心配そうに覗き込む。
「…動ける?」
動くのはちょっとキツい。
でもズボンを脱がされるのは流石に……
口ごもっていると、
「!?」
銀八がベルトに手をかけた。
「…っぎんっ…!?」
「つらいんだろ?」
「…っ…」
ああもう、頼んだ、センセ。
楽しそうな顔しやがって、後で覚えてろ。
「…、うっ……」
「っつ、ちょっと晋ちゃんっ、そんな恥ずかしそうな反応しないでくんないかなぁ!?」
「しょうがねーだろ……//」
「両足の太ももの内側すり合わせないで!俺の息子反応しちゃうから!」
「……へんたいじゃねーか…」
銀八にスウェットを履かされ、ベッドに運ばれた。
布団をかけられ頭を一つ撫でられる。
「俺授業やってくる。その後はすぐに薬と飲みもん買ってまた来るから。」
「……ん………」
銀八はそのまま熱っぽい俺の額に優しくキスをおとしてから白衣を翻す。
授業は出れないけど、銀八が来てくれるならまぁいいか。
*
俺は雨の中を再度行く。
まだ五限に坂本の数学があるから時間はある。
薬局に寄って薬とポカリ、ゼリーなど軽い食べ物を買った。
白衣が結構濡れてるけどそれは気にしないようにして、俺は3zの教室に入ってさくっと授業。
授業中にHRの連絡をしてHRは省略。
「雨降ってっからどっかの不良みてーに風邪ひくなよ。じゃ解散。」
さっきのように学校から全力疾走で高杉の家へ走った。
こんなに忙しないのはいつぶりか。
こりゃ明日になったら筋肉痛かもな。
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