刺し違い(2)

「……ん……」


よく見る風景が、ゆるゆると開いた俺の目に写った。

ここは………

「救護室か…?」

何があったんだっけ。

そうだ、天人を斬ろうとして、同時にあいつが……


「銀時っ!!」

俺は跳ね起き声をあげたものの、返ってきたのは腹の痛みだけだった。

痛みでそのまま布団へ逆戻り。

「ってて……」

横に視線をずらすと、血に濡れた包帯が見えて、その先に銀髪が見えた。

体が痛むのに気づかぬふりをして、包帯をどかす。


そこには、目を伏せて死んだように眠る銀時の横顔があった。

「銀時……」

痛々しい赤い包帯が、奴の白い着物からのぞいてる。

本当に寝ているだけなのかさえ不安になり、恐る恐る白い肌に手を伸ばした。

「よかった………」

ちゃんと息をしている。


よくはないか。

わざとではなかったとしても、俺がこいつを傷つけたことにかわりはない。

「…ごめんな、銀時っ……」

痛かったよな。

苦しいよな。

ごめん………

起き上がって、俺は奴の布団の隣に座った。

そっと頬に手を添え、銀時の体温に触れて。

その時、

「っ高杉!?まだ寝ていなければ傷が開くだろう!」

聞き慣れた焦った声が襖の方から聞こえた。

「……ヅラ…」

桶と包帯をもったヅラが立っていた。

正直、今は誰かと話したい気分じゃない。

「ヅラじゃない桂だ、ちゃんと寝ろ!」

「やだ」

「やだじゃない桂─…じゃなくて、そういえばいったい何が起きたのだ?貴様らが両方倒れるほどの強い敵がいたのか?」

ヅラが少し首をかしげて俺に聞いてきた。

さらさらの黒い長髪が流れる。

「…俺が、銀時を刺した……」

「!!!」

ヅラの目が見開いた。

「で、銀時も俺を斬った」

訳がわからんという顔で俺を見るヅラ。

「あとでちゃんと話してやる。…だから、少しほっとけ」

「…む、あいわかった…」

奴は渋々と部屋を出ていった。


「…銀時になら、…斬られてもいいけどよ……」

頬からくるくるの天パを指に絡めた。

「お前を斬るなんて……」

しかもお前は、俺を襲おうとした奴を殺すためにとんできてくれたのに。

俺は、俺は………。


「……許せ、銀時……」




「俺も高杉に斬られるならどうってことねーよ」

「………は…?」

銀時の紅い目が俺を見ていた。

「おまっ、銀時…いつから…!?」

「襖閉める音がして目ェ覚めた」

ということは、ヅラがいなくなったとき。

「っ全部聞いてたのか!?」

「うん。珍しくしおらしくて可愛いよ晋ちゃん」

意地悪く銀時がにやっと笑う。

が、力が入らないのかその顔も少し気だるそうだ。

「…うるせェ……」

俺はそっぽを向こうとしたが銀時に顎をつかまれた。

「っあ!?」

「ごめんね、高杉」

その手は顎から頬を伝い、俺の頭にのびてきた。

そっと頭を撫でてくる銀時の手。

「…俺は、助けに来たてめぇに刀刺しちまったんだ…悪ィのは俺だ」

「いやいや、高杉を見くびって助けにいった俺にも否が」

「ごちゃごちゃうるせェな、俺が悪いんだ──っ!!」

俺の身体に痛みが走って、息がつまった。

「…高杉…大丈夫か?」

銀時も微かに苦痛に顔を歪めながら起き上がり、俺を見つめた。

「…悪い、悪かった、銀時っ…」

俺は痛みをこらえ謝る。

「謝んなよ高杉……」

「でも…俺が…んむっ」

銀時が俺の唇に噛みついてきた。

「…なに、しやがっ」

「高杉が黙らないから口封じたんでしょ?」

「……ってめ…」

「謝るなって言っただろ。両方悪かったんだから」

「……銀時…。」

「俺は許してあげる。高杉も、俺の事──」

銀時の言葉の続きを待ちきれず抱きしめた。

「!いだだだだっちょっ、ちょっと!!」

痛がる声がしたので少し力を緩めたが。

「許すに決まってんだろ」

大声で言いたくなくて、小さな声で呟いた。

「…ごめんね、高杉…」

「銀時…わりぃ……」

俺達は謝りあって、小さく笑いあった。


俺がお前を刺しても、お前は許してくれたなら。



お前が俺を刺して許すだけじゃあもの足りねぇ。



そうだな。



お前は、



お前なら、




俺を殺してもいい。





最後の幕引きの直前まで、


銀時、


俺の側にいてくれ。



そして

『お前の手で殺してくれ。』







愛してる。


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