金では買えないプレゼント(2)

「ついたよ」

小さな声で、耳に吹き込むように囁かれた。
思わず背筋がぞくりとする。

「ああ」

改札を出て地上にあがると、イルミネーションで彩られた公園のような広場が広がっていた。
恋人達から子供連れの夫婦まで大勢の人がそこらじゅうにあふれていた。

「すいません」

「なんすか?」

一人の女性に銀時が声をかけられた。

「あの、写真撮ってほしいんですけど」

女の後ろには、旦那らしき男が小さな娘を抱き抱えているのが見える。

「あぁ、いいっすよ」

あたりは近寄りがたい雰囲気のカップルが多くて、なかなか話しかけられそうな相手が見つからなかったのだろう。
俺達男二人なんて、他人から見ればクリスマスの寂しさを誤魔化すために寄り添う男友達程度にしか見えないから、きっと声をかける相手に銀時を選んだ。

「はーい笑って寄ってー、あっお父さん娘さんに隠れちゃってますよー」

暖かそうな家庭を、その母親からカメラのフィルムにおさめた。

「ほいっ、ちーず」

どんな思いでシャッターをきっただろう。
幼少期から渇望している、幸せな家庭、家族。

「ありがとうございます」
「いやいや。メリークリスマス」

銀時はいつも通りへらっと笑って、俺の方に小走りで向かってきた。

「悪ィな待たせて。行こ」

「ああ」

再び俺の手を握る。

ポケットに突っ込んでおいた俺の手は凍えた銀時の指先の温度を感じとる。

このイルミネーションのゲートを潜るものだと思ったら、銀時はてんで違う方向へ俺を連れていこうとする。

「え」

思わず声がもれた。
その時溢れた息の白さに、自分でも驚く。いつの間にかに気温も大分落ちていたらしい。

「うん、いいから来て」

その言葉に促され、俺は銀時に任せることにした。

人の気配が少ない、イルミネーションの光を遠く感じる細道。
廃墟のようなアパートの錆び付いた螺旋階段に銀時は足を踏み入れていく。
何か出そうな暗闇に、怯えているのか握った手は震えていた。情けねェなァ。

静けさにカン、カンと音を響かせ、銀時の後に続き俺もそいつを登っていった。

「着いたよ」

最上階にたどり着いて、銀時は深呼吸してから振り返った。

三階か、四階くらいの高さだろうか。
静かに冷えた風が吹き上げる。
空は濃紺、半月が雲の隙間から顔を覗かせていた。

「ほぅ」

そこから下を見下ろせば、ちょうどイルミネーションの光を遠くから臨むことができた。

「ごめんな、寒ぃし薄暗いけど…イルミネーションの中も綺麗だけど、ここも悪くねぇだろ?晋ちゃん高いとこ好きだし」

「……ふん、悪かねェな…」

よかった、と銀時は白い安堵の息を吐いて錆びた手すりに手をかける。

「……銀時…」

さっきから、いやずっと前から気になっていることを口にした。

「…ガキ、つくってやれなくてすまねぇな」

「は?」

すっとんきょうな声を出して、銀時は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して俺を振り返った。
いや、そんな驚かなくても。

「家族、欲しいんだろ」

「あ、ああ……なんだそんな昔の、」

「なんだじゃねぇ。」

「………」

さっき見た、幸せな家庭のようなものを味わったことのない銀時はきっとあれを望んでいるんだろう。

俺を選んだから、俺がお前を選んだから、その夢は叶えられない。
お前の欲しがるものを、くれてやれない。

「センセ、何言ってんの」

冷えた指が、俺の頬に触れる。だが俺の方が冷えていたようで、奴の指が温かくすら思えた。

「叶ってるよ。欲しいものなんて、もうここにある」

「………は」

「子供なんて、いいんだよ。晋助がいい。血は繋がらないし、結婚もできないけど俺はあんたがいてくれりゃいい。あんたが、俺を家族と呼んでくれたら俺はあんたの家族だし、それでいいんだ」

俺に抱きつき、痛いほど抱き込んで囁いた。
息が耳に触れて、くすぐったくて、いたたまれなくて。

「銀時、」

「そんなこと考えてたんだな、ごめん」

情けなかった餓鬼が、いつのまにかにこんなに成長して俺を慰めようなんざ。

俺でも、お前になにかお前の望むものをくれてやるのか。

「銀時、お前は何がほしい?」

これを訊ねたのは、何年ぶりだろうか。

「…先生の、ぬくもり」

小さい子供がものをねだるときの少し恥ずかしそうな、そんな笑顔だった。

二人のときは、晋助って呼べって言ったろうが。

お望み通り、俺は左手で銀時の頭を俺の肩に押し付け、俺より背の高くなっちまった銀時の背中に右腕を巻き付けた。

「晋助、」

このでかくなっちまった餓鬼も、俺の背中に腕を回し直して、しっかり抱きしめる。

銀髪の奥に、イルミネーションの輝きがかすんでみえた。

クリスマスに、欲しいものをガキに…いや恋人におくれるんなら、興味もないし好きでもなかったこのイベントも悪くねぇと思えるんだから、俺にしてみれば銀時(恋人)はサンタクロースなんてのにもあながち嘘じゃねぇ。

なんて、やきがまわったな。甘やかし過ぎか。





end





クリスマスは終わっちまったが俺のなかじゃまだまだこれから……(てめっ

すいませんでした。
メリークリスマス!

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