約束(2)

「先生!お久しぶりです!」

「銀ちゃんっ元気にしてたアルかぁ!?」

「久しぶりに差し入れ作ってきたんですよ、ほら卵焼き!」

「お妙さんっ、いただきます!…おっ、料理の腕を…あげ…た…」

「近藤さーん、相変わらず何やってんですかィ」

「総悟、それ以上近藤さんの口にその黒い物体押し込むな!!」

「妙ちゃんの料理…久々だ」

「若ぁぁあそんな謎の物体を口にしてはっ、ぐへらっ!」

「あぁあん先生っ会いたかったわっ!!今夜は私と─ガッ!!」

「床下カラ現レンナ、チョットビックリシタダロ!」

「キャサリン様、猿飛様にお投げになったそのお茶、屁怒絽様に…」

「あぁ、僕は全然大丈夫ですから」

「あっコンビニであんパン買うの忘れた!」

「あっコンビニで求人雑誌買ってくるの忘れた!」

「コンビニでずっとスタンバってました……くす」



「相変わらずかわんねー奴等だな…」


あまりの教え子達の変わらなさに俺は思わず笑った。

でも、物足りなかった。

もしこの場にいたら端っこの方の席で一人で無言で、だけど静かに笑いながら茶でも飲んでいたであろうあいつが。

やっぱり、まだ記憶は戻らないんだな。


来ないんだな……







すっかり日は暮れ夜になり、
同窓会で酔った俺は無意識のうちに駅に向かっていた。


あの日約束したのは、9月10日の10時、この駅に。



まぁ誰も待ってないけど。

高杉とはここでしょっちゅう待ち合わせした。


あの青いベンチに腰かけて待っていたあいつは、

待っていた時間なんて関係無しにふてくされたようにこう言うんだ。




「相変わらず遅ェぞ。どんだけ待たせりゃ気がすむんだ」




「………………え」


空耳だと思った。



でも。



「何時だと思ってやがる?約束は朝の10時にここだったよな?もう夜じゃねぇか」



ベンチに、誰か座っていて。


そいつは一年前の昨日と同じ格好をしていて、
変わったことと言えば片目を隠す白い眼帯だけで、



「……銀八、…待ってたぜ」




黒っぽい紫色の髪と、細い肩を揺らして笑うんだ。


記憶をなくす前の、嬉しそうな恥ずかしそうな笑顔で。


「……た、…か……杉…」

「まぁ、おあいこか。一年も待たせて悪かったな、銀八?」


嘘だろ?

これは酒のせいか?


そっと頬に触れるとそこには熱があって、くすぐったそうに目を細めた。

でもすぐに高杉は、一つしか見えない綺麗な緑色の目から、透明な涙をぽろぽろと溢して俺の指を濡らす。

照れたように赤く染まった頬に落ちる雫を見つめて、俺はうわ言のように呟いた。



「思い、出した…のか…?」

「おう……」


「…高杉っ……!!!」


俺は思わず高杉を力一杯抱き締めた。

いてぇ、と笑いながらも俺の背中にそっと腕を回す。

俺も思わず泣きそうになって、堪えたけどかなわなかった。

その温もりも、
細くて震える肢体も、
髪のやわらかさも、
どこか落ち着く香りも、



あの日から何一つ変わらなくて。


周りから見たらさぞおかしかっただろうな。

男二人が駅前で泣きながら抱き締めあって。



「帰ってくんのが遅ぇよ…この馬鹿杉」

「わりぃ…」


「おかえり」

「ただいま」




「そうだ高杉。…行きたいところは決まったか?」


「銀八の家」


「そっか」



「銀八の家に住みたい」


「……うん」


「銀八、」

「結婚、しよっか。」




俺は高杉の手をひいた。




さぁ、

止まっていた時間を動かして。


一年前の続きを。


一年前に言えなかったことを。




『高杉、大好きだよ』







おまけ

『いつ記憶戻ったの?』

『昨日』

『………え』

『明日は何日かな、って思って』

『うん』

『カレンダー見たら9月10日で』

『おぉ』

『なんかあったなこの日、って思ったら、お前の顔が出てきて…』

『…………』

『そのまま約束思い出して、他の記憶もずるずるっと』

『お前可愛いこと言いやがって犯すぞ』




End

テゴマスの 青い ベンチ から思い立った話です

『この声がかれるくらいに、君に好きと言えばよかった。』

銀高誕おめでとう!

ありがとうございました

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