女々しいくらいに強がりな(3)

俺のマンションに着いたときには夕日が眩しくて、最上階のこの部屋からはなかなかいい景色が拝めた。

暑い、と愚痴をこぼしてソファーに寝そべる晋ちゃんのためにエアコンをつけてやり、さっさとキッチンへむかう。

なんというか無防備過ぎる。
普通彼氏の部屋来て着物はだけさせて寝転ぶ?
いつもの黒いインナーがないお陰で鎖骨も首筋も乳首も見えてる。
畜生、飯より晋ちゃん食いたい…!!とは言わずに無言でパスタを茹でることにした。



「出来たよー」

テーブルに並べて、晋ちゃんの好きそうなワインも一緒に出してから呼んでやると、うとうとしていたのか気だるげに身体を起こした。

「……いただくぜ」

「おう」

フォークを器用に使う指先に見とれていると「お前も食え」と何故か急かされ、俺は自分の分のパスタをつつく。

「んーさすが俺、うめぇ」

「いつもよりテンション高くねぇか」

「そりゃ好きな子と一緒に飯食ってるんだし」

俺の言葉に恥ずかしいのか晋ちゃんは俺に顔を見せないようにパスタを咀嚼した。

「晋ちゃんこそいつもと少し違う気がするんだけど」

「何がだ?」

「いつもよりもデレの比率が高くない?」

「!?」

それを聞いた途端に晋ちゃんは盛大にむせた。

「ちょ、晋ちゃん!?」

慌てた俺はカーペットに躓きつつも水を用意して晋ちゃんの背中をさすってあげた。

「ッ、は、悪ィ……」

酸素が足りないせいにしては顔が赤すぎる、気がする。

「晋ちゃん?顔赤いけど」

「んなことねぇよ」

ちょっともうそろそろいいかな。

「何かあったの?」

「何もねぇ………!?」

俺は晋ちゃんをソファーに押し倒した。

状況を飲み込み次に何をされるかを理解した晋ちゃんは足をばたつかせて抵抗し始める。

「おい馬鹿、まだ食事中──」

「だーかーら、晋ちゃんがどうしてこんなに素直なのか教えてくれたら一旦やめたげる」

彼は言葉を詰まらせる。

「……今日、お前本当に仕事なかったのか?」

「?」

「土曜日、よく来るお得意がいるって前に言ってただろ」

「あー…まぁ、そうだけど…」

そういえば今日は土曜日、8月10日。

「でも今日はさ、シフト組む前に晋ちゃんが誘ってくれたから。日にちと時間まで指定してくれて」

「………今日、…な。」

晋ちゃんは俺の顔を見上げ、また視線をそらし、何とも恥ずかしそうにかわいい顔をして俺の背中に腕を巻いて抱き寄せた。

耳元に口を寄せ、

「っ……俺、の誕生日…今日………だった…んだけど」

小さな声で呟いた。

「………ふぇ…?」

思考が停止した。

タンジョウビ?

タンジョウビって………あの…タンジョウビ?
ケーキ食べたりプレゼントあげたりする、あの?

「晋ちゃん、今日だったの?」

「…………」

こく、と少し頷いた。


「何で先に言ってくれないんだよ!?」

俺は思わず晋ちゃんから身を離して声を荒げた。

彼はぽかんとしている。

「先に誕生日って言ってくれてたら晋ちゃんの好きなお店のケーキ用意して好きそうなブランドのアクセプレゼントして夕飯だって眺めのいいレストランで俺の作ったものより豪華で美味しいの食べさせてあげたのに!」

嗚呼、情けない。

そもそも何で今まで誕生日を聞いておかなかったんだ。
どうでもいい客の誕生日は商売用の頭で覚えてあって、一番大切な恋人のことを知らないなんて。

「……金時…」

晋ちゃんは困った顔をして俺の頬を撫でた。

「……今日、きっとお前は仕事が入ってるだろうと思って、まだシフト組んでないって言われたから…慌てて10日指定したんだ。もう仕事が入ってたら何もしないつもりだった。
日付を気にして、仕事より俺を優先しろだなんて女みてぇだろ?」

「そんなことねぇよ、晋ちゃん」

この人はそんなことを気にしていたのか。
俺は言われなくても晋ちゃんを優先するのに。

「…晋ちゃん、わかってないよ…」

「何をだ」

「俺がどれだけ晋ちゃんを大好きなのか、だよ」

晋ちゃんは色んなことを考えている。
俺は女が嫌いなことを、女を商売道具としか見ていないことを、知っているから彼は女々しい行動を避けようとしているのだ。

誕生日当日に祝ってほしかったんだろう。
だけどそういうこだわりが女々しいと感じたから、俺が煙たがると思って言わなかったのか。

「ねぇ、晋助。
俺はさ、どんなお前も好きなの。お前が当日にこだわることが女々しいと思っても、俺は晋助がそういうことを俺に言って甘えてくれるなら大歓迎だし、そんなことで嫌と感じるなんて絶対ないよ。」

いつも浮わついたことしか言わない俺の建前と本音を、この目の前の恋人はいつから見分けてくれるようになっただろうか。

俺を暴ける唯一のこの人は、静かに俺の言葉を噛みしめている。

「でも、そうやって俺のことを色々考えて隠そうとする不器用な晋助も可愛いから大好き。誕生日くらい教えてよ。甘えてよ。な?」

晋ちゃんの頭を優しく撫でて、少し泣きそうなその顔にそっとキスをした。

まだまだ日付が変わるには時間がある。

「誕生日おめでとう、晋ちゃん」


ありきたりな言葉だけど、誰にもまけない愛をプレゼントしてあげる。








「プレゼントなら浴衣貰ったじゃねぇか」

「浴衣くらい誕生日じゃなくても買ってあげるのに…」


END


もう何も言うまい………
金晋大好きよ、高杉おめでとうございました

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