愛しているを叫んで(10)
「…………今回に限っては、礼を言うぜ」
高杉の言葉に、桂は表情のない顔で静かに首肯した。
銀時は小さく欠伸をしながら高杉を見やるだけ。
坂本はそんな彼等を切なそうな顔で眺めていた。
自分がいないうちに、ずっと幼なじみだと聞いていた戦友達がばらばらの道を辿っていた。
今までなら誰かが捕まったなら助けにいくなんて当たり前のことだったのに、それ一つでもめて、結果として三人とも浮かばれない表情をしていることが、三人の笑顔を糧に宇宙へとんだ坂本にとってどれだけ悲しいことか。
「…ほり、ちっくとヅラはこっち来るがよ」
坂本は桂にちょいちょいと手招きする。
桂は少し首を傾げながら坂本に歩み寄った。
「何だ坂本」
「二人きりにしちゃろう」
縁が切れかけた恋人達に、せめて少しでも二人の時間をくれてやりたかった。
桂もそれには同意したようで、無言で肯定してその場から立ち去ろうとする。
それに坂本も続き、銀時は慌てて二人に声をかけた。
「ちょ、お前らどこ行くつもりだよ」
「陸奥に八つ裂きにされる前に帰るぜよ」
「エリザベスが腹を空かせて待っているからな」
二人の言葉に、高杉は彼等なりの気遣いを察したのか銀時の袖口を少しだけ掴んで見せた。
「?高杉───」
その隙に、と桂と坂本は姿を消す。
「流石は逃げの小太郎。あいつも足速くなったなァ」
「いや足速くなったとかそういう次元の話?」
銀時は二人きりの空間に多少の気まずさを感じながら、とりあえず高杉の頭をぽかんと一発殴った。
「!?っ、!?」
突然の出来事に対処しきれず驚いた高杉が目を白黒させていると、その耳を引っ張って銀時は口を開く。
「お前さー、俺たちが助けに来るとか考えた前提で捕まってたわけ?あんなのに易々と捕まるほど馬鹿じゃねーだろうし、お前の可愛い部下はどうした?何でてめェ一人地球にいるってわけじゃあるめェだろ」
やや説教じみた口調でまくしたてる銀時をはらいながら、高杉はどこか嬉しそうに笑った。
「処刑前に、部下以上に真選組を動かせる奴等に助けてもらう手筈だったさ」
彼の脳内を過ったのは、瓦礫の上で釣りをする白い隊服の男の後ろ姿。
「……あっそ。」
「でも、お前らにもちゃぁんと感謝はしてるさ」
「どうだかな。相変わらず胡散臭ェ」
高杉と二人きりになった銀時は落ち着かないように白髪頭を掻いたりおもむろに耳に指を突っ込んだりしていた。
が、決心がついたように顔をあげた。
「なぁ、」
銀時に呼び掛けられ高杉は無言で振り返る。
銀時の頭には、牢の中で高杉が叫んだ言葉。
静かに腕を伸ばして、少し背の低いその身体に不安そうにしがみついた。
隻眼を見開き、視界いっぱいの銀色にうろたえた高杉に銀時は囁くような声で訊ねた。
「愛してる、って言えばお前は戻ってくんのかよ」
戻ってきてくれるなら、また側にいてくれると言うのなら、何度でもそう叫んでどこにいようと連れ出してやるから。
「高杉」
答えを待ち望む沈黙が訪れ、高杉はそれに押し潰されながら唇を噛んだ。
「馬鹿言えよ」
絞り出されたその言葉に、銀時は凍りつく。
「戻ってくるも何も、先に俺から離れたのはてめぇらだろうが!」
師の奪還のためと倒幕に力を注いだ過去を捨てて、恋人を戦場に残し立ち去ったのは銀時の方であることは変わらない事実で、悔いていないと言えば嘘になる。
それに縛られ続ける高杉を救ってやれなくて、高杉自身もそれにしかすがることができない。
「………それでも、…」
銀時は苦々しい面持ちで、離れようとした高杉を抱きしめ直してさらさらの髪に唇を落とした。
「お前を、愛してることには変わりねぇから」
ごめん、の代わりに。
高杉は身体を強張らせ、今にも泣き出しそうな顔を銀時の肩にうずめて隠した。
嘘くせぇよ、と嘲笑混じりのこもった声でこぼす。
久々のその体温に、囁く声に、目頭が熱くなった。
「…嫌いじゃねぇよ、お前のそういうところ…」
そのぬるま湯みたいな考えも、まとめて好きになったなら惚れた弱み。
静かにすり抜けるように銀時から身を離した高杉は、くるりと身を翻した。
「そろそろ迎えが来る」
「また捕まっても今度は助けねーぞ」
「てめぇこそ捕まっても知らねぇぜ」
お互いの精一杯の心配の言葉はぎこちなく、それでも彼らにとっては十分。
夜に溶け込むようにいつしか姿を消した高杉を見送ると、誰にも聞こえないような声で言った。
「お前は、愛してんのかよ」
「じゃあな銀時、誰よりも愛しているぜ」
『愛している』を叫んで、
END
やっとおわた…………!
このパターンの終わり方多すぎるとかすいません、言わないでください、
私の中の銀高の苦しいところってここなんですよ…
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