愛しているを叫んで(8)

「あっはっはーお巡りさん、なしてわしゃあ捕まっちょるがか?」

「すまいるのホステスさんに営業妨害って通報されたからでしょうが」

「営業妨害?わしゃ愛のままに我がままにおりょうちゃんに告白しちょっただけなんじゃが」

「はいはいあんた局長と似た匂いがしますね」

翌日の夕方、すまいるから通報を受けて現れた真選組に坂本は連行された。

真選組の屯所の前で、坂本は「ほー」と驚いたように声を出した。

奥の部屋まで連れていかれると、職務質問が始まった。

相手は、原田というゴツい隊士と山崎、その他数名。

「名前と職業」

「カツ丼は食えんがか?」

「教えてくれたら考えてやるよ」

「坂本辰馬」

「坂本辰馬──18時34分、っと」

山崎は手元の手帳のようなものに、その名前と彼に手錠をかけた時間を書き込んだ。

「快援隊っちゅう貿易会社の社長じゃき」

「「えええええ!?」」

社長という言葉に、大袈裟なまでに驚く隊士達。

「…なんじゃあ疑うがか。ちくと待っちょれ今名刺を…」

坂本は不服そうな顔で、手錠をかけられたままの腕をコートのポケットに伸ばす。

その指先は、名刺なんてものでなく他のものを探っていた。
坂本がそのヘラヘラした笑い顔が一瞬、高杉と同類の笑みになったことに気づいたものはいない。

彼は指先に触れたそれを握り込みカチリとスイッチを入れ静かに机の下に放った。

「いや、名刺は結構だ。めいし、じゃ、な────」

それから数秒。

先程まで真面目な固い顔をしていた男達は、坂本の目の前でバタバタと倒れた。

坂本が放ったそれは、即効性の強い催眠ガスを放出する球体。
対天人用に作られたものだが、人間に使っても害がないタイプで、ただ持続性が強いだろう。

坂本は手荷物からガスマスクを取り出して顔を隠して呼吸をした。息を止めていたのか、疲れたように深呼吸。
それから隊士の服を漁り、小さな鍵で手錠を外す。


『ええ子はちくと早いが、お休みの時間じゃきにの』

ガスマスクでくぐもった声でそう呟き、坂本は時計を見やる。

そろそろ19時。

『あとは他の部屋にもこのガスを充満させりゃ、わしの仕事は一先ず終わりじゃき』

隠し持っていた球体を両手に、坂本は取調室を出た。



その頃、外に出ていた土方は帰って来るなり屯所の異変を察知した。

建物が、ぼんやりと霧に囲まれたように見えたのだ。

「…どうなってやがる!?鬼兵隊か!?」

土方は袖で口を覆ってから縁側に上がり、障子を引いた。

「なんでィ土方さんは外にいたのかよ」

そこでガスマスクを外したばかりの沖田と鉢合わせ。

沖田のすぐ後ろにはガスマスクを付けた近藤の姿。

「総悟と近藤さんは無事だったか……」

「ああ。総悟が持っていたガスマスクを貸してくれてな」

助かった、と近藤が沖田に礼を言うと、沖田は「これは通販で買った毒ガスを今度土方に浴びせてみようと───いっけね」とわざとらしく口を閉じた。

土方は沖田をジトリと睨み付けてから近藤に向き直る。

「こりゃ一体なんだ?どうして?」

「どうやら屯所に何者かが催眠ガスをばらまいたようでな。皆いびきかいて寝てやがるんだ」

屯所の中の誰か、と言われれば土方は真っ先に考える。
自分達の中に鬼兵隊が紛れ込んでいる可能性を。

向こうからげほごほと咳き込んでどたばたと出てきた他の隊士達に目をやり、土方は二人に言った。

「……俺は起きてる奴を探してくる。近藤さんと総悟、残りのあいつらは高杉のいる牢の見張りを頼む」

「いや、俺が中に行く。トシはここで統率を──

「その必要はねーぞ」


その会話は上から降ってきた声に突如遮られた。

三人は慌ててバッと上に視線を向ける。

「何のつもりだ……」

屯所の塀の上に座り込み、相変わらず気だるそうに小指を鼻の穴に突っ込んで隊士を見下ろしている男。

「辰馬のヤロー、多串君に沖田君、ゴリってめんどくせえのばっかり残しときやがって……」

無論、坂田銀時だった。

「ちょっと訳ありでな」

銀時がふらりと立ち上がるとカン、と瓦が音をたる。
肩に担いだ木刀と月は、彼の過去の姿を彷彿させた。

「このガスもお前の仕業か、万事屋」

近藤が刀に手をかけながら銀時に問うと、

「いやぁ…俺の仕業、っつーか…」

銀時は返答に困ったようにどもった。

「幕府の狗よ!刮目するが良い!」

その次の瞬間にはいくらか銀時から距離を置いた塀の上から声があがる。


そこにいたのは桂。
と、その左腕に囲われた新八。
右腕には鞘から抜かれた刀。

「銀時が俺の言うことを聞かないなら、この少年の首をはねることに決めたのだ!ふはははは」

「この作戦に協力しないとならねぇ理由があれなんだわ」

ふんぞり返って笑う桂と、助けてくださいィィィと大声をあげる新八を指差し銀時は言った。

「桂っ……てめぇ…!」

土方が今にも噛みつきそうに桂を睨み付ける。

「ってことなんで、大人しくしといて」

銀時はひょいと飛び降り、真選組隊士達を木刀で気絶させていく。

一人の隊士に木刀の切っ先が迫った時、土方が飛んで入り自らの刀で木刀の筋をずらした。

「うおっと」

銀時は驚いたように小さく声を漏らすと、土方と刀を打ち合う。
以前一度負けたことのあるせいか、この間の一件のせいか、はたまた全てか土方は銀時に凄まじい敵意を見せた。

「万事屋、お前桂とグルだろ」

「ばーか、わざわざ高杉なんかのためにテロリストなんかなるかよ」

銀時は嘘を吐いて嘲笑した。


「大丈夫ですかね」

塀の上から全てを眺める新八と桂。
桂はいつの間にかにすっかり刀を鞘におさめてしまい、脅している雰囲気の欠片もない。

「銀時か?それともリーダーか?」

「皆ですよ。中にいる坂本さんも含めて」

土方を圧倒し始める銀時を見て、桂は口を開いた。

「大丈夫だろう。高杉も、リーダーを見つけて早々斬りつけるような不届き者にまで堕ちてはいないさ」






[ 73/82 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]


[]




[top]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -