愛しているを叫んで(6)

「高杉が捕まった」

桂は銀時に厳かに告げた。

「知ってらァ」

銀時はポツリとそう返した。

「そうか」

沈黙。
曇り空のせいで日の光が入らない万事屋には何とも言えない空気が流れた。

「……助けに、行くつもりはないのか」

沈黙を破ったのは桂。

「行かねぇよ。もう決めただろ」

「…会ったらぶった斬る、と言ったな」

「お前だってそう決めたんじゃねぇのか」

互いに視線を合わせず伏せ気味ながら、言葉だけが紡がれていく。

「だからといって、このまま処刑されるのを黙って見過ごすというのか?」

「別に誰に殺されようと俺の知ったことじゃねぇな。じゃあわざわざ俺達が会いに行って助けて丸腰のあいつを二人がかりでぶった斬るのかよ」

「仮にも貴様らは恋人同士だったろうが、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ」

言いたいことが上手く噛み合わないのか、桂はイラついたような口調になっていく。

「……ヅラぁ」

「ヅラじゃない桂だ」

「お前よ、甘過ぎるんじゃねぇの」

「同胞が先生と同じ末路を辿るのをこれ以上見たくないだけだ」

銀時も不機嫌そうに口調を荒げた。

「それが甘いってんだよ。お前もあいつもそんなこと承知で攘夷活動してんだろうが」

「銀時もヅラもらしくないのう。」

ガラガラ、と万事屋の戸の音と共に二人を制する声がした。

「「!」」

ずかずかと下駄を脱ぎ客間に入ってきたのは、二人の知己─坂本だった。

二人とも彼の登場に唖然とした。

桂はその驚いた表情で
「坂本、お前地球に戻っていたのか」
と問う。

坂本はにっと小さく笑った。

「おんしらが面白そうな話をしているらしいからの。飛んできたきに」

「どーせキャバ嬢に貢ぎに来てたんだろ」

坂本の冗談に銀時はぽつりとそう呟く。

「まぁまぁ。して、その捕まった美人はどうなったがよ」

「知らねーな。まだ処刑されてねぇなら今日も暗い牢屋ん中で不味そうな飯食ってんじゃねぇの」

「だから貴様にとってあいつは恋人なのだろう?どうしてそんな……」

「お前は心配しすぎだっての。あいつも俺くらい涼しい顔してたぜ」

鬱陶しそうな銀時のその言葉に、桂と坂本の動きが止まった。

「……銀時貴様っ、まさか…」

桂は顔色を変えて唇をわなわなと震わせる。

「…高杉に、会うたがか」

坂本が静かに続けた言葉に、銀時は無言をもって肯定した。

「何故っ、何故助けなかった!?」

銀時の襟元に掴みかかろうとした桂を、坂本が慌てて取り押さえる。

「ヅラ、」

「離してくれ坂本!俺はこいつを一度殴らんと気がすまん!」

「こんなところで仲間割れしてどうするがじゃ?」

坂本は桂をたしなめる。

「おまんは高杉を助けにゆくんじゃろ。こいつが行かんと言うんなら、わしが協力するきに」

いつもの声とは違う、低く落ち着いた声に桂は安堵したように頷いた。

「………好きにしろよ、」

二人に、銀時だけは吐き捨てるようにそう言った。

坂本が開きっぱなしにした玄関の戸の向こうで、二人の子供がその始終を聞いていたとも知らずに。




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