愛しているを叫んで(4)

その日の夕方、近藤に連れられて銀時は真選組屯所に連れていかれた。

銀時はといえば緊張していた。
面と向かって高杉と話すのはあまりにも久々過ぎる。

「…本当に中にいんのかよ、あいつが…」

「いるさ。繋がれてんのに目ェギラつかせてる修羅が」

ガシャン、と近藤は扉を開ける。
錆びた鉄の臭いに銀時が顔をしかめると、檻の奥でジャラリと鎖が鳴り銀時を出迎えた。

「こいつァ珍しい上客じゃねェか」

歓喜と狂喜に満ちた声は、間違いなくかつて自分に“愛している”と言った声。

覚悟はしていたが、それでも銀時は悲しげな顔をした。

鎖と錠に繋がれた細い四肢には赤い痣、一口も手をつけられていない食事の膳、近藤のいうとおり睨み付けるような視線。

「遂に捕まったのな。だーから止めとけってヅラが言ったじゃねェか」

「幕府の犬と仲良く遊んでるてめぇに言われたくねェな」

皮肉をぶつけ合い、長年連れ添った戦友とは思えないほど張りつめた空気に近藤は居たたまれなくなる。

「……万事屋、」

「わかってらァ。高杉、今日はこのゴリラの依頼で俺はここに来た。助けに来たとか勘違いすんなよ」

「お前に俺が頼みてェのは助けじゃねぇ、好きにしろ」

その時、外から声がした。

「局長ー!局長いらっしゃいませんかー!」

外で隊士達が近藤を探している声。

「!あいつら…」

「行ってやれや」

銀時はふらふらと手を振り行けとジェスチャーする。

「安心しろ、今はもう俺はこいつの仲間じゃねぇ。助けるつもりはない」

銀時の言葉に近藤は複雑そうな顔をして、部下の元へと小走りしていった。

「さて、これで二人きりになれたわけだが」

よっこいせ、と銀時は気だるそうに檻の前にしゃがみこんだ。

「お前の部下が真選組に、ってあれ嘘だろ」

銀時の言葉に高杉は驚きすらみせず口角を上げた。

「ああ、嘘だ。どうしてそう思う?」

「どうしてもこうしてもねぇわ。んな得にも何にもならないことお前がするわけねーだろォが。」

「まぁそうだな。手足の数減らすだけで真選組なんて下っぱの情報手に入れても得になんてならねぇ」

「どうしてわざわざ余計な嘘なんかついてんだよ?」

「こんなとこに繋がれるままじゃ面白くねぇからな。退屈しのぎだよ」

愉快そうに笑う高杉を銀時は何も言わず見つめた。

「……近藤に言うか?銀時」

「それは俺が決めることだ、お前の知ったことじゃねぇ」

「おいおい恋人に酷い言われようじゃねーか」

恋人、の言葉に銀時の紅い瞳が揺らぐ。

「……違ェな、お前からすればただの性欲処理道具、か?」

「てめぇっ………!」

銀時は思わずバッと顔を上げた。
視線の先の高杉は今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。

「…何でそんな顔してんだよ」

「ここに入ってきた時のお前の方がすごい顔してたぜ」

高杉は肩を震わせて笑う。

「何をそんなに機敏な反応してやがる?事実だろうが」

「お前を性欲処理道具として見たことなんてねェ……」

「ハッ、馬鹿言え」

吐き出すようにそう呟き、緑色の瞳で銀時をじとりと睨み付けた。

「愛がありゃお前はここから俺を出そうとするだろ?何を捨てても」

高杉は銀時を問い詰めるように言い放った。

「犯罪者になってでも、あの餓鬼共のところへ帰れなくなろうと、俺を助けるだろ?俺に刀を向けてあんな言葉浴びせるんじゃお前の中の愛ってのは御大層なもんだな?……なぁ、昔のお前なら俺を助けただろ…銀時…」

銀時は指の先からじわじわと身体が冷えるのを感じた。

高杉は苦しそうに身をよじって鎖をジャラジャラと鳴らせる。

「…っ高杉……」

もう未練がないと言うのは嘘になる。
愛していないと言うのも嘘になる。

でも、今自分の隣にある護るべきものは。

「お前が俺をまだ愛しているって言うんなら、そう言って抱きしめてみろよ!?」

お前じゃ、ない


「───高杉!」



その時牢獄の扉がバンと開いた。

泣き出しそうな顔の高杉、
檻を握りしめ俯いた銀時、

扉を開いたのは──

「万事屋、何でここに……」

土方。


「…よォ多串君、空気読んでくんない……?」

「知らねぇよ、何でお前がここにいる!?」

力のない銀時の胸ぐらを掴んでかかった土方を、

「トシ、止めろ!」

後から現れた近藤が声を荒げて止めた。

「近藤さん、これは何だ!?どういうことだよ!?」

「俺が万事屋に頼んだんだ─高杉から例の事について吐かせてくれって」

「ふざけんじゃねぇ!こいつと高杉は元仲間なんだぞ!?連れ出そうとしたらどうするつもりだ!?」

乱心した土方の肩を強く掴み近藤は抑えようとするが土方は逆に近藤に食って掛かった。

「……まさか近藤さん、アンタが鬼兵隊の輩じゃ……」

二人の争いを止めることすらせず、銀時は苦い顔をしていた。

「トシ、しっかりしろ!俺は近藤勲、間違いなくお前達の局長だ」

「じゃあアンタは俺を信頼してなかったのかよ……万事屋よりも俺の方が出来が悪いってことかよ…」

銀時は一言、ぽつりと呟いた。

「…俺が聞いても何も話さなかったぜ。悪ィが力にゃなれなかった。」




様々な関係に亀裂が入り、がらがらと遠くで音がした。

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