愛しているを叫んで(3)
「…高杉、食事だ」
牢屋にまた光が差し込み、黒い隊服の男が食事を運んでくる。
白米、焼き魚、お新香。
冷えた食事をちらりと見やり、高杉は隊士に声をかける。
「…俺の処刑日はいつになった?」
聞かれた隊士─先日高杉の懐に刀を刺した張本人、山崎は高杉の放つ独特の雰囲気におされ、震えた声で答えた。
「知らないね。決まってないんじゃないか?」
「まだ殺すつもりはないのか、呑気だなァ」
くつくつと楽しそうに笑いながらそう呟いた高杉を、山崎は不思議そうに見つめた。
「…何だ、用が済んだなら戻ればいいだろォが」
檻越しの視線に高杉がそう言うと、山崎は言いにくそうに小さな声で問いかけた。
「あんたは他の奴等みたいな事は言わないんだね」
言葉の意味がわからない、というように高杉が眉をひそめると山崎は睨まれたのかとびくりと身体を震わせた。
「いや…出してくれとか絶対に言わないんで…」
「“ここから出せば俺達の仲間にしてやる、俺達の下で働けば給料だって上げてやるいい待遇もしてやる、だから出せ”…とか、そんな類いの事でも期待したのか?」
「いや、……」
つまるところ、どうしてそんなに余裕なのかとかそんな話かもしれない。
「んな三下みたいな台詞誰が言うかよ。お前らみてぇなの仲間にしたって特もねぇし、わざわざ頼まなくったって来るんだよお迎えは」
山崎は感じた。
今まで相手にしてきた者達とは明らかに違う圧迫感、余裕、恐怖、妖艶さ。
「そうだな、せめててめぇらに頼むことがあるとすりゃあ……」
言葉を紡ぐ真っ赤な舌が渇いた唇からちろりと覗き自らの唇を舐めた。
「俺の介錯を頼みたい奴がいる」
*
山崎が屯所の縁側に座り込んで日光浴していると、
「やーまざきぃ」
慣れ親しんだ上司、一番隊隊長の沖田の声がした。
「あ、沖田隊長…」
ぼんやりしていた山崎は現実に引き戻される。
「何でィいまいち気合い入ってねーな」
山崎の隣に座り込んで食べかけの棒アイスの続きを食らう上司に山崎は苦笑いを見せる。
「沖田隊長、高杉の処刑日は決まったんですか?」
「いや。まだ高杉を捕まえたことの報告すら上にいってねーと思うぜィ」
「そうなんですか…」
「誰かに聞かれたのかィ?」
「あ、はぁ、さっき食事を持っていったとき張本人に」
しゃく、とアイスを一口かじってから沖田は「あー」と意味もなく声をあげた。
「思ったより自虐的だなアイツ。Sと見せかけて本質M。調教しがいがありまさァ」
「沖田隊長は男でもいけるんですか!?」
「冗談でィ」
一旦会話が終わり、沖田のアイスも大分なくなってきたころ山崎がまた口を開いた。
「…高杉が、自分の介錯をしてほしいって奴を名指しで指名してきました…」
「マジかよ。人斬り似蔵に人斬り万斉、紅い弾丸ってとんでもねぇの従えた鬼総督が話と違うじゃねーかィ」
驚いた顔をする沖田に何とも言えない表情で首肯する山崎。
「正直俺もびっくりしましたけど……確かに言いました」
“白夜叉殿の白装束、俺の煮え立った血で真っ赤に咲かせてやりてェのよ”
「白夜叉殿、って」
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