愛しているを叫んで(2)

「近藤さん、あんたはどう思う」

苛立ちで強く噛みすぎた跡がみられる煙草の吸い殻を携帯灰皿に押し付けながら土方は隣を歩く近藤にそう訊ねる。

二人とすれ違う他の隊士達は「見ろよ、副長がご立腹だ」「何だよいつもの事だろ」「どうせマヨネーズがきれたんだ」なんて呑気な会話をしていく。

「俺はあんな奴の言葉なんて信じるつもりはないさ。…だが生憎、俺は奴の言う通り伊東先生の件を見抜けなかった…自分の目が信頼できんなんて情けないよ」

悩ましげな表情を見せる近藤を見て、灰皿に土方も渋い顔をした。

「俺もあんな野郎の言葉、信じるつもりもねぇよ。第一俺達の中に鬼兵隊の連中紛れ込ませて何のメリットがある?」

「まさか俺のお妙さんプロマイドを盗もうとしているんじゃないか!?」

「こんなときまでボケんのやめてくれねーか近藤さん」

ふう、と新しく取り出した煙草の煙を肺に吸い込み、真面目な表情を取り繕った土方は思考を巡らせながら近藤に言った。

「あいつらにこの事を言えば疑心暗鬼になって険悪な事この上無いに違いねぇ。大丈夫だ、本当に偽物がいるなら俺が何とかしてやるから、大将はそんな顔しねぇででかく構えといてくれ」

つまり、自分一人で何とかして見せると。

「無茶だトシ、せめて各隊の隊長にだけでも─」

「いや駄目だ。総悟以外の隊長共は隠すのが下手な奴ばっかだろ、下の隊の奴等まで不穏な空気になっちまう。変わった事があれば報告しろ、その程度で十分」

「じゃあせめて総悟には、」

「あいつは気の迷いが顔じゃなくて太刀筋に出るタイプだ。ああ見えて案外メンタル弱いから言わない方がいい。──あいつらが本物だったらの話だがな」

「トシ……」

意地なのか、プライドなのか、はたまた自分も不安で、それをまぎらわせるためなのか。

((お前はそう言うものの、一番気にしてるのはお前じゃないかトシ……))


*



「はいはーい、家賃はねーし新聞ならいりませんよー」

新八は買い出しに神楽は遊びに行って珍しく静かな昼下がりの万事屋。
ピンポンとチャイムが鳴り、銀時はジャンプを片手ガラガラと音をたて玄関の引き戸をひいた。

「こりゃ珍しいな。恋愛相談はお断りだぜ」

そこにいたのは、気難しい顔をした近藤。

「いや、─今、中に新八くん達はいるのか?」

「悪ィな、今は俺一人だ。新八に用があるなら──」

「いや、都合がいい。子供には聞かせにくい話だ」

銀時は不思議そうに首を傾けた。

「万事屋、これは内輪揉めみたいなもんだ。受けてくれるってなら報酬は十分払うが嫌なら断ってくれて構わない。とりあえず依頼内容を聞いてくれないか」

「ゴリラのくせに今日はやたらしおらしいじゃねーか。まぁ聞いてやるよ」

銀時は近藤を万事屋に招き入れ適当に茶を入れてやった。
一段落した頃、近藤は静かに口を開いた。


「……高杉晋助を捕獲した」


一瞬、銀時の動きが固まった。

「………は…?」

動揺のあまり気の抜けた声をだした銀時に近藤は続ける。

「白夜叉からしてみれば元同胞だ、驚くのも無理ないと思うが」

「いや、いやいや。白夜叉だからーじゃなくて!あいつみてぇなのがよく捕まえられたな」

おどけた口調でそういう銀時の膝の上の両手は、焦りと驚きと不安とに強く握りしめられ震えていた。

「捕まえたところまでは良かったさ。だがな、」

近藤は話した。
真選組の中に、隊士の変装をした鬼兵隊の者が紛れ込んでいると高杉に伝えられた、と。
それを土方が一人で解決しようとしていると。

「本当に情けない話なんだが、トシの言うことも一理あって真選組のあいつらには言わない方がと俺も思っている─でもトシ一人じゃあいつが壊れちまう。だから少しでいいから、高杉から何か聞き出してくれないか?あんたなら高杉の言葉のうちに何かあるだとか、嘘か本当かくらいわかるんじゃないかと思ったんだが…頼む!この通りだ!」

近藤は深く下げた頭の上で両手をぱん、と合わせる。

「…いや、まぁね?そりゃ自分のこと捕まえて牢屋にぶちこんでる野郎共よりかは俺が行った方がいいとは思うけどね?」

近藤の言い分もわかるが、正直銀時だって紅桜の一件があり、高杉の真意なんてそう読めたものではないのだ。

「つか近藤よォ、お前はもし俺がまだ高杉と繋がっててこの依頼に乗じて高杉救出を企むとかは考えないのかよ?」

銀時がふと訊ねると、近藤は小さく唸った。

「…ないとは言わないな。それでも頼れるのはあんただけだし、今まで付き合ってきてその可能性は薄いし、もし本当に連れ出そうとしたならその場でうちの隊士達があんたか高杉の首をはねるさ」

「おーおーおっかねぇ。」

そう返しながら銀時は立ち上がり、木刀を帯にさした。

「万事屋……!」

高杉の名が出た時点で銀時の中では確定していた。

「…真選組局長ならたんまり払ってくれそうだし、行くぜ」

会うことすら困難な恋人の顔を拝みに行くと。

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