寂しがり屋は静かに嘆く(4)

「…カラスの行水…」

「短いってか。てめーが長風呂なんだよ」

銀髪と白い肌を濡らした銀八はいつ見ても色気があってぞくぞくする。

銀八も静かに冷蔵庫に向かい苺牛乳を取り出す。

今までならこの後、押し倒されて気絶するまで抱かれるとこなんだが……

「お前もう11時だぞ、そろそろ餓鬼は寝ろや」

ぽん、と優しく頭を撫でられそう言われた。

「っ……餓鬼扱いすんな、」

お前が寝かさねーんだろ、と続きを言いかけ慌てて口をつぐんだ。

禁句、だよな。

「俺がソファーで寝る」

「え、いやお前客だし」

「俺の方が体小せぇし」

「いやいや無理すんなって」

「お前の方が無理だろーが」

ベッドでは寝るどころが身体が疼いて泣いてしまう気がした。

「…そんなに言うなら布団敷くか?」

「気遣いいらねぇから。なんなら泊まらねぇで帰──」


そこまで言いハッとした。



車もバイクも車庫にあった。
こんなに部屋も散らかってて何の準備もないなら、銀八の家まで来てから俺を車かバイクで俺の家まで届ければいい、のに。


「………何で俺を泊めた?」


俺がその質問をぶつけると、銀八は驚いて目を見開く。

「………何でだろーな、」

困った、と言わんばかりに頭を軽く掻いてからキッチンに向かっていく。

「?」

奥の棚をごそごそと漁り、冷凍庫の中も探る銀八。

まさか。

「おら、これ学校に持ってくの面倒だったんだよ」

どさどさ、と音をたて雑にテーブルの上に置かれたそれの正体なんて言わなくてもわかるだろう。

「……は…?」

大量の、手作りの菓子。

「ホワイトデー」

銀八はどこか照れ臭そうにそう言い煙草に火をつけた。
煙はゆらゆらと立ち込め天井へ登っていく。


「…これ、全部か…?」

「食いきれなかったら返品か、お前もそれで女共にお返ししてやれ」

目の前のそれらは冷凍庫で見かけた量の三倍はある。

正直いつもの俺なら食いきれるわけがないと銀八に押しつけるところだが、別れた恋人が俺を思ってこれだけの菓子を作ってくれた。

ああ、愛しくてたまらない。

銀八。


今まで堪えて、抑えてきた感情がぷつりと糸が切れたように溢れ出した。

「………銀八」

それはいとも簡単に形を変え、目からこぼれ落ちた。
男のクセに情けねェの。

「…高杉!?」

ぼやけた視界のあちら側で、銀八の驚いた顔がぼんやり見える。


好き、大好きだ銀八。


「んっ、!?」

突然強く引き寄せられて、何が何だかわからなかった。

その場で視界がぐるりと一転していた。

その後、やっとキスをされて押し倒されたんだと頭が追い付いた。


「……銀八…」

俺の涙を静かに指でぬぐい熱い瞼に唇をおとして俺を痛いくらいに抱きしめる。
それが心地好くてたまらなくて、必死に俺も抱きしめ返す。

「高杉、ごめん」

もうしないって決めてたのに、と申し訳なさそうな銀八の小さい声が俺の鼓膜をかすめた。

そんなの嫌だ。
もっと欲しい。

俺の方からキスすると、銀八は我慢しきれないというように俺の首筋に顔をうずめた。

「っ……あ、…」

肌に噛みつかれぢゅうと吸われる。

キスマーク、所有印。

まだ自分だけのものにしたいってか。

構わない、もっとその愛と独占欲で縛ってくれるなら本望。


「ごめん、愛してるよ」


泣きながらそう繰り返す銀八から沢山の愛撫を受けて、まるで壊れ物を扱うかのように優しく抱かれ、俺は溺れて気を失った。

快楽と、背徳感と、後ろめたさと、懐かしさと、愛しさと、寂しさと、銀八の涙に。

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