吉原哀歌(6)

外の世界は紫陽花の見頃の梅雨も終盤、ついに彼女の身請けまで一週間をきった。

坂本からの便りも桂からの便りもなく、彼女はもう諦めかけていた。


「姉様、夕食の時間っすよ」

「そこに置いておけ」

そっけない態度をとる姉女郎に、膳を運んできたまた子は泣きそうな顔で言った。

「……姉様、最近ほとんどご飯食べてないじゃないっすか…」

「食欲がねぇんだ。病かねぇ」

ふぅと煙管の紫煙を吐きながら彼女の口からそう言葉がもれる。

「……っ」

「病だったら困ったな、処分されちまう」

むしろ処分してくれ、と言わんばかりの自虐的な笑みを見せる彼女に、また子は怒ったように声を大きくした。

「嫌っす!姉様は病気なんかじゃなくて、…あの河上って奴に買われるから辛いんでしょう!?」

言われた本人は静かに目をふせる。

「あの男は嫌な奴じゃないし、──」
「我慢しないでいいっすから、姉様」

また子は上擦った声でそう言い放ち、優しい青緑の眼から涙をぼろぼろ溢しながら床に膝をついた。

「…何でお前が泣くんだ…」

「姉様が大事だからに決まってるじゃないっすか!」

彼女は震えるまた子の金髪頭をそっと撫でてやる。

「お前は本当にいい奴だな…ありがとう」

「何言ってるんすか…」

「ほら、そろそろお前も忙しい時間だろ、戻りな」

はっとしたように顔をあげ慌てて涙を拭う禿にくすりと笑って見せると、

「あ、はい…」

その娘も苦笑いしながら部屋を後にした。


部屋に一人残された彼女はまた涙を溢した。


最近自分は泣いてばかりだと自己嫌悪しながらも止まらないものは止まらない。

まだ化粧はしていないから崩れる心配はないが、目が腫れてしまうと目を擦り止めようとした。

『泣かないの…つか、そんなに目擦ったら痛くなるぞ』

いつかの銀時の言葉を、声を思い出して止まらなくなる。

その繰り返しで。


「銀時っ………」























「梅雨はもう終わったよ、紫陽花……いや、晋」




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