※青桃表現あり





「そういえばもうすぐバレンタインだね。名前はテツくんに何あげるの?」

今日は同中で親友(今はそう呼べないかもしれない)のさつきとショッピングをした。彼女とはとても相性がいいし、お互いに思っていることを素直に言い合えるので一緒にいるのが楽だ。中学のときはそれで友人関係に僅かな亀裂を生んでしまったけれどそれはもうぎたこと。

「……あげない、かなぁ…」
「ええーっ、なんで!私からテツくんとったくせに!」

そういう言い方やめてよ、と苦笑して私は抹茶ラテを口に含む。ああ、今は少しくどかったかも。やっぱりブラックコーヒーでも頼んでおけばよかったかな。

「冗談だよ、今はそんなこと思ってないし」
「今は、ね」
「もーっ、そういう風に人の揚げ足とらないの!」

不安なときにする名前の悪いクセね、って言われて、彼女にはかなわないと嘲笑した。
もうすぐバレンタイン。浮かれていたつもりはないけれど(元々そんなガラじゃないし)、でもなんとなく、浮き足立っていたんだろうなぁ。しかしなんでか今では急に冷めてしまって。きっと彼は甘すぎるのは好きじゃないです、と言いながら耳を赤くして貰ってくれると知っているのに、私は手作りする気も、買う気も失せてしまった。

「名前は元々買うの、好きじゃないもんね」
「とりあえず火神にはあたし渾身のトリュフ作って渡す」
「名前トリュフ上手いよね、無駄に」
「そんなこと言う子には教えてあげない」
「冗談だよ名前ちゃん。機嫌直して〜」

今年は大ちゃんに目にもの見せてやるんだから!と言ったさつきは如何にも「恋が楽しいです!」と言った顔をして。いやまああたしも楽しいけど。表情に出ないんだよなぁ。

「じゃあ今度は材料買いに行かないとね」
「私名前の生チョコが欲しい!」
「はいはい」


□ □ □


『貴女が何を考えているのかボクには分からない』

さつきとショッピングに行く何日か前、表情が読み取りづらい彼にこんなことを言われてしまった。別にそんな難しいこと、考えてないんだけどなぁ。

『そういう意味じゃないです。…分かりませんか?』

いや、なんとなく分かるけど。でもそれはあんただって同じじゃん。ただあたしは口下手だから言いづらいだけで。でもあたしはなんであんたが言わないのかよく分かんないし。口下手って訳じゃなさそうだけど。

『…もういいです』

なんなんだ、全く。あたしは選択を間違ったのだろうか。やっぱり抹茶ラテじゃなくてブラックコーヒー?ブラックコーヒーじゃなくて抹茶ラテ?あのとき好きって、大好きって、笑って言えばよかった?違う。そうかもしれないけど、なんか違う。掴めそうで掴めないこの感覚がもどかしい。彼もこんな気持ちを抱いていたのだろうか。だとしたら私はあのとき何を言えば彼は掴むことが出来たのだろう。

□ □ □


「え、名前まだテツくんとケンカしてたの!?」

2月11日。今日は二人で遊ぶのも兼ねてさつきにトリュフやら何やらの作り方を教えている。ついでに、彼女が欲しいと言っていた生チョコを作って、少し早めの友チョコを渡すつもりだ。
そのとき少しだけ彼との一件を吐露したのだけれど、さつきには何もかもお見通しらしい。まだ、って言われちゃった。さつきが彼を好きなのを知っててあえて応援しなかった私の狭い心なんて、彼女は丸分かりなんだな。

「早く仲直りしなよ、もうすぐバレンタインだよ?」
「やー…まぁ、そうなんだけどー…」
「何があったの?二人なんだかんだ言って仲良かったから、そんなにケンカ長引くなんて珍しいね」

生クリームと溶かしたチョコレートを混ぜていく。生クリームがチョコレートの中に消えるうちに私の口も緩んできて、ぽつりぽつりと彼女に事の経緯を話した。





「ふーん……名前、それって……」

「え…っ?」


□ □ □


「今日はありがとね、名前」
「そんなことより当日失敗しないでよ」
「任せて!今年はいつもと違うんだから!」
「はいはい」
「あれ、名前どこか行くの?」
「……まぁ、ちょっとね」

じゃあね、と言ってさつきと別れてから私はすぐに走り出した。沈んで重かった気持ちも段々軽くなっていって、自然と少しだけ笑ってしまう。私は下り坂を思いっきり走った。


□ □ □

2月14日。バレンタイン当日の朝。私は教科書などが入っているいつもの鞄とは別に、手作りチョコレートを入れた小さな鞄を持って家を出た。
バスケ部の先輩方の分、河原くん、福田くんの分に降旗くんの分。あと他より少し大きめな火神の分(いっぱい食べてくれそうだから)。それともう一人、ラッピングも入っているチョコレートも違う彼の分。それをまじまじと見て、それからゆっくり息をはいた。よし!

「火神、ハッピーバレンタイン」
「お、おう。これ、トリュフか?」
「きっと火神の方が美味いんだろうけど、まあ一応、同じバスケ部だし」
「お、おう。サンキュ……」

火神の視線を追うと何食わぬ顔で椅子に座って本を読んでいるわが彼氏、黒子の姿が。あぁ、私が先に火神に渡したから機嫌悪そうだなぁ、と思いながら火神に大丈夫、と目配せして、私は彼に近づいた。

「黒子、はい」
「……なんですか」
「黒子は甘すぎるの嫌だって言ってたからちょっと工夫した」
「………」
「それだけじゃないよ。本命だからみんなより大きいしラッピングも違う」
「……………」
「好きだよ、黒子」
「な…っ」

あ、やっぱりこれだったんだ。さつきの言葉がどこまでも当たっていたので、私はちょっと面白くなってしまって、くすりと笑ってしまった。

「何笑ってるんですか」
「ごめんごめん」
「……ありがとうございます」
「いえいえ。あたしも鈍くてごめんね」
「全くです」
「でも黒子もぶきっちょだと思う」
「ぶきっちょって……」

不満そうな顔をする彼の頭を優しい手つきで撫でていたら、それも気に入らなかったのか俯かれてしまった。でも透き通る水色の髪から普段より赤くなった耳が見えて、声には出さなかったけれどやっぱり自然と表情が緩んでしまった。本当、不器用だなぁ。



∴聞こえるよ、ぜんぶ




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Happybirthday to kuroko!!
ついでにバレンタイン記念も

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