※提造あり・長い・進展なし



黄瀬のバスケが好きだ。
プレーしている姿を見るのも、バスケに対する姿勢も、彼がバスケに関わっている時間を見るのが好きだ。他のところは嫌いか好きかと聞かれたら、答えられない。ただ言えることは、私は普段の彼にはあまり魅力が感じられないということ。
見つめ続けて約7ヶ月。私が彼と会話したこと、目を合わせたこと、触れたこと、すべて0回。

「結局さー、名前は黄瀬のことが好きなのか?」

昼休み。席が近い笠松と幼なじみの由孝と弁当を食べながら話していた。いつも一緒に食べる友人達が今日は用事があったり彼氏と食べるとのことで一人寂しく弁当を食べていたら笠松と由孝に馬鹿にされて(主に由孝に)なんだかんだで一緒に弁当を食べている。笠松とは由孝を通して知り合い、多分他の女子よりは会話しているから少しは慣れたんじゃないだろうか。

「いや、お前は女子じゃないだろ」
「心の声を読むな。あと言っていいことと悪いこと、そろそろ区別つけようね由孝クン」
「まあいいからさ、質問答えろよ。好きなのか?」

よくない、とため息をついてペットボトルのキャップを開ける。

「…分かんない。黄瀬のバスケしてる姿は好きだけど」
「…名字よく俺らの死角から覗いてるよな」
「え。バレてた?」
「バレバレだよ。あとたまに立ったまんま寝てるだろ」
「あと最近名前体育館来る前にそこら辺で昼寝してるだろ」
「なんでそんなことまで知ってんの…?」

一応死角から覗いてるんだけど。さすが二人、と言ったところか。でも今はそんなことよりこっちの方が重要だ。

「もしかして黄瀬にもバレてる…?」
「まさか。俺らは事情知ってるから分かるけど、結構遠いし。な、笠松」
「ああ。大丈夫じゃねぇか、多分」

笠松のフォローなのか違うのか分からない言葉をもらって、とりあえずはプラスに考えることにする。

「じゃあバレてないってことにする」
「そんなに好きなら試合見に来ればいいのに」
「やだ。バレるかもしれないじゃん。それに黄瀬のことあんま好きじゃないと思うし」

ペットボトルの水を飲んで、キャップを閉める。何だか弁当は食べる気にならなくて、半分以上残して蓋をした。バスケ部覗くときに食べよう。

「じゃあ名字は黄瀬に恋愛感情は持ってないのか?」

笠松にそう聞かれて私は眉を寄せた。黄瀬が好き。黄瀬のバスケが好き。それは黄瀬を好きなことになるのか、バスケを好きなことになるのか、はたまたどちらでもないのか。

「んー…?どうだろ?私は黄瀬が好き、じゃなくて黄瀬のバスケが好き、だからなぁ」
「じゃあモデルの黄瀬は嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけどー…大人ぶってる感じがするからあんま好きじゃない」

そんな私と笠松の会話を聞いていた由孝がひらめいたようにこう言った。

「それってただの優越感なんじゃないか?」
「は?」
「黄瀬のファンは大抵顔がいいから好きとか、なんでもできるから好きとか、かっこいいとか、モデルだから好きとかそんな奴だろ」
「や、私に聞かれても…」
「でもお前は黄瀬のバスケが好き。ようは周りと違う見方をしてる。周りが見ない黄瀬を知ってる。その優越感に浸ってるんじゃないか?」

由孝にそう言われて、名前がなかったこの感情に新たな名前候補が付け足された。優越感。確かに、今までで一番しっくりくる言葉だ。

「それって結局は黄瀬が好きってことなのか」
「そうなんじゃないか?なんかよく分かんなくなってきた…」
「私も…」

結局不完全なまま昼休みは終わり、私達は元の席に戻る。今思えば男子二人に女子一人で恋バナ(しかも残念なイケメンの由孝と女子が苦手な笠松で)とはなんとも異様な光景だった。


□ □ □


だるくて仕方なかった午後の授業も終わり、生徒は部活に行く人と帰る人に別れる。私の友人達は昼休み同様用事があったり彼氏と帰ったりでもう校内にはいない。私も、高校卒業するまでに一人くらい彼氏ほしいな、と思いながら上履きを下駄箱に置く。いつもならこのままバスケ部の体育館に行き、死角から覗くんだけど今日はそんな気分じゃないのでそのまま帰る。夕日が沈みかけていて、オレンジと青の僅かなコントラストを生む。
優越感。由孝に言われたその言葉を復唱する。確かにそうなのかもしれない。じゃあ、でも、黄瀬に対して優越感を持っているのは何故?好きだから?じゃあ、なんで好きになった?
自問自答して、納得いかない答えに苛ついた。もう一度空を見上げると、夜なのか夕方なのか分からないどっちつかずな空に、自分を重ねた。黄瀬を好きなのか、好きじゃないのか。わたしは真ん中で、ふらふらさまよっている。


□ □ □


次の日。朝に弱い私はいつも昼過ぎまで寝ているのだが、由孝の電話によって10時くらいに起こされてしまった。どうやら部活に必要な何か(寝起きの電話だったからよく覚えていない)を忘れていってしまったらしく、学校に持ってきてほしいとのこと。最初は渋っていたが、アイスを奢ると言われて重い体を起こす。寝起きだから遅くなるかもと付け足して電話を切った。
着替えて、顔を洗い髪を整える。薄いメイクをしてから靴を履いて近所の由孝の家に向かう。おばさんが明るく迎えてくれて、由孝がごめんなさいねぇ、今度晩ご飯ごちそうするから遊びに来てねと言われた。やった。

「じゃあ、おじゃましました」
「いいえ。またね名前ちゃん」
「はい」

小さな紙袋を渡され、また歩き始める。我が家から海常高校は近くもなく遠くもなくなので、なるべく早く行けるように近道を通り早歩きをする。しかしまあ、こんなに朝早く(私にしてみれば)から部活なんて、やっぱり名門校のバスケ部はすごいなー、と感心する。初夏の少しあつい日差しに、そういえばもうすぐインターハイがあると由孝が言ってたことを思い出す。そりゃあ気合いも入るか、と一人納得した。考えながら歩いているうちちに目的地に着いたので、私は体育館に急いだ。

「……」

ちら、と体育館を覗く。そういえば、さっきは寝起きだったから気づかなかったが、バスケ部に行くということは黄瀬と会うということなのだ。今更になって訪れる緊張。でも由孝を待たせるわけにはいかない。勇気を出して体育館に足を踏み入れると、そこにはタオルやらドリンクやらが置いてある。しかし人は誰一人見当たらない。きょろきょろと辺りを見回していると声を掛けられる。

「あのー…」
「…!」

そこには、黄瀬涼太がいた。きらきらの金髪に、眩しさを覚える。いつも遠目か後ろ姿しか見なかったから、こうして見るのはもしかしたら初めてかもしれない。整った顔立ちを感心して眺めていたら黄瀬の顔が引きつる。

「あ!あの、由孝は?」
「森山センパイっスか?俺以外の生徒はみんなロードワーク行ってるんスけど…」

なんてこった。じゃあ二人きりになるのか。整った顔や体を流れる汗は、言わずもがな目の毒だ。私は覚悟を決めて黄瀬に近づき、こう言った。

「私、由孝にこれ持ってきてって頼まれたの。悪いけど、渡しといてくれる?」
「ああ、分かりました」
「もうすぐインターハイなんでしょ?頑張ってね、エースくん」

若干引きつった笑顔を一緒にそう告げて、体育館を離れた。一度も後ろは見ずに校門まで歩いて、そこでやっと息をついた。…覚悟を決めてからは、案外平気だった気がする。顔は直視出来ないけど、まあそれは誰だって同じでしょう。ドキドキもしなかったし。あれ?じゃあ私、やっぱり黄瀬のことは好きじゃないのかも。しばらく頭の中で葛藤してから、やっと気付く。私は別に、黄瀬のことは好きではなかったんだ。
結論が出てしまえば今までの感情を整理するのは簡単なことで、私は自販機で炭酸飲料を買って口に含む。ぱちぱちとした感覚がとても爽やかで、まるで今の私の気持ちみたいだ。私は軽やかに家路を急いだ。


□ □ □


「おー黄瀬。監督直々の特別メニューはどうだっ…」
「森山センパイ…これ、幼馴染サンから」
「ああ、名前、来たのか。入れ違いになっちゃったな」
「…名前サン、って言うんスね………」
「…え?黄、黄瀬……お前…」

これがまだ序章だったなんて、誰も分からなかったのだ。まあ、この男は分かっていたのかもしれないけれど。

「超可愛かったっス……」


ハッピーエンドは望んでいない




無駄に続きます
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