伸びてきた右手に髪を括っていたヘアゴムを取られて、ばらばらと解けた髪が肩をくすぐった。向かい合った先のヒロトは、何を考えているのか、否、こういう時はたいていの場合そういうことを考えているのだけれど、翡翠の瞳がとても楽しそうに揺れている。こちらから奪い取った赤いヘアゴムをくるりと回したヒロトの指先は同じ男だとは思えないほど白くて長い。それにどきっとしてしまったのが悔しくて、ふいと視線を逸らした。耳にかけていた髪がその動きに合わせてふわりと落ちて、頬に当たる。その髪に先ほどこちらの髪を解いたヒロトの指先がやっぱり触れて、仰々しく持ち上げたかと思うとそこに唇を落とした。

「髪、伸びたね」

 手にした一房の髪をさらりと梳きながらヒロトが言った。視線は指先が弄ぶ髪の先に落ちていて、そういうときのヒロトの少し伏し目がちの視線はたまらなくきれいだと思う。やっぱりどきんと心臓がはねて、それを悔しいと思ってしまうのは自分ばかりがヒロトにどきどきしているみたいだからだ。それと単純に至近距離で見つめられることが恥ずかしいのと。だから「枝毛見つけるのやめてよ」と文句を言ってぱしんとその手を振り払った。
 ヒロトはそんなこちらにぱちぱちと何度か瞬きをして、それからくつくつと笑う。むっと唇を尖らせると宥めるように唇が、今度は額に触れた。ヒロトの唇はその色の悪さからは想像もつかないくらいの熱を持っていて、なんとなくその熱に丸め込まれてしまう。ぐいっと迫りながら指先を絡められて、簡単には逃げさせてくれない。
 ヒロトの熱を持った唇はだんだんと下に滑って、鼻筋、鼻の頭、そうして上唇を食まれる。それと同時にゆっくりとヒロトのベッドに(そう、言い忘れていたけれどここはヒロトの部屋で、ヒロトのベッドの上で見詰め合っていたのだ)押し倒された。瞬間ふわりと舞った髪の毛が、ぱさぱさと音を立てて布団の上に散らばっていった。

「やっぱり髪、だいぶ伸びたね」
「そりゃあ髪だもん、時間がたてば伸びるよ」

 先ほどから髪のことばかり口にするヒロトは、いったい何が言いたいのだろう。まさかエロいから髪が伸びるのが早いのなんてお約束通りのセリフだったらドン引きだなと思いながら現実的な言葉を返す。ヒロトがどの時点から伸びたといっているのかわからないけれど、この前髪を切ったのはもう二か月ほど前だからそりゃあ伸びてなかったら逆におかしい。いつの間にか肩甲骨のあたりまでくすぐるようになってしまったからそろそろ切りに行こうとは思ってはいるのだけれど。それでもたぶん、ポニーテールができるくらいの長さは確保しておくつもりだった。別に女の子になりたいだとかそういう願望をもっているわけではないけれど、今更髪を短くするのも変な感じで結局ポニーテールを続けている。

「緑川の髪、好きだな」

 そういってまた唇を髪に寄せるヒロトがいるから、やめられないというのもあるのだけれど。



やさしく撫ぜてね


(2012/05/11 * title)
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