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零れ落ちた



 柔らかな蛍光灯の白い光がピンク色の髪の毛を透かしてひらりと飛来してくる。午後二時、練習がない日曜日なのにあいにくの雨。本当は二人でどこかに出かけようと思ったのだけれど、思いのほか雨脚が強いからやめようという話になったのはついさっきだった。霧野の部屋が雑然としているのはいつものことで、だから唯一座れる場所であるベッドに腰掛けて、足元に転がっていた雑誌を手に取ってぱらぱらとめくる。これもいつも通り。霧野は霧野でがさごそとなにかを探しているようだったし、お互いの沈黙に気まずくなってしまうような、そんな浅い付き合いではないので気がついたら雑誌に熱中していた――のだけれど。
 青の瞳がこちらを見下ろしている。捕食者の目だな、と思って少し笑った。小さな笑い声は雨音にまぎれる前にきっと霧野に届いただろう。

「神童」

 緩やかに鼻の頭に降ってきたキスを、その声音の甘さとともに甘受する。きりの、名前を呼ぶと今度は唇が塞がれた。その暖かさと甘さにとろりととろけだす気持ちが雨音を遠ざけていく。


◇ ◆ ◇


「……っあ、」

 小さな喘ぎがあがって、霧野がぎゅっと眉根を寄せる。サッカーをしているときよりもずっと、綺麗な表情だと思う。そんなことをいったら怒るかもしれないから言わないけれど。身体を繋ぐような関係になってほぼ一年。そのうちのほとんどが今日のように霧野から始まるものだった。手を伸ばして汗の浮かぶ頬に触れて、そうすると霧野はへにゃりと笑う。

「きもちい?」

 もうすでにとろけているかのような声音にぞくりと背筋が震える。そうするとすでに繋がっている箇所にも痺れが伝わるようで霧野が「ひゃっ」と声を上げる。その容姿から女扱いをされることを嫌う霧野だけれど、なぜか行為に及ぶ時は女役をやることがほとんどだった。こちらとしては霧野が笑ってくれれば、満足してくれればそれでよかったからどちらでもいいと言ったのだけれど、「神童に負担がかかることはしたくない」なんて言われてしまえば従わざるをえなかった。
 それは暗に、どころかはっきりと霧野に負担がかかると言っているようなものなのだけれど、いいからといって押し倒されてキスされてしまえばあとは霧野の好きにさせてやるしかなかった。流されてるとは思うけれど、求められていると思うとその手を振り払えない。

「霧野、つらくないか」

 いまだ眉根を寄せたままの霧野の輪郭に沿ってそっと指を滑らせて、生理的な涙の滲む目尻をそっと拭ってやるとくすぐったそうに肩をすくめる。そうすると結いっぱなしだったピンクの髪の毛がさらさらとその肩に揺れて、やっぱり光を落とした。蛍光灯の安っぽい光もそのピンクを透かすとどうしようもなくきらきらと鮮やかになるから不思議だ。そっと手を伸ばして届く右側だけ髪ゴムをとる。

「しんど、お?」
「霧野、やっぱりかわいいんだな」

 ぱさりと広がった髪の毛が生み出した陰影が、先ほどとは違う表情を霧野に与えているようだった。もう片方にも手を伸ばして、だけどそちらは利き手じゃないから少しだけとるのに苦労する。「いた、」と小さくもらした霧野に慌ててすまないと謝ると仕方ないなぁというように笑われて髪を触る指先に手を添えられた。ふわり、ピンク色の中に白い光が舞った。

「神童の方が、かわいい」

 憮然と言い放った霧野の頭が落ちてきて、だからちゅっと唇を触れ合わせた。解いた髪の毛がぱさぱさと頬を撫でていく。まるで光をこちらの顔にふりまいているようでどうしようもないくらいにきゅんとした。どくんと熱を持つ自身に霧野が敏感に反応する。

「ッあ、ぁ……」

 いいところをついたらしい、がくりと肘をついた霧野に今度はこちらからキスをしかけてやる。唇はやっぱり甘ったるくて、さらなる甘さを求めるように奥まで舌を入れると不安定な体勢をしていた霧野がびくりと跳ねてこちらをしめつけた。

「っ……」
「あ、う、しんど、お」

 甘ったるい声で名前を呼ばれる。その声に促されるままに霧野の身体を穿つ。律動に合わせて耳元をくすぐるその吐息が余計に熱を高めていくのを感じながらぐいと腰を進めた。雨音はいまだに遠くて、ただ甘ったるい空気が世界を構成するすべてだった。



(2012/03/03)
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