※24歳基緑がいたしてるだけ
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 後ろから柔らかに抱きしめられるからつい笑いを落とした。いつの間にかそうされることが当たり前になって数年が経つ。いつかよりもずっと健康的になった肌の色や、きれいな形をした指も、だから見慣れたものだった。それでも何度されても心臓はきゅんとするものだから、それがひどく幸せな気持ちを呼び起こす。昼下がり、久しぶりになにもない日曜日。優しく香るのは先ほど淹れたコーヒーの匂いだ。

「リュウジ」

 耳元で囁かれた名前が鼓膜を揺らし心臓をくすぐっていく。

「ん、なに、ヒロト」

 背中に感じる暖かな体温にとろりと心が溶けだすのがわかる。二人で行動をすることが多いとはいえ、それは仕事であることが多いから、こんな風にヒロトの体温を感じるのは久々だった。浮かれていく気持ちを誰が責めるというのだろう。だからヒロトの指先がゆっくりと服の裾を侵入してきても抵抗は形だけだ。

「まだ昼間だよ」
「だめ?」

 大人びた表情をすることが多いヒロトだけれど、その実とても甘えたであることに気が付いたのはもうずいぶんと昔だ。甘ったるい声で、それから少しだけ不安そうな瞳でそんなことを言われたらノーなんて言えるわけもない。服の中に侵入して脇腹をなぞった指に服の上からそっと掌を重ねる。服越しでも確かにわかる熱がどうしようもなく愛おしいのはヒロトだけではないのだ。

「だめなわけないだろ」

 とん、とヒロトの背中に体重を預ける。一瞬驚いて手を止めたヒロトはだけどすぐにへにゃりと笑った。ふわりと香ったヒロトの匂いが柔らかに身体中を満たしていく。


 ◇ ◆ ◇


 陽光の中で行うその行為はひどく背徳的な気持ちを呼び起こす。だからなのか、いつもよりもずっと身体が熱くなるのが早い気がする。普段はレンズ一枚に隔てられているヒロトの瞳がいつもよりもずっと近くにあって、それも熱を高める要因なのだけれど。とろとろにとろけさせられた口内から銀色の糸がひいてぷつんと切れた。
 ヒロトがこだわりにこだわり抜いたソファは少し身じろぎをすると微かに軋む音を立てて弾んだ。押し倒された姿勢で見上げるヒロトはいつもとは違った雰囲気をしていると思う。そのことがただでさえ快楽に揺れる心臓を余計に波立たせていく気がした。お互いもうなにも身につけておらず、さらり、ヒロトの髪の毛が裸の肩を撫でていく。そんな微弱な刺激でも身体はびくりと跳ねて、小さな喘ぎが唇からこぼれた。とっくにほどかれた髪の毛がばらばらとソファに当たる音がする。ヒロト曰く、ソファのクリーム色にこちらの緑の髪の毛が映えるらしいけど自分で確認する術はない。

「んっ……」

 散々指先でも舌でも弄ばれた胸の突起はどうしようもなく熱くて、ぺろり、それなのにヒロトの舌が余計に熱を高めようとしている。すでに限界に近い身体はもっと強い刺激を求めていて、ヒロトはそれがわかっているはずなのにゆるゆると指と舌で刺激を与えてくるだけだ。焦れて存在を主張するヒロトのそれに手――は物理的に辛かったので、足をあげて膝で撫であげた。生まれた刺激に一瞬苦しそうな顔をするヒロトにしてやったりと笑うと、むっとした顔をされる。

「余裕だね、リュウジ」
「あ、なに、っあ……っ」

 仕返しとばかりにそれまで腹をくすぐっていた手がヒロトよりもずっと余裕なんてあるはずのないこちらのそれを撫でるから、自分が発した高くて甘ったるい声が鼓膜を揺らした。がくがくと震える身体にソファが軋む音。このままだと意識すら流されてしまいそうで「リュウジ」と呼ぶ声に向けて手を伸ばす。掴んだ肩は体温の低いヒロトにはめずらしいくらいに熱を持っていた。背筋がぞくりと震える。

「肩、凝ってるね」

 その肩の熱にすら感じてしまったことが恥ずかしくて、照れ隠しみたいに別のことを言う。ヒロトはその言葉に少しだけ動きを止めて、「そりゃあ、仕事してますから」と返してきた。そうしてこちらの肩に降ってきたキスはくすぐったさだけを残してすぐに離れていく。

「肩叩きでもしてくれる?」
「俺がしてほしいくらいだよ」

 にっこりと笑って言うヒロトにため息交じりで返してやる。否、ため息はヒロトの指先が入口を叩いたことによって簡単に甘いものへと変わってしまったのだけれど。

「リュウジの肩叩きならしてあげるよ?」
「……お前、絶対それだけじゃ終わらないだろ、って、わ」
「うーん、そうかもね」

 悪びれる様子もなく言ってのけて、その間に当たり前のようにするりと侵入してきた指先に今までで一番身体が跳ねた。ヒロトの長い指はくいくいと探るようにこちらの中を移動する。そんなことしなくてもいいところがどこかなんてとっくに知っているだろうに、こちらの反応を窺うようにゆっくりと指を動かしていくヒロトは本当に意地が悪いと思う。

「そ、こじゃな…いっ」
「え、けどここでも気持ちいいだろ?」

 ぎゅっと肩を掴みながらそういうと、わざと乱暴にヒロトが指を動かす。突然訪れた刺激に「ひゃっ」とあまり色気のない声が上がった。ヒロトはそんなこちらに動きを止めて、大袈裟にため息をつく。ため息の意味がわからなくて、なに、と聞こうとしたけれどそれはできなかった。一瞬で指が引き抜かれて、そうして代わりに慣れた動作でヒロトのそれが入ってきたからだ。ずんと遠慮をせずに入ってきた熱量に頭の中が真っ白になる。つい掴んだ肩に力がこもって、だけどそうやってヒロトが痛みに眉をしかめるのすら身体に震えを呼ぶのだから、もうどうしようもない。

「ヒ、ロト」

 生理的に滲んだ涙がこぼりと零れ落ちて、視界が先ほどよりもクリアになる。ヒロトが眉をしかめているのが肩を掴むこちらの力のせいだけではないことは、熱を増していくだけのヒロトのそれでよくわかっている。早くなる律動に上がる高い声に飲みこまれてしまう前に名前をちゃんと呼んでおきたくて、ぱくぱくと餌が欲しい金魚みたいに口を動かす。

「ヒロト、好き……っあ、」

 舌たらずな言葉になってしまったけれど、きちんとヒロトに届いたらしい。眉をしかめたまま、だけどへにゃりと笑ったヒロトは「俺も」と言って額に口づけをくれた。それに答えるように自分も笑ったはずなのだけれど、熱に堪え切れなくなったかのようにヒロトがいままでよりも奥に腰を進めてくるから全部がうやむやになってしまった。


◇ ◆ ◇


 緩やかに香る、コーヒーの匂いで目が覚める。いつの間にかきちんと服を――といってもヒロトがパジャマ代わりにしているジャージだけれど――を着せられていた。それとブランケット一枚。袖が少し余っていることに不満を感じながら身じろぎをすると、目が覚めたことに気が付いたらしいヒロトがにっこりと笑った。自分はちゃっかりしっかり服を着て、コーヒー片手に新聞なんて読んでいる。

「おはよ、リュウジ」

 のそのそと近づいてきて、そっと頭を撫でてくる指先がまだ少し熱を帯びていて、どうしてかきゅんとした。おはようと返すけれどちらりと確認した時計はまだ午後三時で、まだヒロトとこうしていられる時間があることにほっとする。隣に腰をおろしてきたヒロトの太股に頭を乗りあげて、その顔を見る。「足りないのかい?」なんてセクハラまがいのことを言われるけれど、その問いに言葉では答えずに、ただ目を閉じることで意志表示する。「え?」と困ったように言ったヒロトに「ん」と強請る声音で催促。そうするとやっとわかったのか、くすりと笑ったヒロトがコーヒーカップをなるべく遠くに置いて、その、まだ熱が引かない唇を押しあててくるまで、そう時間は必要なかった。




微熱を帯びた

(その唇、手、すべて)


(2012/02/29 * title)
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